マイスター公認高級時計師(CMW)がいる高度な技術のお店
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国際時計通信『水晶腕時計の興亡』
時計の小話
続・時計の小話
121話〜140話

●続・時計の小話 第81話(ハイビートについて)●

1945年の太平洋戦争後、生産を再開した国産の腕時計の振動数と言えば、5振動(ロービート)からスタートし、その後、5.5振動や、6振動へと移行してきました。ハイビートと言えば、現在、8振動以上のムーブメントを指すのが一般的です。

ロービートから何故にハイビートへ移行したかと言えば、一番大きな理由にハイビートの方が、携帯した場合、振動数が多いために外乱要素の衝撃等の影 響を受けにくく、携帯精度が優れているからです。5振動の場合、ゼンマイトルクがハイビートよりも弱い為に、耐久性の面で摩耗しにくいという優れた点があ りますが、静的精度では、十分な精度が出ても携帯精度では、ハイビートよりも劣るというマイナス面があります。

また、ロービートの場合、テンプの振り角が落ちた場合、短弧と長弧の姿勢差誤差が大きく出やすいという、デメリットもあります。そういう観点から戦後の時計メーカーは、内外問わず、ロービートからハイビートへ移行するのは必然的な成り行きだったのでしょう。

1965年に、ジラール・ペルゴ社が世界に先駆けて10振動のクロノメーター規格に合格した腕時計を発売した時、大きなセンセーショナルを世界中に 喚起させました。余りにもジラール・ペルゴー社の精度が予想よりも優れていた為に、諏訪精工舎も負けずに1967年、Cal.5740のロードマーベルを 発売しました。

同じ年に第二精工舎が、Cal.1944の10振動の婦人用手巻き腕時計を発売しました。1968年には、諏訪精工舎が、Cal.6146の10振 動の紳士用のGS自動巻腕時計を開発し、同じ年に第二精工舎が、名機のCal.45の10振動の紳士用GS,KS手巻き腕時計を開発しました。

スイスでは、ジラール・ペルゴ社以降、1967年にロンジン社が工場創設100周年記念、生産総数1500万本達成記念として、36,000振動の 『ウルトラクロン』を発売しました。この名機とも言える『ウルトラクロン』は弊店にも時折修理依頼がやって来ます。1969年には、モバードとゼニスが共 同開発した、10振動のエル・プリメロ・クロノグラフ・ムーブメントを開発しました。

その後市販されているハイビートの頂点にいるのは、2006年にセイコー・インスツルが毎時43,200振動のムーブメントを開発したのが、最高の ハイビート・ムーブメントであります。(過去の1960年代のニューシャテル天文台コンクールでは、セイコー社が、Cal.052 毎時72,000振動 のムーブメントを開発してメカ式で最高得点を獲得して、精度の面では、スイス時計メーカーを凌駕した時期もありました。)

5振動の腕時計を、ゆっくり走る蒸気機関車に喩えるならば、10振動の腕時計は、新幹線の『のぞみ』や『ひかり』に喩える事が出来ると思います。現行のハイビートの主流を成している、8振動は、特急列車に喩えられるかもしれません。

定年後の人生をマイペースでゆっくりと歩みたいと願っている人、アンティークを嗜好する人、アイデンティティを標榜する人にはロービートの腕時計が 似合うでしょうし、多忙を極めるエリートビジネスマンの人や、精度の面で揺るがない高精度を要求する人にはハイビートが似合っているかもしれません。

いづれにしても、総合評価で言うなれば、携帯精度や、耐久性を考慮して8振動のムーブメントがベストではないか?と小生は思っております。エタCal,2892やロレックスCal,3135等の現代を代表するムーブメントも8振動を採用しています。

●続・時計の小話 第82話(またまた嬉しい知らせ)●

平成19年度の、1級及び2級の時計修理技能検定の学科・実技試験が今年1月に全国15会場で行われました。小売時計店の時計技術習得意識が高まる中、毎年受験者総数は増えていく傾向にあり、今年は全国で対前年15%アップの825人の人が、受験をされました。

全国15都道府県(北海道、岩手、千葉、長野、神奈川、栃木、東京、新潟、静岡、岐阜、愛知、滋賀、大阪、高知、福岡)で開催されました。

どちらか、というと東日本の地域の人の方が受験に熱心で多かったのではないか?と思われます。特に東京では、受験者数が、419人に上り過半数を占める勢いでした。西日本の時計職人を目指す方には奮起を催したいです。

合格発表は3月18日に発表されました。

弊店の2006年の時計技術通信講座修了生の神奈川県のN君から嬉しい知らせを受けました。N君は、昨年末、2級時計修理技能試験を受験する旨の連 絡を受けていましたので、2年計画で合格するよう焦らずにガンバレとエールを送っていましたが、一発で合格した事を聞き、嬉しいと共に、良くやったと、褒 めて上げたい気持ちで一杯です。

2級時計修理技術試験の作業内容は、アナログ式水晶腕時計『振動数32768Hz,中3針・デイデイト付き』の分解・巻真部品交換・洗浄・組立・注 油・調整・リューズ操作及び測定を行い、指示要求精度及び、要求事項の範囲内に収めるという内容で、与えられた試験時間は4時間というものでした。

弊店の時計技術通信講座修了生は、述べ28人に上りますが、静岡県のK君と共に神奈川県のN君も、器用な才能・能力に恵まれた青年なので、さらに今 後研鑽を積んで上を目指していただきたいと願っています。(異業種に勤めながらのK君、N君の資格試験合格は素晴らしい一言に尽きます)

日本に、時計学校と言える教育機関が3校ありますが、いづれも授業料も高く、入学するのは大変な負担が本人と親にかかります。やる気があり燃える熱 意があれば、K君やN君の様に時計学校に入学しなくても時計技術の資格を獲得出来る、という事を時計学校に、色んなハンデで入学出来なかった青年諸君に 知ってもらいたいと思います。

