マイスター公認高級時計師(CMW)がいる高度な技術のお店
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国際時計通信『水晶腕時計の興亡』
時計の小話
続・時計の小話
121話〜140話
長野県の諏訪地方に時計産業が発達したのにはいろんな理由があります。
スイスとよく似た気候風土で、内陸部の寒冷地であった事や、ねばり強くて辛抱強い人柄や、 豪雪地帯で交通の便が非常に悪かった事などにより仕事が少なかった事などがが考えられます(その点では北陸地方も似てるかなと思います)。
そして諏訪地方の特産物であった養蚕業が斜陽化し、若く質のいい労働力が余剰気味であった事も幸いしたかもしれません。
それにもまして一番の功労者は、何と言っても初代諏訪精工舎(現セイコーエプソン)社長の山崎氏の努力に負うものが多いと思います。

スイスと似通った点は多々ありましたが、一点だけ違うのが大きく立ちはだかり、災いしました。
それは、湿気(湿度)がスイスと違って非常に多かった、と言う事です。
創立当初の諏訪精工舎も、この湿気の多さに、ほとほと弱り、難渋したとの事です。
腕時計を組み立てて出荷しても、機械の錆で止まり、苦情が多かったと言う事を聞きました。

諏訪精工舎の著名な女性時計技術者・中山きよ子さんは手に汗をかかない事で有名で、彼女が組み立てた腕時計は、錆付かなくてクレームが少なかったと言う事でした(現在ではどの工場も空調設備がしっかりしていてそんな心配は杞憂でしょうが)。

日本は高温多湿のジメジメした気候風土なので、精密機械等にとっては、非常に難敵な土地柄です(そして1年に1回必ず梅雨時がやってきます)。
いくら、防水時計で水に浸けなくても、空気中の湿気が時計内部に入り込み、錆を起こさせるという事も充分、考えられます。

スイス高級腕時計は、当初「アンクルホゾに注油しない」と言うのが一般的常識でした。
アンクルホゾに注油すると、油の抵抗でアンクル竿の動きが微妙に悪くなり、天府の振り角に影響を及ぼし低下します。
しかし日本では湿度が高い為に、アンクルホゾに油をささないと、ホゾが錆びて停止すると言う故障の原因になったりしたのです(実際そういう事例に多く当りました)。
ロレックス等はアンクルホゾに油をささないのが普通でしたが、当店では錆防止のために、アンクルホゾに注油します。

約40年前の腕時計は、真鍮側の金メッキやクロームメッキが多かった為、汗をひどくかく人や日本の湿気の多さの為に、2〜3年でケースが錆だらけになり、極端な場合、緑青がふいて腐食のため小さな穴が開いたこともあったほどでした。
10、20気圧防水の腕時計と言えども、水泳したり、サウナに入ったり、車の洗浄の時には、過剰な水圧がかかり水が入らないとも限りません。
スキューバーダイビングの時は、万が一水が入っても安価な使い捨て出来る防水クォーツをはめられる方が賢明ではないでしょうか。

●時計の小話 第162話(くわばら くわばら)●

映画ファンの方なら皆さんご存知の『スティング』という面白い洋画があります。
ROLEXデイトナを愛用して人気に火をつけた、ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード主演の痛快詐欺師の話です。

日本でもこれと同じような詐欺師に遭った時計宝石店があります。
一つは、東京銀座の…店の話です。

いかにも紳士然とした身なりのよい中年男性が、街の中で見知らぬ若い女性に声をかけました。
「私にもあなたと同じ年頃の娘がいます。誕生日が今日なので思い切って何かいい品をプレゼントしようと思っているのですが、若い女性の好みが全くわからないので、仮の私の娘になってイイ指輪を選んでもらえませんか?」と頼みました。
親切な若い女性は気持ちよく快諾して、見知らぬ中年男性と有名時計宝石店へ入っていきました。

店に入って、その詐欺師は「娘に何かイイ指輪をプレゼントしたいので、お店にあるとっておきの良い品を見せて頂けませんか」と店員に言いました。
そこで、その店主は自店にある選り抜きの指輪を何点か取り出し、その詐欺師に見せました。
その詐欺師は、その店の自慢のダイヤモンド指輪(5カラット・Dカラー・VVS1クラス・時価数千万円)に心を惹かれたように見せかけ、「天然ダイヤは太陽光線で見ないと本当の美しさはわからないと聞いたので、店先の所へ持って行って見てもいいですか?」と訊ねました。
店主は「もちろんいいですよ」と言いました。

そして詐欺師は5カラットの指輪を手にして店先に出て、一目散に逃げ去ったのです。
店主はビックリして、店に残された娘さんに「お父さんはどこへ行かれたのですか!?」と聞きました。
するとその若い女性は「全く見ず知らずの人で、街で声をかけられ、こうこうこういう訳で来たのです」と言ったのです。
騙されたと気が付いた店主は110番通報して犯人を捜しましたが、結局その詐欺師は捕まりませんでした(警察の話では、「日本でも珍しい大粒の良質のダイヤなので、換金する時に必ず足がつく」と、店主に慰めていましたが、結局はそのダイヤは海外で処分されたのか、見つからなかったのです)。

もう一つは大阪の有名時計宝石店であった話です。

育ちが良さそうに見せかけたな中年詐欺師が、獲物の的にした時計宝石店を訪ね、「妻に何かイイプレゼントをしたいので、指輪か高級時計を見せて欲しい」と言いました。
そしてその詐欺師は、云十万円相当の指輪を値切りもしないで現金で気持ちよく買って行きました。

しばらくして、また店に来店し、自分用の云十万円程の腕時計を、また現金で値引き交渉もしないで買いました(イイお客様だという印象を其の店に植え付けたのです)。
そこの店主はいい顧客になると思い、その詐欺師に「お名前と住所をお聞かせ願えませんか」と言いました。
するとその詐欺師は「名前と住所を言うと、ダイレクトメールとか訪問販売とかが迷惑なので言わないのです。」と言って帰って行きました。

そうこうするうちに、その時計宝石店に電話がかかり、「覚えておられると思いますが、2〜3週間前に指輪と腕時計を買った何某だが、今度定期が満期になったので、妻に大きなプレゼントをしたい。500〜1000万クラスの指輪を家に持ってきて貰えないか」と言ったのです。

そこで店主は宝石商社から何10本と委託で1000万クラスの指輪を取り寄せ、家を訪問したのです
(その訪ねた家は売り家で、数億円相当の豪邸でした。詐欺師は相棒の女性と結託して、「高価な家を買うのだから1週間位住まして欲しい。住んでみて良かったら買う」と不動産屋に言ってまんまと騙したのです。なかなか高額中古家が売れないご時世ですから、不動産屋は「これはうまく、まとまるかもしれない」と思い、その詐欺師カップルに申し出とうり、1週間の約束で住ませたのです。詐欺師はその家を借りる事に成功し、いかにも長年そこに住んでいるように家財道具を運び入れ、準備万端ととのってから、時計宝石店主を家に呼んだのです)。
店主はその家構えを見てスッカリ安心し、すごいお金持ちだな、と思ったわけです。