小生も若いとき、村木時計技術通信講座を受け、資格試験に合格した経緯があります。

(ちなみに、1級時計修理技能試験の作業内容を掲載しておきます。アナログ式水晶腕時計『振動数32768Hz 時3針、クロノグラフ3針・日カレ ンダー付き』の分解・巻き真部品交換・洗浄・組立・注油・調整・ボタン操作・リューズ操作及び測定を行い、指示要求精度及び、要求事項の範囲内に収めると いうものでした。作業時間は4時間30分というものです。)

未だに試験教材にメカ式ムーブメントが採用されていないことは、技能検定委員の現状認識が逸脱していると言わざるを得ません。

●続・時計の小話 第83話(蒔絵腕時計)●

石川県加賀市の山中漆器の蒔絵師・山崎夢舟さんがスイスの独立時計師ピーター・スピーク・マリン氏と組んで共同で、一風変わった特徴のある高級機械式腕時計を製作されています。

昨年のスイスバーゼルフェアで文字板に『鳳凰』をデザインした蒔絵腕時計を出品されました。

その後、『龍』『虎』等のデザインの蒔絵腕時計を、何と1000万円という超高額で販売されているにも関わらず、製作段階の途中で予約が入って既に完売されたそうです。現在は4作目の『唐獅子』を製作されているそうです。

文字板直径3.5cmの中に1mm以下の金粉・銀粉、光沢のある貝殻等を貼り付けるのに双眼顕微鏡を駆使して一枚の文字板を作るのに、大凡3ヶ月という時間がかかる細かい作業の連続だそうです。過度の緊張を強いるために1日の作業時間は2時間が限界だそうです。

地方新聞紙で、その文字板の図柄を見ましたが、龍の絵などは京都・相国寺の天井に描かれている龍(蟠龍図)を、彷彿とさせる様な活き活きとして絵に なっていて、中世の美術品が復活したとも言える図柄の蒔絵と現代のスイス時計職人の仕上げたメカ式ムーブメントとが合体した労作と言えます。

唯一無二の腕時計を所有したいというブルジョアの時計蒐集家にとっては、喉から手が出るほど欲しい時計だと思います。

ここ15年のメカ式腕時計の華々しい復活により、個性的な腕時計が大変よく売れていくのに啓発されたかどうかは解りませんが、石川県の地場名産品・九谷焼を文字板に使用した、高級クォーツ腕時計が、加賀九谷・陶磁器共同組合から100個限定で4/10より発売されました。

同組合登録の工芸作家35人が手書きで絵付けされたそうで労力がかかっているために高価にならざるを得ないようです。こちらの方も小売価格は10万〜25万円する高価なクォーツ腕時計でしたが、発売当初から注文が殺到して、半分以上は即予約済みになったそうです。

文字板の図柄は花鳥風月や、日本古来の歴史的な模様をアレンジしたものになっていて、こちらも存在力のある力強いクォーツ腕時計に仕上がっています。関心のある方は、石川県九谷焼美術館に問い合わせされてみたら如何かと思います。

また、石川県輪島市は高級な『輪島漆器』で有名な町ですが、ここでは腕時計の『漆文字盤』を製作しておられる漆工棟梁の北村辰夫さんがおられます。消滅した『杣田技法』を復活させて見るも鮮やかな文字板を作ろうとしておられます。

その見事さはスイス・伝統技法クロワゾネを超越するのではないかと期待されています。
それにしても石川県には伝統工芸品に秀でた県と言えるのではないでしょうか。

これも4代藩主前田綱紀が加賀藩に工芸品を奨励したお陰ではないかと思います。それにしてもいろんなアイデアが石川県人に浮かんでくるのも世界中で腕時計が人々の話題にのぼって人気になっているからでしょう。

●続・時計の小話 第84話(ロンジン腕時計の人気)●

先日、スウォッチグループ・ジャパン(株)のロンジン事業部・部長S氏が弊店に2ヶ月ぶりに来店頂きました。共に、楽しく食事をしながら今年のスイス・バーゼルフェアの様子や、ロンジンの新作等のニュースを頂戴しました。

今年のスイス・バーゼルフェアは、昨年より寒気団の影響で天候も悪く、寒く荒れていた為か入場者数が少なかったそうです。また、日本からの時計店の方達の来場も昨年度よりかなり少なかったと、聞きました。その一方で中国のバイヤーの姿がやたら沢山見受けられたそうです。

S氏と、お話をしている中で特に驚かされた事がありました。

それは今年の年末にロンジンから新作が発売される、LONGINES マスターコレクション レトログラードの世界からの受注件数の多さでした。

弊店は、東京で2月に行われた スォッチグループジャパンの展示会に参加して、ロンジン・マスターコレクション・レトログラードを各1本づつ計4本を予約注文してきました。

S氏によると、スイスに出かける前に日本のロンジン特約時計店より、80本のマスターコレクション・レトログラードを予約受注を受けてスイス・バー ゼルフェアに乗り込んだそうです。バーゼルフェアのロンジン・ブースには、各国のエージェントのロンジン注文件数がボードに刻時、記載されていたそうで す。

日本はマスターコレクション・レトログラードの受注件数80、と載っており世界で7,8番目位だったそうです。一位は中国で、なんと1000本以上の予約発注をしていたそうです。

その中国と日本の数の差に驚いたS氏と、上司のA氏は、日本のロンジン事業部が、営業力がなく大したことは無いと思われるのが残念で堪らず、慌てて バーゼルフェアに来ている日本の卸商等のバイヤーの方に果敢に営業活動をして、なんとか600本以上のマスターコレクション・レトログラードの受注件数を 獲得したそうです。そのお二人の営業努力は大変なものであったろうと容易に推察出来ます。

ところが、バーゼルフェアの終わり頃になると、中国のロンジン・マスターコレクション・レトログラードの受注件数は、5000本を軽く越していたそうです。

余りにも数が多い事にS氏と、上司のA氏は唖然として中国経済力の怒濤の勢いを知らされたそうです。それにしても、毎年二桁の経済成長を誇る中国の爆発的な購買力には、開いた口が塞がらないと言っても過言では無いと言えます。

昨年のロンジン社がLONGINES SPORTを多種多様に渡って新作を発表して、世界中から熱い視線を受け、日が昇る勢いで拡張路線を突っ走っている事を如実に証明した結果なのかもしれません。

弊店も今年度末にマスターコレクション・レトログラードが4本入荷してくるのを楽しみに待っている状態ですが、その話を聞くにつれ、恐らくなかなか入荷してこないのではないか?と不安を覚えたりしております。

ロンジンの新作腕時計がここまで、世界中の時計愛好家の人達から熱い支持を得ているのに心底驚かされました。先行販売されている、ロンジン・レジェ ンド ダイバーも現在、大人気でなかなか入荷してこない状況を思うにつれ、今後ロンジン新作腕時計はどれもが、入手しにくい時計になっていくのではないか、と思 い大変嬉しく思う反面、少しは人気が沈静化して欲しい、と願ったりしています。

S氏と対談している中で、今後スイス時計会社は、中国富裕層の国民の消費動向を良く見ながら生産せざるを得ないのではないか、という点で一致しまし た。営業上手なスイス時計関連の人々は、中国人の趣味、嗜好を十分調査して、中国人好みの機械式腕時計をこれから生産していくのではないか、と思われま す。

先日、テレビを見ておりましたら、中国の富裕層の人々がツアーを組んで東京・銀座にショッピングツアーに大挙来ている事を報道していました。中には、1000万単位のトゥールビヨン等の複雑腕時計をカードで買い求めている青年実業家の姿が映っておりました。

その男性曰く、『中国では、コピーを掴まされる不安があるけれども、東京銀座の有名店ではその心配が全く無いので安心だ』と語っていましたし、有名店の時計店の店主も、超高額腕時計は、2個に1個は中国の方が買っていかれると、ホクホク顔で語っておられました。

銀聯(ぎんれん)カードを使って中国の人々が東京銀座で1000万単位の買い物をする姿を見るにつけ、2〜30年前に日本人の金持ち連中が香港にショッピングツアーで大勢押し掛けた事を思い出すと、時代の流れの転換を思い知らされます。

●続・時計の小話 第85話(フォルティスの新作)●

フォルティスの2008年スイス・バーゼルフェアの新作
FORTIS ART ver.IQ WATCH アートモデル・IQ ウォッチ限定:596.18.61IQ
が先日弊店に入荷してきました。

この時計は、正規輸入元(株)ホッタのS氏より4月15日に弊店来店の時に、パンフレットで紹介を受けました。その時の印象は、かってない独創的な デザインの文字板で、仕入れ発注するのに小生は多少躊躇していましたが、二人の子供に聞きました所、若い人の感覚で言うと、非常に面白い腕時計に仕上がっ ている、と言いましたので、仕入れする事に決めました。

先日、この時計が送られてきて、手に取って見てみますと、なかなかこの様な発想は出来ない珍しい時計でした。すぐに買い手がつくのではないか?と思 いましたが、ホームページに紹介しました所、案の定その日のうちに2本の注文を受けました。日本限定100本という事なので、興味を持った人がいち早く発 注されたものと、思います。

一昨年末に発売された『FORTIS フリーガー プロッフェショナル BLACK OUT(ブラックアウト)595.18.41MBO』もわずか、一ヶ月で完売終了しましたのでその時の、人気の再来が起こるような予感があります。

FORTIS ART ver.IQ WATCH アートモデル・IQ ウォッチはダダイズムの精神を受け継ぐ、ロルフ・ザックス(Rolf Sachs :スイス・ローザンヌで生を受けロンドン大学LSE校で数学を学び、アメリカ・メンロー経営大学で経営管理の理学士号を取得しました。インテリアやオブ ジェ等の制作で世界的に著名なデザイナーです。)が文字板を黒板に見立てデザインした、チョークで描いた様なラフなインデックスがユニークなIQモデルで す。

チョークを消した後も少し残っていてなかなか面白い仕上げになっています。世界限定999本モデルで国内の入荷本数は100本となり、ケースはブ ラックPVD仕様、黒板に見立てた文字板は勿論ダークグリーン、インデックスは白、時分針にはスーパルミノバ夜光が塗布、ケースバックにはシリアルが刻印 されています。

基礎的計算等で時を示す、遊び心あるデザインですが、ダークグリーンにホワイトのコントラストや、誰もが懐かしさを覚える"黒板"をモチーフにしているせいなのか、落ち着きさも感じる不思議な印象を与えます。

IQ(Intelligence Quotient)と言えば知能指数の事ですが、小生には、非常に強烈な思い出があります。 長浜市に住んでいた頃、近所の靴屋の息子でX君がいました。彼とは小中高と、同じ学校で学びました。彼と小学校の時、日本三大山車祭りのひとつの長浜曳山まつりに二回程一緒に同じ舞台に立ちました。

その頃は、今と違って曳き山で90分程歌舞伎を演じましたので、子供役者は膨大な台詞を覚えなければなりませんでした。特に、X君は女形を演じてい ましたので、覚える量も男役(立役)と違って倍程の量がありました。X君は、振り付け師から台本を貰っても、三日ぐらいですぐに覚えてしまいました。他の 役を振り当てられた子供(小生を含めて)は、台詞を記憶するのに一週間はかかりました。

一週間も台詞の稽古をしていますと、X君は他の役の子供の台詞も全て覚える程の才能を持っていました。子供心に彼の頭の中はどうなってるのか?と不思議でたまりませんでした。