早速応接間に入り、持って来た高額指輪を詐欺師に見せました。
詐欺師曰く「うちの家内は恥ずかしがりやだから、ここに来るのがイヤと言っているので、の部屋にこの指輪を見せに行ってもいいか」と聞きました。
店主は「どうぞどうぞ」と勧めました。
そして詐欺師は総額何億円もの指輪を持って奥の部屋へ消えたのです。

しかし、10分待ち、20分待っても戻って来ないので、一抹の不安を覚えた店主は、奥へ様子を窺いに行きました。
しかしもう、もぬけの殻でした。
この見事な詐欺師も、まだ逮捕されていません。
くわばら、くわばら。

●時計の小話 第163話(京都の女性からの電話)●

8月6日火曜日に京都の若い女性から電話がありました。
電話の内容は、小林敏夫先生著『基礎時計読本』を売られていますか?という事でした。
小生、時計技術の本は沢山持っていますが、当店では書籍は販売していないので、東京のR書店を紹介しました。

少し関心があったので、その若い女性に「これから時計技術を習得されるのですか?」と問いました。
彼女曰く「妹が9月に時計学校へ入学するので、今はその準備でとても繁忙なので、お姉ちゃんこの本、探しておいて、と言われて、ヤフーで検索して、貴店を見つけて電話をかけました。」という話でした。

近江時計学校・ヒコみずの時計学校でもなく、何とスイス・ニューシャテルにある、WOSTEP時計学校に入学して、寮に入り、4年間勉学するという事でした。
費用も日本の時計学校と比較してあまり差がなかったので、思い切って本場のスイスに行って勉強したいという事でした(授業はフランス語でやるために、前もって語学学校に入って仏語をマスターしたとの事でした。すごい情熱ですね)。

若い女性が大きな夢を持って海外へ飛躍していく行動に、私は日本の若い女性のたくましさを垣間見る思いでした。
スイスでもそうですが、日本の諏訪セイコー・第二精工舎でも、多くの若い女性が機械時計を組み立て・調整している現場を私は若い時に工場見学をして見ています。
ドイツ・グラスヒュッテの高級腕時計メーカー『ランゲ・アンド・ゾーネ』社の従業員287名の内、6割の人が女性であることからも判るように女性には超精密作業が向いているのです。

時計技術は根気・器用でさえあれば男女平等に習得できる技術だと思います。
逆に言えば、きめ細かなハートの持ち主である女性の方が適している職業と言えるかもしれません。
今でもそうですが、数年先には時計修理技術者が足りなくなるのは目に見えてわかっていますので、多くの若い女性達が時計技術習得の扉をたたく事を期待しています。

●時計の小話 第164話(クィーンセイコーについて)●

石川県のEさんから、1963年製(第二精工舎)のクィーンセイコー(Cal、330 23石)の修理依頼を受けました。

中2針で薄型に作られていて地板等は全て金メッキが施されていました。
なかなか美しいムーブメントでした。
特に驚嘆したのは小型婦人用ムーブであるにもかかわらずヒゲ棒の間のヒゲゼンマイ遊び隙間の調整が、丸型レバーを回す事により簡単に微細な調整が出来るように工夫がされていたこと事です(女性用でこんな完璧な機構をもった機械は今まで見たこともありません)。
名機のセイコー45キャリバーもそうですが第二精工舎がいかにヒゲ棒隙間に苦心惨憺し固執・拘泥してきたか窺い知れます。

最近何回となくメカ式クレドールの機械を見ましたが、ヒゲ棒隙間調整に対して、昔ほど丁寧な作りがなされていません。
おそらく、あのやり方ですと、昔の機械を凌駕するのは難しいのではないかと私見ですがそう思います。
若い現役のセイコーインスツルメンツの時計設計技術者の方々に苦言を呈したいのですが、第二精工舎の過去の名機(ロレックスと比較して何ら遜色がないほど素晴らしい機械)をもう一度じっくり見て研究されたらどうでしょうか?(いいお手本の機械が一杯あるのですから、そして井上三郎先生、久保田浩司先生、小牧昭二郎先生、依田和博先生等、最高の先輩がおられるのですから)。

Eさんのクィーンセイコーは素人がいじったか?あるいは未熟な職人がいじったためにヒゲゼンマイが滅茶苦茶に壊れていました。
このごろ多いのですがアンティーク・ウォッチの修理依頼を受けますと素人の方がいじっているのによく当ります。
時計の修理は簡単ではないので素人の方は絶対機械をいじらないようにお願いしたいです。

時計の小話 第165話(カルティエについて)

カルティエと言えばロレックスと並び評される一大時計ブランドメーカーです。
世界中で圧倒的なファンを獲得しています。
サントス・タンク(戦車の意味)・パシャ・シリーズは人気があり誰もが一度は手にしたいと時計と言われています(舶来衣料業をしている私の長兄はパシャを愛用しています)。
カルティエと聞けば胸がジーンと熱くなるファンもいるでしょうし、カルティエ(叉はもう一方の雄、ブルガリ)と聞いても何ら反応しない人もおられると思います。

私はどちらかと言えば後者でしょうか。
何故かと言えば、デザインは秀逸のものがあるのですが、技術力がありながら、ETA社のムーブメントを多く採用しているからです。
高価格で売るカルティエなら、少なくても自前のイイ機械を作って搭載して売るべではないかと思っています。

年間生産量は推定40万本前後でしょうか?(ロレックスより少しだけすくないでしょうか)
創業は1847年、フランス・パリにて宝石商として始まりました。
ゆうに150年の歴史がある重みのあるブランドです。
冒険家サントス・デュモンの依頼を受けカルティエ三代目当主ルイ・カルティエが腕時計を開発した話は特に有名でサントス・シリーズのネーミングの根拠はココから来ています。

2002年SIHHでカルティエは新機構の手巻き機械式キャリバーを開発・発表しました。
18石Cal、9901MCがそれで、二カ国の時刻表示を一つのリューズで出来ると言うコンプリケーションで本当に美しい惚れ惚れする機械です。
緩急針を焼入れスティールを採用しC形の青色がひときわ光芒を放っています。
ただし、240万円もするとちょっとやそっとでは手が出ませんね。

時計の小話 第166話(我が愛するセイコー舎へ)

限定GSの仕入れで少しセイコーと関係が拗れましたが、今でも日本の日本人による精工舎の時計が好きです。
なぜこんなにセイコーが好きな体質が私の体に住みついているのか、あれこれと考えてみました。
やはり一番の影響は父でしょうか。
父はセイコー社が大好きで(株)服部時計店と直に取引している事に、終生、誇りを持っていました(30〜40年程前は服部時計店と直に取引している時計店は極限られた一部の有力時計店のみでした)。

そして、セイコー卸商の栄光(株)や、太陽興業(株)とも取引をしていました。
2〜3ヶ月に1回は大阪に仕入れに父は行っていました(その頃のSEIKOの卸商はセールスマンが腕時計を何百個と持って地方の時計店を回って売り歩いていました。車ではなく汽車での出張でしたから大変な重労働でしたでしょう。日本時計師会(幹事)加藤先生を紹介していただいたのも父が可愛がっていた太陽興業(株)のセールスマンの方からでした。思い起こせば太陽興業(株)の社長さんは長身で三代目服部時計店社長・服部正次氏によく似た方でした)。

実家の店頭にはいつも500本以上のSEIKOがウインドウに所狭しと並べてありました(当時の価格帯は6000円〜30000円位がメインでした。今の価格にすると3万〜20万円でしょうか。大変な数のセイコー腕時計の在庫を父は持っていました。店の奥にも常時100本くらいの在庫が常にありました)。

シチズン、リコー、オリエントやラドー、テクノス、インター、ロレックス、エニカ、シーマ、ジュベニアその他もろもろは合わせても50本もなかったような気がします。
それほどまでに父はセイコーに肩入れしていました。
またSEIKOがよく売れた時代でもあったのです。
私と同じように父もセイコー社の手抜きのしていない見事な機械が好きだったに違いありません。

『世界のSEIKO』と言われて久しいですが、現在のSEIKOにその言葉が当てはまるのかと言えば少し疑問に思わざるを得ません。
何故、SEIKOが現在の姿にまで凋落したのか、いろんな問題点があると思いますが、一番の原因はクォーツ(あえて言えば精度のみに)に執着し過ぎたためでしょうか。

今ではスイス時計業界に大きく水を空けられているような気がします。
名実ともに『世界のSEIKO』と言われるように、ツゥールビヨン、メカ式永久カレンダー、メカ式スプリッドセコンドクロノグラフ、ミニッツリピーター等を余力が残っている今、開発・発売して欲しいと思います。
売れる売れないは別にしてSEIKOの底力を国内外に発揮・発信して欲しいと願っています。
メカ式四大コンプリケーションを発売したら、すごいインパクトがあると思います。
それが出来る高度な時計メーカーであると私は確信しています。

●時計の小話 第167話(なぜメカ式を買うべきか)●

最近、スイス四大高級腕時計メーカー「Pia…」のクォーツの修理依頼を受けました。
K18金無垢ケースで云百万円もする高級機種なので、どんな素晴らしいクォーツの機械が入っているか裏ブタを開けるまでワクワクしていました。

しかし、中の機械を見てビックリ落胆しました。
何とETA社Cal.956-112が入っているではありませんか。
ETA社Cal.956-112の姉妹キャリバーCal.956-114は、ムーブ一式が僅か1,200円で入手出来る代物なのです。
云百万円もする腕時計の中の機械が…千円?では消費者を煙に巻いていると言っても言い過ぎではないと思います。

クォーツが登場した40年前頃は、おそらくムーブメント単体の値段は10万円前後したものと思いますが、最近のマイクロエレクトロニクス技術革新で、驚愕するコストダウンに成功しています。

例えば、セイコー(タイム・モジュール)の13種類、シチズン(ミヨタ)の15種類、スイスETA社の17種類、RONDA社の9種類、ISA社の4種類、フランスエボッシュの4種類、のクォーツ・ムーブの2、3針又はカレンダー付きのムーブメント単体は時計店に何と600円〜2,500円で入ってきます(勿論、GSクォーツ、ザ・シチズンのクォーツ・ムーブはそれなりに高いでしょうが)。

このことからもわかるように、最近のクォーツ腕時計の機械は想像を絶する安さなのです。
中古(アンティーク)腕時計市場でクォーツが人気がなく、格安の値段がつくのがわかるというものです。

高級クォーツ腕時計を買う人は、この事をハッキリ認識して、買うべきではないかと思います(目まぐるしい技術革新で10年も経てば時代遅れの骨董品になってしまうのがクォーツの運命なのかもしれません)。
それと比較して、メカ式はどんな安い時計を買っても、クォーツほど安い機械は入っていないと思います。
クラブツースレバー脱進機である限りどんな安価であろうとも高等技術者にかかれば精度が出るのがメカ式です。

クォーツ・ムーブメントが余りにも安く生産できる為に、クォーツの修理を依頼受けたメーカーのサービスセンターが、分解掃除という手間と時間とお金のかかる事をしないで、新品ムーブとごっそり交換してしまうという荒療治をしてしまう事は、この理由で判って頂けると思います。

時計職人は、クォーツ修理依頼を受けてそのような事をすれば信用を失いかねません。
なぜなら、交換新品ムーブには地板に完成メーカーの名前が印刷されていないからです(エボッシュ名は刻印されてはいますが)。
どんな安いクォーツ・ムーブメントでもあろうとも、修理料金を頂く以上、時計職人は時間をかけて分解掃除をしなくてはなりません。
矛盾しているようですが、これが正当な仕事なのです。

時計の小話 第168話(20〜30万円台の名機)

ありがたい事に、小生の『時計の小話』を読まれている読者の方から、よくこんな問い合わせのメールが来ます。
「メールマガジンを読んで機械式時計の魅力にとりつかれました。予算が2〜30万あるのですが、貴殿は何の腕時計をお薦めですか?」という問いです。

2〜30万もあると、良いスイス時計メーカーの腕時計がいろいろ買えますし、国産のグランド・セイコーも買える範囲です。
皆さんがあれやこれやで悩まれるのは致し方ないと思います。

メーカーブランド名に惚れ込む人もいるでしょうし、それよりもデザイン第一主義で選ばれる人もいるでしょうが、私はCal.3135を搭載したROLEX・デイトジャストをお薦めしています。
 
何故このROLEXを薦めるかと言えば、Cal.3135はROLEXの代表的な機械で、作りが最高の出来栄えなのです。
30万円台で一点の非の無い機械式腕時計が買えるのです。
ヒゲゼンマイは高級腕時計の代名詞・巻き上げブレゲ・ヒゲゼンマイを採用し、緩急針の無い替わりに2種類の天輪に取り付けてあるマイクロステラ(ミーンタイムスクリュー)で日差1秒あるいは2秒の微細精度調整がいとも簡単に一目盛動かす事により出来るのです。

地板・歯車・ネジ・バネ…どれをとっても欠点が見つけられなくて、いつもOHする時に感動しながら作業が出来る機械なのです(この機械を入れて何でこんなに安いのか?と)。