中学校に入ると二年の時、同級生になり、彼はサボテン集めに熱中していて、彼の家に遊びに行くうちに私も感化され、サボテン集めに熱中しだしまし た。忘れもしない事ですが、中学二年の時の数学の授業の時、誰もが解けない様な難しい問題をS先生が黒板に出しますと、先ず秀才のS君に解いてみろ、と言 われました。

S君がどうしても解けなかった時は、最後にはX君をS先生は指名されました。X君は、難しい数学の問題を事も無げに簡単にスラスラと黒板に正解の答 えを書いて皆を驚かさせるのが常でした。その様な事が何回もあった後、数学のS先生はX君に、授業中はこの本を読んでいろと、ある本を与えました。

休憩時間にS君と小生がその本を見てみると、なんと大学の数学の本でした。小生にはチンプンカンプンの内容でした。私達とは頭の中の構造が全く違うのである、その時思い知りました。

X君とS君と、小生は、中学三年の時に、クラス替えがあり別々のクラスに分かれましたがその時、各クラスに移動する時に資料を担任の先生から渡され ました。その時、3人で先生には内緒で資料を見せ合いっこしました。今でも忘れもしない事ですが、X君の知能指数は160、S君の知能指数は140と書か れていました。

小学時代から、X君の頭脳明晰ぶりに驚かされていた私は、図書館に行って知能指数の事を調べてみました。知能指数140は秀才と書かれていました し、知能指数160は天才と書かれていました。(その本には、人類最高知能指数を持った人間はあくまで推測で、ゲーテIQ200、シェークスピア IQ180と書かれていました。)

知能指数は160は100万人分の1の極めて少ない誕生率と、書かれていましたので、当然の事の様に納得した訳です。

X君もS君も小生と同じ湖北のT高校に行きましたが、小生は3年間タッチフットボールに熱中し、近畿大会ではいつも上位で全国大会では、ベスト8になるほどの強豪でしたので、勉強の方が当然疎かになり、学業成績は下降線を辿る一方でした。

S君は、真面目な人でしたので大阪府のO大学に現役で合格しました。X君は私と一緒で、高校三年間アーチェリー部に所属して一生懸命夜遅くまでクラブ活動に頑張っていましたので、勉強はする時間はほとんど無かったのに、学業成績はいつも学年で10番前後にいました。

小生の母校の湖北のT高校はトップ5までは東大・京大に現役合格できるレベルなのですがX君は10番前後でしたので、友達は皆合格するのを訝しがっていましたが、小生は小学・中学時代の事がありましたので、X君は京大現役合格すると確信していました。

当然の如く、彼は難関の京都大学・法学部に現役合格しました。その後、X君は一流銀行に入社して、活躍されたと、聞いています。

ロルフ・ザックスもおそらく人並み外れた高知能指数の持ち主と思います。

●続・時計の小話 第86話(ネジの弛み)●

先日、スイス高級手巻き腕時計の修理依頼を受けました。故障個所は、時刻(針)合わせは出来るけれども、ゼンマイが一切巻けないという故障でした。分解する前に、故障の原因は、大凡予想がついていました。

恐らくカンヌキバネが折れて、カンヌキがオシドリと連動しない場合や、巻き真が中途で折れている場合、オシドリの巻き真の溝に入るピンが摩耗・損耗して効かない場合や、オシドリ・ピンが折れている場合、等が直ぐに思いつきました。

文字板を外して、日ノ裏機構を見てみますと、カンヌキがキチ車とツツミ車の間に挟まって、カンヌキが動かない状態になっていました。

原因は、日ノ裏押さえのカンヌキに近い方のネジが半回転ばかり弛んでいた為に、カンヌキが上方向に動きだし、外れた為の故障だと解りました。僅かネジが少しゆるんだだけで、時計としての機能を果たさないという事に驚かされます。

薄型腕時計のネジを締める場合、時計職人やメーカーの時計組立工は、細心の注意を払っています。
強くネジを締めすぎると、ネジ頭がいとも簡単に折れてしまう場合もあり、少し手加減をすると、上記の様な故障の原因にもなります。

精密機械の技術者は、絶えず細心の注意を払わなければならない状況下にいて、いつも神経が磨り減る過酷な仕事だと痛感せざるを得ませんでした。

日ノ裏押さえネジの、締め具合だけに止まらず、腕時計の数多くのネジを締める場合には、いつも細心の注意が必要です。ムーブメントとケースを動かな い様に一体化させる側止めネジもよく頻繁に抜け落ち、そのネジがムーブメント内に入り込んで止まる、という原因を作る場合が往々にしてあります。

最近のグランドセイコーの側止めネジには、固着材が塗ってあり、酷い振動でもネジが簡単に弛まない様に仕様しています。ロレックスの腕時計は、ネジ が弛めば弛むほどケースと固く一体化する様に工夫している為に、ネジが抜け落ちる事は100%無い設計をされていて、なるほどと感心させられます。

自動巻ローターのネジも弛んで自動巻きが効かないという簡単な故障もあります。現行GSのローター留めはとてもしっかり設計されていて外すにもかなりの力が必要なくらい強く締められています。(メーカーの女性組立技術者にとっては大変な作業と思われます)

R社の角穴車止めネジは、とてもネジ頭が薄く設計されている為に、少しでも強くネジを締めるとネジが折れて破損する場合があり、その点をいつも注意 しながら、仕事をしています。ロレックス社のネジは、他社時計メーカーのネジよりもしっかり強度を持って作られている為に、ネジが折れ込む、というケース はあまり経験がありません。ひとつのネジにも、ロレックス社の会社の完璧主義の良心的な意向が 垣間見られる思いです。