最初に機械式時計を買われる人は、まずデザイン・メーカー名より中の機械を重視して買われると、決して失敗しないと思います。

20万円代では、Cal.3000を搭載したROLEX・エアキング等があります。
この機械はCal.3135と違って平ヒゲゼンマイですが、他の構造はCal.3135と何ら遜色の無い素晴らしい機械です。

いろんな時計を見てきましたが、30万もするのに、何故こんな機械を入れてこの価格で売るのか疑問に思うスイス時計メーカーが多々あります。
読者の方はいろんな雑誌の風評にとらわれる事無く、確かな時計を買って頂きたいと希望します。

【次回の『時計の小話』はROLEXを既にお持ちの方に、ROLEX以外のお薦め機械を紹介致します】

●時計の小話 第169話(歌『大きな古時計』)●

NHK番組「みんなの歌」で、アメリカ発祥の歌『大きな古時計』が人気を呼んでいます。
シングルCDも30万枚を突破し、3週連続でチャート1位になったそうです。
数年前、同じNHK番組である芸能人が『大きな古時計』を作曲したアメリカの家を訪問していたのを見ました。
その家には、歌のモデルになったもう動かなくなった大きな重鎮式ホールクロックが置いてありました。
 
この歌を聴いた人は、おそらく幼い時に育った古里の実家の掛時計や、育ててくれたご両親や、祖父母様を思い出すのではないでしょうか。
古く遠い昔、実家の大黒柱に掛かっていた1週間巻きのボンボン掛け時計や、1ヶ月巻きのセイコー掛け時計を思い出し、小さい頃の思い出が走馬燈のように記憶の中から蘇ってくるのにちがいありません。
日本の文部省唱歌『ふるさと』を聴くような、同じような懐かしい温かい古里の思い出に浸れるから大ヒットしたのでしょう。
大黒柱に掛かっていたゼンマイ仕掛けの掛時計は、何十年もの間、その家の喜びや悲しみをじぃーっと見つめてきたのです。
その掛け時計は、その家の歴史を時とともに一日も休まず刻んできたからに他ありません。

私の小さい頃、裕福な友達の家に遊びに行くと、アップライトピアノの上にオメガの字の形(Ω)をした置き時計がほとんど置いてありました(その横にはきまって角川の夏目漱石全集がよく置いてあったものです。若いとき夏目漱石を愛読したのはその影響でしょう。)
そのウエストミンスターチャイム付きの置き時計は、クラブツースレバー脱進機を搭載したエスケープメントが付いていました。
平姿勢に固定していた為に、クロックと言えども姿勢差の影響を受ける事なく、日差±3〜5秒以内という高精度を維持していました(今でも現役で動いている家庭もあるかもしれません)。

ボンボン掛け時計は退却型脱進機の為、どんなに精度調整しても1日に30秒〜1分程の誤差が出ました。
よって、家人にとっては反面世話のかかる時計だった為に、余計に愛着が起きたものと思います。
誤差は出ても定期的にOHすれば、50年以上の寿命がある時計でした(何かしら蒸気機関車D51を彷彿とさせますね。遅いけれども煙を吐いて一生懸命走る愛らしい汽車、狂うけれどもチクタク音をさせながら動く、いとおしいゼンマイ掛時計と言うふうに)。

最近流行の電池からくり時計は、大変面白い仕組みですが、寿命はおそらく10年は持たないのではないでしょうか。
その事を思うと機械式クロックは何と長寿命なのでしょうか。
大切に使えば人間の一生と同じくらい長生きします。
メカ式腕時計が復活した今、メカ式クロックも再生産したら、けっこう売れるのではないでしょうか?
でも長いブランクでもう組立技術者はいないでしょうね。

日本にセイコークロック、リズム時計、明治時計、アイチ時計、東洋時計、手塚時計があったようにドイツにはキンツレ、ユンハンス、ウルゴス、カイザー、またイギリスにはウエストクロック(ビッグベン)という堅牢な機械を作るすばらしいクロックメーカーがありました。

●時計の小話 第170話(もう一方の20〜30万円台の名機)●

ROLEX Cal.3135の双璧になる名機と言えば、ジャガールクルトのCal.889でしょうか(もちろん異論もあるでしょうが)。
このムーブメントはジャガールクルトの二大シリーズ『レベルソ』と『マスターコントロール』のうち後者の時計に入っています。

この日付表示付き自動巻ムーブメントはローターの下辺部に比重の高いK21金を使っており、巻き上げ効率を高めています。
石総数は36石で28,800振動のハイビート、部品総数202。厚さ3.25mmで、1982年に自社開発されました(セイコーと比較して部品数がかなり多いのが難点と言えば難点でしょうか?部品数が多いと言うことは相対的に故障も多いと言うことになるかもしれません。個人的にはジャガールクルトCal.889よりROLEX Cal.3135の方が好きですが)。
ROLEXより、かなり薄型に仕上げてあります。
そのためにどちらかというと繊細なムーブメントと言えるかもしれません。
しかし、高等技術者にかかれば相当な精度が出る機械です。

このムーブメントを搭載した『マスターシリーズ』は、1,000時間(6週間)にのぼる各種精度テストが行われています(6姿勢差における精度テスト・異なる温度における精度テスト・回転と停止を繰り返す精度テスト・衝撃性テスト・5気圧防水テスト・耐磁テスト等々)。
COSCのクロノメーター検定が15日間(約2週間)である事を比較すれば、いかに長期間にわたって、いろんなテストが行われているか想像できると思います。
公的クロノメーター検定はムーブメント単体のみの検査ですが、ジャガールクルトの精度テストはムーブメントをケースに組み込んだ完成品の状態での試験なので、より信頼がおける精度テストだと思います。
いかにジャガールクルト社がこの機械に自信を持っているかお解りいただけると思います。

ジャガールクルトはROLEXと共にマニュファクチュールですが、ただ1点違うことは、高級時計メーカーにもムーブメントを多数、供給しているために、自社生産しているムーブメントの種類がROLEXよりもかなり多い、という事です。

Cal.889はもちろん名機なのですが、ジャガールクルトの製造している他の高級ムーブメントもどれをとっても全て最高ランクの名機であると断言しても間違いありません。
ただ価格の面で、Cal.889を搭載した『マスターシリーズ』はちょっと背伸びをすれば、30万円台で手に届く商品であるという事です。
すごい実力がありながら日本でROLEXのような人気がないのが寂しい気がします(マーケティングが下手なのかなー。それともわかってもらえる人のみに買ってもらえればいいという哲学でしょうか?)。

かっての旧オメガ社はジャガールクルト社に勝るとも劣らない実力を持った時計会社でした(ジャガールクルトのCal.889に負けない機械が旧オメガ社には多々ありました。それがΩ自動巻キャリバー561,564,565です。これはほとんど同じ姉妹キャリバーです)。

●時計の小話 第171話(北海道へ)●

仕事に少し疲れたので、気分転換に10/6〜8まで妻と北海道に旅行してきました。
1泊目は函館の近くの湯ノ川温泉に宿泊し、2日目は札幌に泊まりました。

今まで通算4回北海道に行ったことになります。
何か精神的な壁にぶつかったり、気分が憂鬱な時などには、私は北海道の雄大な景観を見て、心を爽快にさせるようにしています。(人によっては富士山を見に行く人もおられると思います。修理完了が遅れている人には申し訳ないですが、どうかご勘弁下さい)

今回は、3年間全国のいろんな人から、記念の昔の時計の修理や難物の修理依頼で疲労がだんだんと蓄積され、北海道にどうしようもなく行きたくなったのです(最初に北海道に行った時は、大学受験の浪人中でした。精神的に追いつめられていたのですが、北海道を一人旅して心が晴れ晴れして帰ってきた記憶があります。 それ以来、何やかんやの理由を見つけては北海道を旅してきました)

小樽には今まで1回しか行ってなかったのですが、今回再び小樽を訪ねるにあたり、どうしても見学したい場所がありました。
その場所とは、私達、団塊世代の銀幕のスター『石原裕次郎記念会館』です(私は小さい時から映画が好きで邦画・洋画を問わず沢山見てきました)。
我らのスター・裕ちゃんはROLEXの大ファンである事を以前から知っていました。
ヨットに乗った格好いい裕ちゃんの腕には決まってROLEXが付けられていました。

記念会館を訪れてみると、裕ちゃんが常日頃愛用してきた腕時計がカウンターに所狭しと沢山並べられていました。
それらを今から思い出すまま列記してみます。
・ROLEX GMTマスター(SSケース)
・ROLEX GMTマスター(金無垢ケース)
・ROLEX オイスターパーペチュアル(金無垢ケース)
・ROLEX チェリーニ 手巻き(金無垢ケース)
・オーディマ・ピゲ(金無垢ケース)
・ピアジェ(金無垢ケース)
・ジャガールクルト
・ホイヤーカレラ(クロノグラフ)
・ユニバーサル トリコンパックス(クロノグラフ)
・ラドー ダイヤスター(超硬ケース)

などが並べられていました。(残念ながらセイコー・シチズンの国産品は1本もなかったです)
所蔵の時計を見て、裕ちゃんは間違いなくイイ時計がどんなものであるかをよく知っていた事がわかります。

自分が55歳になって、裕ちゃんが昭和61年、52歳で逝ってしまった事を知るにつけ、どんなにご本人は残念であったか、かわいそうでたまりませんでした。
22億円もかかった『石原裕次郎記念会館』建築費も全国からの裕ちゃんファンの来訪で借金も無くなったとか。
今まで続くすごい人気にただビックリいたしました。

●時計の小話 第172話(ランゲ&ゾーネ社について)●

時計王国と言えば誰もがスイスを連想されると思いますが、ドイツにも昔から時計産業はありました。
ドイツ・グラスヒュッテ地方には、1845年創業の孤高のメーカー、ランゲ&ゾーネ社
(ランゲとその息子達という意味です)が存在します。

ランゲ&ゾーネ社は第二次世界大戦終了後、グラスヒュッテ地方が東独に入ったために工場が国有化され、伝統を誇ったランゲ&ゾーネ社は、一度そこで消滅しました。

しかしベルリンの壁が崩壊後、4代目当主・ウォルター・ランゲ氏によって、1994年見事に復活をなしえたのです。
その復活した時計とは、今では流行になったアウトサイズ・デイト機構を初めて搭載し、パワーリザーブ表示・スモールセコンド・裏スケルトンの手巻きで登場しました。
このような見事な機械がわずか4年間という短い開発期間で出来た事は本当に驚愕的な出来事なのです。
ジャガールクルト・IWCの協力があったとは言え、このような時計を商品化出来たことはランゲ&ゾーネ社の底力をまざまざと世界に見せつけた事に他なりません(当初、再登場したとき、各スイス時計メーカーが震撼したことは容易に想像できます)。

最近では、ゼンマイのトルクを均一化する鎖引き装置を搭載した腕時計を開発発売しました。
鎖引き装置と言えば、超高精度を誇るマリンクロノメーターにかって採用されていましたが、それを腕時計に採用すると言うことは、画期的な事なのです。
ゼンマイのトルクを均一化すると言うことは、平等時性を安定化させる為にかかせない事です。
その機構を小型化して腕時計に搭載するなんて想像すらできえないことでした。

現在では年間生産本数は4,000本近くにはなっているものと思いますが、このような腕時計をここまで成長させた4代目当主に頭が下がる思いです。

このような最高度の腕時計を作り出す時計メーカーの技術者の半分以上が、女性で占められているという事は前回書きましたが、短い時間にどのような技術指導をして組立調整技術者を育てられたか聞いてみたいものです(素晴らしい技術指導者がおられるものと思いますが、指導マニュアルが完璧なシステムを構築していたものとおもいます)。

他、ドイツ・グラスヒュッテ地方には、もう一つの時計メーカーが復活をなしえました。
それは当店でも人気のあるNOMOSです。
ドイツの時計はどれも質実剛健で地味でシンプルな味わいがありますが、使えば使うほど愛着がおきる深い腕時計だと思います。
NOMOSの機械は数年後当店に修理依頼が来るものと思いますが、ランゲ&ゾーネの機械を直に触るチャンスはなかなか訪れないと思うと残念でなりません。

●時計の小話 第173話(セイコー・スプリング・ドライブについて)●

最近、新機軸のムーブを搭載した腕時計が多数出てきました。

セイコークレドールに搭載されたスプリング・ドライブ、
オメガに搭載されたコーアクシャル脱進機、
ユリスナルダンのフリーク脱進機です。

今回はスプリング・ドライブについてお話してみたいと思います。

この機械が世の中に登場したきっかけは、「動力源をゼンマイにしてクォーツ並の精度を保持したメカ式腕時計を開発したい」というセイコー技術陣の熱い思いから来たのではないでしょうか。

この仕組みは、香箱に収納されたゼンマイを動力源として、2番車、3番車、4番車、5番車・・・という輪列歯車を動かし、それによって運針させる点では、天府機械式と全く同じと言えます。

ただ一つ違うことは、天府機械式はガンギ車・アンクル・天府によって脱進・調速して精度を出します。
しかしこのスプリング・ドライブのメカニズムは、7番車にあたるローターが1秒間に6回転する事により生じた電気エネルギーで水晶振動子を発振させ、IC集積回路で制御し、調速するのです。

ローターが高速で回転するために、ゼンマイのパワーリザーブが2日間しか持たないのは、一般の機械式と同じだと思います(これがせめて7日間のパワーリザーブがあれば魅力的なのでしょうが)。