●続・時計の小話 第87話(新作IWCインヂュニアのOH)●

2005年に見事に復活を為しえた、IWCの人気シリーズ『インヂュニア・オートマチック』の修理依頼を受け、先日修理が完了しました。

IWCファンから根強い人気のある、インヂュニア(技術者)は1954年に登場以来、超耐磁性を持った腕時計として、衆目を集めてきました。

ファーストモデルの、インヂュニア(Cal.852、8521(カレンダー日付付き))は、ペラトン巻き上げ機構を装備した、効率の良い自動巻で、 ムーブメントも当時のロレックス社のムーブメントと比較しても優るとも劣らない、非常に精度の出る最高峰の腕時計でした。勿論、ヒゲゼンマイはロレックス と同様にブレゲヒゲを採用していました。

今回、50年目に自社製作のムーブメントを搭載した、インヂュニアをオーバーホールするにあたり、以前よりIWCファンであった小生は、胸を時めか せてワクワクしながら、作業に入りました。今回復活した、インヂュニアもペラトンシステムの両方向巻き上げシステムを踏襲しており、旧キャリバー8521 よりも、自動巻き上げ機構は改良されている、という認識を新たにしました。

ヒゲゼンマイは平ヒゲで、IWCの伝統らしく、ヒゲゼンマイの外端曲線が完璧な程に形成されていて、ヒゲ棒アガキも僅かな一条の光が入る程度の繊細な狭量でした。

カレンダー瞬間早送り機構も僅かな部品数4個のみで作られていて、これほどまでに部品数を抑え簡略化された瞬間早送り機構を見たのは初めてで、 IWCの設計技術者の頭脳の明晰さが、良く解りました。(現行グランドセイコー・メカ式も以前のGSのようにカレンダー瞬間早送り機構に改良変更すべきだ と痛感しました。現行GSはパーツ数が多すぎるのが欠点と言えなくはないでしょうか?)

時計専門誌等で、復活インヂュニアのCal.80110は、『完全自社製ムーブメント』と聞き及んでおりましたので、自動巻機構以外の、手巻き駆 動、輪列部分がどの様な設計されたムーブメントか期待しておりましたが、分解して解った事ですが、ETA7750クロノグラフムーブメントの手巻き輪列・ 地板部分を基礎利用し改良して採用している事に少々驚かされました。雑誌に紹介されていたような完璧なまでの自社製ムーブメントとは言えないのかも知れま せん。

インヂュニアCal.80110にETA7750クロノグラフムーブメントを一部採用していることはETA.Cal.7750が非常に優れたムーブメントである証明でしょう。

人気のある、マーク15等もETA社製Cal.2892A2を採用しており、今回の新作インヂュニアCal.80110も、基礎ムーブメントの部分をETA7750のムーブメントを改良して使用している事に、ETA社とIWC社の密接な関係を知る事が出来ました。

IWC社に限らず、ほとんどのスイスの時計メーカーは、ETA社から、多かれ少なかれ多大な影響を受けているのではないか?と今回のオーバーホール でつくづく思い知らされました。Cal.80110はIWCらしく、どっしりとした重厚的なムーブメントに仕上がっており、残念な面も少しありましたが、 IWCファンを裏切らないムーブメントで安心致しました。

●続・時計の小話 第88話(平常心と集中力)●

7/15、NHK夜の10時の
『プロフェッショナル・ライバルスペシャル〜二人の勝負師・光と影の攻防 将棋名人戦 森内俊之VS羽生善治』を大きな関心と興味を持って拝見しました。

プロ将棋界には、7つのビッグタイトルがあります。
『名人』『竜王』『王将』『王位』『棋聖』『棋王』『王座』があります。

天才棋士羽生善治氏は、今まで69回のタイトル保持し、『王将』『王位』『棋聖』『棋王』『王座』では5回以上のタイトルを保持した為に、現役引退後永世王将、永世王位、永世棋聖、永世棋王、永世王座を名乗る事が出来る名誉を既に勝ち得ていました。

名人位と、竜王位のみ、後、1期タイトルを勝ち取るだけで、永世名人、永世竜王を名乗る事が出来る所まで来ておられました。先日、森内俊之名人を4勝2敗で破り、晴れある第19世永世名人位を獲得されました。

羽生善治氏が、彗星の如く将棋界に颯爽と出現して、26才で前人未踏の7大タイトルを全て同時期に獲得した時には、50年に一人あらわれるかどうか?という大天才である、と世間を騒がせる程の活躍でしたし、永世名人位を直ぐに獲得されるのではないか?と思われていました。

この度の対局で、先を越されたライバル森内俊之前名人(第18永世名人)に対して、一矢を報われたものと思います。一流将棋棋士になりますと、対局中、数時間に渡り正座を崩さず読みふけるという、側に寄りがたい雰囲気を醸し出されます。

一手指すのに一時間〜二時間、大長考して指される場合色んな局面を想像して、1000手先、2000手先まで読まれるという凡人では計り知れない頭 脳を持っておられるのが、一流将棋棋士です。一時間〜二時間、読みふけるという事は、大変な集中力の結集と言わざるをえません。羽生善治氏の自書による と、スキンダイビングで海に深く潜っていく感覚と似ている、と言われます。

オメガ腕時計からジャックマイヨール・モデルが出ていますが、素潜りで100mを越す記録をうち立てた彼も、恐らく平常心で、無駄無く酸素を消費す る一定の呼吸法を集中して身につけた為に、大記録がうち立てられたものと思います。平常心と集中力が、合い携わっていなければ羽生善治氏の大記録も、 ジャックマイヨールの活躍も無かったものと思います。

そう言えば、歌舞伎界の大御所、坂東玉三郎氏も、スキンダイビングでストレスを発散し、平常心と舞台への集中力、体力を養っておられるものと思います。

時計修理も一個のOHを仕上げるのに4〜5時間座りっぱなしの状態が続きます。集中力、体力が無ければとても細かい作業の連続なので、耐えられませ ん。小生にも集中力が途絶えて、雑念が入った場合、小さなネジを摘み損ねたり、バネを飛ばしたりする失敗が往々にしてあります。