このメカニズムを開発するのに、20年という長い年月がかかったそうですが、私にはそれほど魅力のあるメカニズムとは到底思えません。
機械式の魅力は、天府が調速機能を果たす姿が美しいから、時計ファンを魅了し続けたのです。
このクレドールは、裏スケルトンになっていますが、写真で見た限り何ら機械の面白さが伝わってこないのです。
価格も100万円以上もするので、おそらくこの時計は人気が出なくあまり売れないのではないかなと、私は想像しています。

それよりも、東谷宗郎先生がセイコーインスツルメンツ時代にプロトタイプを開発した新設計の「セイコー・ツゥールビヨン」を一般向けに商品化した方が、どれほどインパクトがあったか計りしれません。

このスプリング・ドライブ方式はSSケースに入れて5万円を切らなければ、おそらく普及しないものと私は思っております。

●時計の小話 第174話(ETA7750・クロノの修理)●

機械式クロノグラフの人気のせいか、最近クロノグラフの修理依頼が多く、ETA(バルジュー)7750の修理依頼が頻繁に舞い込むようになりました。

先日も7750のオーバーホールをしました(5日に1回はしているかなー)。
洗浄後、組立、手巻きの状態で完璧に作動し、歩度・精度も調整し、クロノグラフ部分を組立、針等も取付し、ケージングして「やれやれ・・・修理完了」と安堵して、腕にはめて実測の段階になりました。

一日目、秒クロノグラフ車を一日中作動してみると精度はまあまあでした(日差+5秒ほど)。
二日目、秒クロノグラフ車を止めて精度を測ってみたら、2〜3分ですぐに止まってしまうのです。
クロノグラフ部分を組み立てないで、手巻きの状態ではすごく調子が良かったのに、何故止まってしまうのか原因がなかなか掴めません。

面倒でも、また機械をバラして、歯車のホゾのアガキ等を全て確認し、いろいろ原因になるような所を探してみても、悪いところが見つからず困っていました。

秒クロノグラフ車を動かしたら止まり、秒クロノグラフ車を動かさなければ機械が動く、という故障の事は考えられても、逆の場合は少ないのです。
よって、秒クロノグラフ車に伝える車に何か原因があるのではないかと思い、それを取り出して40倍の顕微鏡でカナ・歯車をよく見てみました。

そうすると、カナ歯の谷間にキズミでは見つけられにくい、非常に細かい金クズ(0.1mm以下)が付いていたのです。
7750は秒クロノグラフ車を動かす時、伝え車が若干斜めになる為に、4番車の歯と伝え車のカナ車とのアガキがほんの少し大きくなり、そのゴミの影響を受けなかったのです。

しかし、秒クロノグラフ車を止めると伝え車がほぼ垂直になり、4番車の歯と伝え車のカナ車とのアガキが適量になるため、その金クズが引っかかって止まるという原因でした。

オーバーホールしても原因不明の停止になる場合は、おうおうにして再度分解掃除すれば直るという事があります。
この場合も全くそれで、一度の超音波洗浄では微細な金クズが取れなかったのです。

時計のムーブはいかに繊細な精密機械であるか、読者の方にわかって頂けましたでしょうか。
7750は長い間使われている汎用クロノの機械ですが、最近の7750のムーブは精度が素晴らしく、いとも簡単に高精度が出ます(テンプの片重り、ヒゲゼンマイの内端・外端調整が完璧に成されているためでしょう)。
7750を採用しているブライトリング社はクロノメーター規格を取って高価格で販売していますが、同じ7750を採用しているオリス、エポスのクロノグラフはクロノメーター規格を取っていないにも関わらず、同等以上の精度を保持している事を、販売したお客様から好評のお言葉を頂いてわかっております。
7750は敢えてクロノメーター規格を取る必要がないほどすぐれた精度を持っているムーブだと再認識した次第です。

ETA社の技術力も大したものになったなぁーとつくづく感心している今日この頃です。
30〜40年ほど前のETA社とは隔世の感があります(何せ世界一の時計ムーブメント会社なのですからイイ機械を作っているのは当然と言えば当然ですよね)。
最近では7750の機械も好きになってしまった私です。

●時計の小話 第175話(時計油2)●

複雑時計が多く、今人気絶好調のF・・・は故障が多いと言うことを、あるスイス輸入時計会社の営業マンから聞きました(その事を聞く前から私は当然そうであろうと思っておりました)。

何故なら複雑時計になると、一つの香箱ゼンマイで20個前後の歯車等を動かすことが当たり前になるからです。
当然、末端の歯車になるとゼンマイのトルクが弱まり、かすかな抵抗で停止します。
肉眼で見えないような非常に細かい糸くず1本で止まった腕時計の修理に、今まで何十回と遭遇しています(単純な手巻腕時計でさえ、1個のゼンマイで香箱車、1、2、3、4番車、ガンギ車、アンクル、テンプ、日の裏車、筒車、笠車、小鉄車という12個の歯車等を動かすのです)。

定期的にオーバーホールしていれば、そういう油ぎれによる故障原因も少ないでしょうが、ちょっと油断して期間をおいてしまうと油が乾燥し、その粘着力で末端の歯車が回転しなくなる、という事になるのです(またユーザーの方の誤操作による故障も多いかもしれませんが)。
複雑時計は手巻きよりも部品数が3倍以上にもなり、一つのゼンマイで動かすことが相当な負担になるために故障が多いのがわかって頂けたでしょうか。
部品数が多い複雑時計やクロノグラフが故障の原因が多いのはある意味では宿命なのかもしれません。

手巻きムーブメントの名機・セイコーCal.45は、想像を絶する精度が出ました(私は日本時計史上、最高傑作の腕時計だと今でも確信しています)。
セイコーCal.45は設計上、普通の手巻きよりも輪列に2個歯車が多く、10振動のハイビートで、強力なゼンマイを内蔵していたために、定期的なオーバーホールを怠るとゼンマイが一瞬にして切れ、その爆発力で香箱の歯が欠けるという前代未聞の故障が起きたのです。
腕時計にとっては油切れは致命的な故障になることがあるのです。

一つの腕時計の文字盤に、レトログラードを2個以上搭載している腕時計は、それなりに気を配ってオーバーホールをしないと、度々故障に遭うものと私は思います。

腕時計にとって、精密油は非常に重要な要素を占めます。
特に、アンクルとガンギ車が接触する所の油は重要です。
その油の差し方如何によっては、オーバーホールの他の作業が満点であっても、その一点だけミスすれば「長く正常に動かない」というクレームに出会うのです(時計職人の腕の良し悪しはアンクルの注油をみればそれだけで一目瞭然と言っても過言ではないのです)。

ロレックス等のスイス高級時計には、油が拡散しないために、エピラム液処理を施します。
この処理によって、大切なアンクル・ガンギ車の油の保有期間は倍に伸びるのです。
かつてロンジン・ウルトラクロン(10振動)の腕時計のオーバーホールをする時は、異常がないにも関わらず、アンクルとガンギ車を是非を問わず交換するというのが厳守されていました。
これは何故かというと、交換用アンクルとガンギ車の接触面にエピラム液処理がメーカーでなされていたからなのです。
でもこの交換するためにオーバーホール代金がかさばり、ユーザーのクレームが起こりこの方法は自然消滅しました。
当店ではROLEX等の高級時計のオーバーホールには、エピラム液処理を施しています。

●時計の小話 第176話(ドイツ産の他の腕時計メーカー)●

1.ジャッケ・エトアール
 1996年、時計職人クラウス・ヤコブ氏がローラハに創業した時計メーカー
 です。
 アンティーク・クロノムーブメントを搭載した古風溢れる腕時計作りを目指
 しています。

2.クロノスイス
 1981年、ゲルト・アール・ラング氏がミューヘンに創業した新興時計メーカー
 です。
 優秀なマイスター時計職人を集め、トゥールビヨン・ムーンフェイズ・
 レトログラード・スプリットセコンドクロノグラフ等のコンプリケーションを生産
 していて技術力に優れています。

3.ジン
 クロノグラフで有名なジン社は1961年、ヘルムート・ジン氏がフランクフルト
 に創業した時計メーカーです。
 搭載するムーブメントは、バルジュー7750とレマニアの機械を採用して
 います。

4.ハンハルト
 古参の時計メーカー・ハンハルト社はウィルヘルム・ハンハルト氏が
 1882年、グーデンバッハで創業しました。
 かつてはドイツ海軍にも公式採用され、第二次世界大戦後、ドイツ・フランス
 空軍にも採用された信頼できる時計づくりをしている時計メーカーです。
  ミリタリー調なので、やはりクロノグラフが多いです。
  デザインもほとんどアンティーク調に作られているので、オールドファンに
  大変人気があります。 今後、日本で人気が出る腕時計だと思います。
  ムーブはETA7750がメインです。

5.ミューレ・グラスヒュッテ
  ロベルト・ミューレ氏が1869年、グラスヒュッテで創業した時計メーカーです。
 ノモスと同じく、バウハウスの精神を取り入れた優れたデザインの物が多い
 です。


他、忘れてならないドイツ時計メーカーに、ユンハンス社があります。
ユンハンスはどちらかと言えば、クロックメーカーとして名をはせました。
創業は古く、1861年までさかのぼることが出来、20世紀初頭には世界最大規模の
時計工場を擁していた確固たる時計メーカーでした。
最近は腕時計にも力を入れ、割とリーズナブルな価格の商品を開発して、人気を博しています。

その他には、1998年創業のマーティン・ブラウン、1987年創業のオティウム、1997年創業のヨルク・シャウアー、1997年創業のテンプション、ソーティス等の新興時計メーカーがあります。

最近、異業種から時計産業に参入したメーカーが現れました。
万年筆等の筆記用具メーカー・モンブラン社です。
個性的なクロノグラフを発売し始めました。
マーケティングがしっかりしていれば、時計産業がいかに利益が出る業種であるか、ドイツ新興時計メーカーを見ればわかっていただけると思います。

●時計の小話 第177話(本年度・時計技術通信講座終了)●

今年度の時計技術通信講座・第4回最終講座が11/20に終わりました。
4名の方が挫折することなく、最後まで頑張られたことに敬意を表したいと思います。

最終回は、最も難しい「ヒゲゼンマイの調整」を行いました。
少し無理かな?と思いましたが敢えてチャレンジしてもらいました。
ヒゲゼンマイの縦ぶれ・横ぶれを修正し、ヒゲ棒隙間の遊びの調整(かすかな両当たり)をしてもらいました。

素質があるのに東京のH君は練習不足のせいか、ヒゲゼンマイをいじりすぎて極度に変形させ、ヒゲ棒も折ってしまいました(しかしわずか1年で自動巻の腕時計を分解・組立・注油が出来るまで腕を上げました)。
一応セイコー5を動くように仕上げましたが、日差4分ほどの誤差が出てしまい、少し残念でした。


京都のOさんは、そこそこヒゲゼンマイの調整は出来ましたが、輪列の組立具合が悪いため、天府は動きませんでした(彼は機械の図面を書くのが大変うまくいつも感心してみていました。私の注意点をいつも漏らさずノートに書き留めている真摯な姿にうたれました。きっと将来必ずや上手くなる人と思います)。

最終回多忙のために欠席になった名古屋のW君も一生懸命に時計技術習得のために取り組んでおられました。

東京のKさんは、いつも練習して当店に来られるために、手が安定して細かな作業も割と早く終える腕前を持っていました。
生まれつき手先が器用なのと、細かい作業が好きな方なので、ヒゲゼンマイの調整もほとんど90点をあげられるほどキレイに仕上げました(前回は輪列の穴石を割ってしまうという重大なミスを犯しましたが短期間にここまで上達したことにビックリしました)。
最後に私がほんの少しだけ肝心なところに手を加えて、タイムグラファー(歩度検定機)に乗せて誤差を調べてみましたところ、セイコー5は日差5〜7秒程に仕上がり、姿勢差誤差も2〜3秒程しかないほど上手く仕上がりました。
彼が練習用としているアンティーク・セイコー手巻き腕時計のヒゲゼンマイの微調整をやらしたところ、これもクロノメーター規格に入るほど素晴らしい精度が出ました。

皆さん熱心で器用な人ばかりでしたが、今まで8人の方を教えて、一番素質のあるのは、Kさんではないかと思いました。
皆さん、まだ年も若く、これから自己研鑽して時計修理技術の腕前を向上させていって欲しいと願望しています。

●時計の小話 第178話(帯磁について)●

この間、IWCインヂュニアのOHを受けました。
この時計のムーブは、マニュファクチュールのジャガールクルト社から供給されています。
非常に薄い繊細な自動巻カレンダー付きの腕時計です。

ほぼうまく仕上がり、歩度検定機でもそこそこ精度が出て、静的精度の日差を調べたところ、各姿勢差とも5〜10秒以内に収まりました。

ところが腕につけてみると、何と日差が30〜50秒ほど狂うのです(まさかIWCインヂュニアだから磁気の影響ではないだろうと勝手に思いこんでいました。帯磁したガンギ車ですとピンセットを近づけるとクルクル回るように踊り出すのです。こんな反応は全くなかったのです。)
40〜50年前のアンティークウォッチならこれで許される精度なのですが、何せスイス高級腕時計のIWCなので、もう少し精度を絞り込まなければなりません。

折角出来上がったのですが、ムーブをケースから取り出し、どこに原因があるのか、心当たりの所を徹底的に調べ上げました。
調べれば調べるほど異常が無く、どこが原因でこんなに時計が進むのか原因がなかなか掴めませんでした。