小さい時から、男兄弟4人で将棋遊びをしてきた為に多少なり今の職業にプラスに影響しているのかもしれません。将棋・囲碁が若い人達の間で一時の勢 いが無くなった今、集中力、平常心を養う意味で、小さな、お子達に将棋を教え込むという事は、大事な事なのかもしれませんし、日本の文化継承という、意味 合いからも大いなる一手かもしれません。

●続・時計の小話 第89話(熾烈なパイの奪い合い)●

ロンジンをお買上げ下さった方より、今秋発売される世界限定500本、『ロンジン・レジェンドマリーナ復刻版、自動巻クロノSS』税込み定価\309,750の、問い合わせが最近頻繁に来るようになりました。

先日、ロンジン事業部のS部長が弊店に来店されましたので、ロンジン・レジェンドマリーナが、日本にまた弊店にいつ頃入荷してくるのか?と尋ねてみ ました。従来なら、世界限定500本ですと、日本割り当て本数は、最低でも100本は入ってくるのが普通ですが、今回のレジェンドマリーナの場合、日本に は、数本しか入荷してこないそうで、それも既に予約完了済みとの事でした。

その数本全ては、大手百貨店の時計売場に納入するとの事で、弊店には1本も入荷して来ないらしいので残念な思いが致しました。今、人気が出ているロ ンジン・レジェンドダイバーを購入された方の評価・満足感も高く、あの価格で、すこぶる質感も良く、大好評でしたので、レジェンドマリーナを再度購入した い、という人が増えつつあるのも事実で、その方々へご希望どうり納品出来ないのが、残念です。

このロンジン・レジェンドマリーナは、1938年度の復刻版で、裏蓋をハンター式にして、内側に初期のロンジンのロゴが刻印されている、というロン ジンファンにとっては願ってもない、仕上げになっています。ロンジン・レジェンドマリーナは、1938年にイタリア海洋地理研究所とイタリア海軍の海洋調 査にロンジン社が腕時計を企画提供したミッション・モデルです。イタリアと、関わりが非常に深い為に、S部長の話によりますと、世界限定500本の内、ほ とんど400本以上をイタリアのロンジン事業部に取られてしまったそうです。

世界の各国にあるスウォッチグループ現地法人との、人気腕時計の奪い合いは益々今後、激しくなっていくものと思われ、なかなか人気が出た腕時計は入手出来にくくなっていくのではないか?という懸念があります。

昨年、日本における、スイス時計輸入総金額は、一昨年よりもマイナスに転じたという今までの右肩上がりの輸入増加からは大きく舵が曲がったと言え、 今年度もいろんな時計輸入商社の営業マンからの話を統括してみると、再度マイナスに落ち込むのではないか?という話をよく聞きます。

日本では、スイス時計、と言えばR社、O社を代表しますが、両社の腕時計とも、日本では、販売に苦戦している伝え聞いております。他の50万円〜100万円以上の高級時計の、売れ行きも日本では苦戦していると昨秋から言われています。

機械式腕時計を愛好する時計ファンの方々の本当の価値を見極める力や、厳しい選択眼が養われて来たために、本来その価値が無いにも関わらず高ければ売れる、という価格設定をした、スイスブランドの高級時計は、かなりの苦境に追いやられていると、言えます。

その一方で、値打ちのある普及品(10万円)や、中級品(10万円〜20万円,小生にとっては充分な高級品と言えますが)のスイス腕時計は品薄状態が続いており、お客様から注文を受けても対応出来ない、という苦しいジレンマに立たされています。

特にスイス時計の中で、一番良心的な価格設定をしている、ハミルトン腕時計などはほとんど、どの機種も品切れ状況が続いており、お買い求めのお客様に十分な対応や期待に応じられないのが今の状況です。

中国や、ロシア及びブラジル等の経済成長が著しい国民の間でスイス腕時計の人気が爆発的な広がりになり、丁度10年前の日本の時計市場に機械式腕時計が完全に復活した人気が中国や、ロシア及びブラジル等で、怒濤のように起きているのが事実です。

今後、世界の国の輸入代理店どうしの時計の奪いあいが熾烈を極めていくでしょう。原油高で諸物価が値上がりしていく不況感が漂う今、スイス時計の普及品及び中級品を如何に確保していくかが、時計店にとって死活問題になっていくのではないか?と思われます。

●続・時計の小話 第90話(ダボサについて)●

先月、オリス、エポス等の日本正規代理店(株)ユーロパッションの営業マンH君が来店し、新規に取扱いを始めた 『DAVOSA(ダボサ)』 というスイス腕時計の見本を持って来ました。

弊店取扱いブランドも数多くなってきましたので、在庫を抱える負担も大きく、当初は参考程度に見るだけに留めて置きました。しかし、印象が大きく、何時になってもなかなか頭から離れなかったので先月末よりDAVOSAを一部取扱いを開始しました。

このDAVOSAというブランドは、小生40年近くこの業界に身を置いているにも関わらず、全く存在すら知りませんでした。営業マンから、聞いたと ころによりますと、100年以上の歴史がある時計メーカーでスイスではそこそこ知れ渡っている、時計ブランドだと、聞きました。

一番に驚かされたのは、価格設定が極めて低く押さえている事です。ハミルトンや、エポスに優るとも劣らない低価格設定になっています。それにも関わらずデザインも良く、造りも綺麗で質感もあり、なかなかの出来映えに仕上がっています。

今まで購入して頂いたお客様からも賛辞を頂いています。レギュレーターモデルやパワーリザーブ機能を搭載したモデルや、GMT機能を搭載したモデル 等々が10万円前後の価格に設定されています。ETA社製の信頼がおけるムーブメントを基調にして、この様に極めて良心的な低い価格設定にしている DAVOSA社の会社方針に頭が下がる思いがします。

それにしても、同じムーブメントを搭載した他のスイス有名高級腕時計メーカーが30万〜50万円以上の価格設定をして販売している事に驚かざるをえません。この価格差は大きく何に起因するものなのでしょうか。

以前にある有名な滋養強壮の飲み物が経済誌に価格の80%が宣伝費と、書かれていて驚愕した記憶があります。恐らく日本で高価格で販売しているスイス腕時計の価格は、宣伝費が占める割合が非常に高いのではないか?と推測せざるをえません。

DAVOSAの中で一番人気の時計は、 SIMPLEX AUTOMATIC 161.431.50でIWCマーク15を彷彿とさせる顔貌を持った時計にも関わらず、弊店販売価格はアンダー7万円を切る値段で今後品薄状態が続くものと思われます。

●続・時計の小話 第91話(ヒゲ持ちについて)●

ヒゲゼンマイの外端曲線の先端には、ヒゲをヒゲクサビで留めたヒゲ持ちというパーツがあります。
ヒゲ持ちをテンプ受地板にネジ止めする事により、テンプが収縮回転運動をします。
ヒゲ持ちを止めるネジが弛んだり、脱落すると時計は止まったり、大きな誤差が生じます。

近年のETA社ムーブメントは、加工技術が飛躍的に高まった為と、生産効率を上げるためにヒゲ持ちをネジで止めないで、地板に挟み込んで保持する方 法を取っている為にヒゲ持ちネジが脱落して故障する、という事は全く無くなりました。(ヒゲの高さを平に調節する面倒もなくなりました)

元来、ヒゲ持ちの形状はほとんどが円柱形ですが、旧型グランドセイコー等には、三角柱という形状があります。現行ロレックスの場合は、ヒゲ持ちが板 状で、挟み込んで止める方法を取っています。(旧精工舎社が何故、旧GS等に三角柱の形状のヒゲ持ちにしたかは、小生には解りかねる処です。三角柱の形状 のヒゲ持ちのネジ留めは何度もOHしている場合凹が出来ては難しいと言えるでしょうか)

ヒゲ持ちの高さを適切に調整する事によって、ヒゲゼンマイを水平に収縮する様にします。ヒゲゼンマイが外側から観て、皿状になっていたり、皿を俯せにした様になっていたりした場合には、等時性に微妙に悪い影響を受けます。

よってヒゲ持ちを止めるネジを締める時は、細心の注意が必要です。何回もOHをされてきた腕時計のムーブメントの場合、時計職人の癖が出てヒゲ持ち留めネジを強く締めこんでいる場合があります。

その場合、ヒゲ持ちにネジの先端が強く当たった為に、円錐状の大きな窪みが出来てしまいます。その窪みが正確な位置にあった場合はなんら問題は無い のですが、ヒゲゼンマイが平になっていない時、適切な位置のヒゲ持ちにして、ネジを締めこんでも悪い位置の円錐状の窪みにどうしても填ってしまう場合があ り、その時は、相当面倒な加工調整になります。

その時は、ヒゲクサビを外して、ヒゲ持ちを最小の四つ割にはめ込んで、円錐状の窪みをヤスリとか、油砥石で平にしなければなりません。平にした場合には、ヒゲ持ちをどこにでもネジで止められる為に、ヒゲゼンマイを平に収縮する様に位置止め出来ます。

何故、ヒゲゼンマイを平にすべきか?は文字板上(DU)、文字板下(DD)と日差の誤差の影響が生じる為です。ヒゲゼンマイが皿状になった場合に は、平姿勢で進む傾向が出ますし、ヒゲゼンマイが皿の俯せ状になった場合には、平姿勢で遅れる傾向が出ます。文字板上(DU)の状態で、ヒゲゼンマイを平 にする事がベストですが、組み立てる時には、文字板下(DD)側から見て、平になっていれば良しと言えるでしょう。

現行のロレックスのムーブメントのヒゲ持ちは、板状で挟んで止めるので、ヒゲゼンマイを容易にベストの平に止める様に工夫されています。そんな日差僅かにしか影響を受けない所でも、ロレックス社はこだわってヒゲ持ちを適切な位置に留めやすくする様な形状にしています。

●続・時計の小話 第92話(セイコー・イズル(iZUL)について)●

セイコー社が、スプリングドライブ方式の手巻き腕時計(Cal,7R68)を世界で初めて開発して発売したのは1999年でした。それ以降はセイコーのトップの位置に君臨しているクレドール・ブランドに中心に搭載されて発売されるようになりました。

今ではセイコーの旗艦ブランドであるグランドセイコーにもスプリングドライブ方式の腕時計が発売されて、その名が序々に世間に知れ渡る様になりました。

スプリングドライブ方式のスポーツヴァージョン・ブランドとして『ガランテ』、セイコー高級ドレスウォッチとして、セイコーファンに熱烈な支持を得 ている『クレドール』にも多くスプリングドライブ方式が採用され、最近では『イズル(iZUL)』というスプリングドライブ方式のクロノグラフ (Cal,5R85日差+-1秒、垂直クラッチ方式、ピラーホイール方式採用)も発売されています。

『イズル』はガランテよりもさらにアウトドア・スポーツのプロフェッショナル向けに開発された、地味なデザインながらも目盛り等が判読しやすい様に工夫された先進的なクロノグラフに仕上がっています。

『イズル』REF.SDAA003は、船舶用マリンクロノメーターを彷彿とさせる様なデザインに仕上がっており、今後消え去る事無く生き続けるセイ コーブランドの一つになっていくと思われます。この時計をある百貨店の時計売場で初めて見たときは小生は大いなる感動を覚えました。(1964年に発売さ れたセイコーストップウォッチ8922系に非常によく似た文字板に仕上がっています。視認性の優秀なストップウォッチとして名を轟かさせました)