インヂュニアと言えば耐磁性能が強い腕時計で、機械の中が耐磁素材で覆われている事で有名です。
先入観が強かったために、帯磁しているとは全く考えていなかったのですが、万が一を考えて一応、各パーツを磁気テスターで調べてみました。

まさかと思い、全てばらして各パーツを磁気テスターで調べてみると、ほんの少し磁気テスターの針が微妙に動くのです。
「あぁ、これが原因か!」とわかり、全てのパーツを一個一個、個別に消磁しました。
手間をかけ再度組み立ててみると、今度は静的・動的精度にも日差の差はほとんどありませんでした。
修理の前に、先入観を捨てることの大切さを学びました(OH後、全ての時計を磁気抜きしているにもかからわず、磁気がわずかでも残るということを再認識した次第です)。

●時計の小話 第179話(セイコーU.T.D(ウルトラ・シン・ドレス))●

この間神奈川県の方から、セイコー社創業110周年記念で、18金無垢ケースに収められている『セイコーU.T.D 手巻き極薄腕時計』の分解掃除・調整の修理を受けました。
http://www.isozaki-tokei.com/syuri-kokusan.htm(載せています)

この時計のキャリバーはCal.6819A 22石で21,600振動、パワーリザーブ37時間。
ムーブの厚さは何と1.98mmという極薄です。
最初は1973年第二精工舎が開発したものです。
精度等級は日差+25秒〜−15秒のムーブでそれを新たに20年ぶりに復活した腕時計です。

ムーブの厚さ2mmを切る極薄時計を製造する時計メーカーは、それなりに高度な技術力がしっかりしていなければ作れないものなのです。
スイス時計メーカーでも限られており、ジャガールクルト、オーディマ・ピゲ、パティック・フィリップ等の一流時計メーカーにしか製造できないむずかしい腕時計です。

かの有名な第二精工舎の時計設計技術者、井上三郎先生のゴーサインのもと、当時のセイコーの技術を結集してこの世に送り出されたのです。
セイコーにとって思い出深い時計が近年の機械式時計の隆盛とともに復活し、クレドールやセイコーU.T.D等に搭載して最近また売り出したのです。

この時計を分解掃除するのは、薄型であるためにかなり神経を使いながら分解・組立・調整・注油をします。
ちょっとした組立ミスで歯車のホゾが簡単に折れてしまう危険性を持った細さなのです。各歯車のアガキも極端に少なく本当に繊細な神経を使います。
薄型に仕上げるために、香箱の裏ブタが無く、裏蓋の代わりに人工ルビーの受け石を数個地板に埋め込んであり、回転が滑らかになるように工夫がされていました。
アンクルの竿は棒状ではなく、段差を付けた竿にして、おそらく耐震性を強化したものと思います。
この方法は昔、スイス時計メーカー「ウィラー社」が天府のアミダを渦巻き状にして耐震装置を強化したものと考え方は似ていると思います。

この『セイコーU.T.D』は、現在セイコーインスツルメンツの盛岡セイコー工業で生産されており、これに携わる人は桜田守氏ら数名の極限られた優秀な技術者によって生産・組立されていると聞き及んでおります。
キャリバーは基本の6810から6870、6898と派生的に生まれてきています。
特にスケルトン仕様のキャリバーK238は美しく見事と言うしか言えない芸術的な腕時計です。
しっかりした作りのROLEXのムーブも最高にイイですが薄型は元来、私の好きなタイプの時計です(修理は薄型になればなるほど大変な作業にならざるを得ないのですが、苦労のしがいのある時計です)。

時計の小話 第180話(初代・自動巻のGS(グランド・セイコー))

セイコーが1968年12月に初めて発売した自動巻グランドセイコー・GSの修理を、千葉県の方から2個依頼受けました(GSのファンは本当に多いんだなーと思ってしまいます。グロリアス・シチズンはどうなのかな?ここ十数年1回もOHしていません)。
この自動巻のGSは手巻きのグランドセイコーを発売して8年過ぎてから発売されたものです。

この自動巻機構はマジックレバー方式と呼ばれるもので、極めて単純な構造にも関わらず、巻き上げ効率はとても優秀でした。(インターナショナルCal.852、853の自動巻に似ている方式です)

この方式は1959年に商品化されたセイコー・ジャイロマーベルによって始まりました。
ジャイロマーベルはツメレバー方式でしたが、それに改良を加えてマジックレバー方式にしたのです。
この自動巻機構の唯一の弱点は、定期的にOHしていれば何ら問題はないのですが、油が枯渇してくると摩耗が激しくなり、偏心ピンがへたって細くなるという故障がおきたのです。
M氏のGSは定期的にOHしていたのでしょうか偏心ピンには全然異常が見受けられませんでした。
30年以上経っているのにガンギ車の衝撃面の歯の摩耗は、10振動ハイビートにもかからわず見受けられませんでした。
巷間、噂になっているハイビートは寿命が短いというデマは全く根拠がないことがわかります。(但し定期的にOHしているという条件付きですが)

この6145Aキャリバー(直径27.4mm、厚さ5.6mm、25石・ムーブの厚いのが欠点と言えば欠点でしょうか)は10振動のハイビートで、平均日差+6〜−3秒に収められている高精度の機械でした。(当時の国際的なクロノメーター規格の上をいくものでした)
輪列及び自動巻機構は前年の1967年に発売された「セイコーファイブ・デラックス Cal.6106とCal.6119A」とほとんど同じものでした。
違うと言えば、5振動のロービートから10振動のハイビートに変わったぐらいです。
(よってこのセイコーファイブデラックスも普及版の低価格であるにも関わらず非常に優れた腕時計でした)

このGSは高精度が出る非常に優れたムーブメントでしたが、部品数も極端に少なく組立も容易で、当時の諏訪精工舎の時計設計技師のレベルの高さを窺い知ることが出来ます。(秒針規制レバー・ハック機能も1個の単純なパーツで簡単に作動するものでした。比較する意味でGS45系は3個のパーツの連結ででハック機能が作動します。そのころの諏訪精工舎は紛れもなく時計設計力・精度においてダントツで世界一だったでしょう)

今日、機械式時計の世界最高峰と誰もが認めている「パティック・フィリップ」の自動巻よりも、部品数は半分近くで、分解組立調整もいとも簡単に出来、精度もでる代物です。
このGSには諏訪精工舎が満幅の自信を持っていたのでしょう、地板に固有のムーブメントナンバーが誇らしげに刻印されていました。

補足・・・前回お話しいたしました第二精工舎(現在のセイコーインスツルメンツ)の井上三郎先生は時計設計技術者として優れた功績を残された人でしたが経営管理能力の手腕も高く評価され、後年、第二精工舎の副社長にまで登り詰めた方でおられました。
〒924-0862 石川県白山市(旧松任市)安田町17-1 イソザキ時計宝石店
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