B社、Z社のクロノグラフよりも高い携帯精度を求めるメカ式クロノグラフ・ファン(水晶発振子で制御・調速する方法ですが動力源はゼンマイで、ある意味ではメカ式と言えないこともない仕組みです)の方にお薦め出来る腕時計です。

残念な事に『イズル』はどこの時計店でも求める事が出来ず、有名百貨店の時計売場しか入手出来ないのが悔やまれます。

●続・時計の小話 第93話(高級腕時計の時計修理)●

機械式腕時計の復興と共に、時計修理(オーバーホール等を含む)依頼の中で高精度高級腕時計(ク ロノメーター級クラス)の占める割合が、とても高くなってきたのが現況です。小生がこの業界に入った30数年前では、クロノメーター級クラスの分解掃除・ 修理は20個の内、1個程度しかなかった記憶がありますが、現在では、約半数近くが高精度メカ式腕時計になっています。

ユーザーの方の精度を求める要求が強いと共に、メカ式時計愛好家の方が増え、また可処分所得が豊かになり、高級腕時計がよく売られている事も原因に考えられます。

若い頃はクロノメーター級クラスの腕時計のOH時は嬉しくて意気込んで作業をしたものですが最近では殆ど毎日ですので非常に疲れるのも事実ではあり ます。クロノメーター級高精度腕時計を時計修理するには、経験と勘だけではとても太刀打ち出来ず、時計理論に立脚した、調整技術を習得しなければユーザー の方の満足を得られません。

精度調整には大きく分けて、二つあります。

平姿勢(文字板上・DU、文字板下・DD)における等時性調整と、縦姿勢(リューズ上・PU、リューズ下・PD、リューズ右・PR、リューズ左・ PL)における等時性調整があり、それを複合的に考慮して精度を絞り込むという作業があります。(特に文字板上・DU、リューズ左・PL、リューズ下・ PDが重要になります)

分解、洗浄をして完全に組み立て、アンクル注油等も非の打ち所がない注油作業をし、アンクル入り爪、出爪の第一、第二停止量を適量か確認し、ヒゲゼ ンマイの縦振れ、テンワの縦振れ、ヒゲゼンマイの偏心取りを100%に近い状態にした上で、平姿勢、縦姿勢の等時性の調整を行うのです。

平姿勢及び、縦姿勢の等時性の調整をする前には、ゼンマイ全巻き状態でテンプの振り角が300度前後あり、ゼンマイを24時間経過した時点での巻き 上げ状態でテンプの振り角が220度以上ある事を確認してから、下記の作業に入っていかなければなりません。テンプ振り角が充分に確保できていない場合は 歩度調整するには難儀なもので無理が生じます。

平姿勢等時性の調整には、ヒゲ棒、ヒゲ受けの間のヒゲゼンマイのアオリ調整が非常に重要なポイントになります。ゼンマイ全巻きと、角穴車が3回転半 もどした24時間経過したゼンマイ巻き上げ状態との日差が、10秒前後以内に仕上げるのがクロノメーター級調整には要求されます。(程度の良いアンティー クのクロノメーター級クラスでも、各パーツの損耗・摩耗が見られる為、テンプ振り角が十分に得られない為に日差15秒前後にならざるを得ない場合がありま す。)

ヒゲゼンマイのヒゲ受け内のアオリ調整は、時計職人が漠然と修理作業をするのでは無く、多くの経験を積んでデーターを頭の中に貯め込み、即座に調整する時にどの様にヒゲ調整すれば精度が絞れるか、理論と共に経験を積み上げていかなければならないでしょう。

ヒゲゼンマイの巻込角(ヒゲのピンニングポイントとヒゲ棒との角度)も平姿勢等時性に対して影響力が大きいのですが、この点は時計設計者の善処を求める以外、時計職人としてはどうしようもない所です。

縦姿勢の等時性の調整には、大きく分けてテンプの片重り、ヒゲ玉の片重り、ヒゲゼンマイの片重り、及び脱進機誤差、及び天真ホゾの微妙な曲がり等の調整が考えられます。

今日では、テンプの片重り調整や、ヒゲ玉の片重り調整等は、メーカーの工作機械の精密加工技術が過去と比較して数段良くなったのと設計が完璧なまで に出来ている為、時計職人が片重り器を使って、調整する事は皆無になりました。(特にロレックスのヒゲ玉の形状は設計に苦心惨憺の痕が伺い知れます)

ヒゲゼンマイの重心移動による誤差はピンニングポイントからの理想内端曲線にしなければ、取れない為に毎日の修理作業では、それをする事は不可能な 為、出来うる限りヒゲゼンマイ偏心・収縮運動をなくす様にヒゲ調整をするのが一番大事な作業になります。ヒゲゼンマイの外端は必ず理想曲線に近い状態にし なければなりません。

脱進機誤差の調整には、爪石とガンギ歯のロッキングコーナーの咬み合いを爪石面の1/5にし、ドテピンを限界にまで狭めて第二停止量のアンクルの引 きを小さくする事により、重力から受ける脱進機誤差を少なく調整する事ができますが、現在では時計精密加工技術が極限にまで理想近い状態になっている為、 この作業もほとんどする事が無くなりましたが、アンティーク・クロノメーター級腕時計の時計修理には必要な調整技術と、言えます。

(古いアンティークの修理の場合、各パーツの損耗・摩耗が激しく調子が出ず、交換したくても純正パーツが入手できない時は、止まっている仮死状態を1日動 かすだけでも目一杯の修理になる時があり、当然充分な精度も出ず、その時は長時間修理作業しても脱力感に襲われるものです)

●続・時計の小話 第94話(ETA社の珠玉のムーブメント)●

スイス高級有名腕時計(カルティエ、インターナショナル、オメガ、ロンジン、エベル、ボー ム&メルシェ、ウブロ、ブライトリング等々)が、ETA社のムーブメントを採用している大きな原因は、ムーブメントのコストパフォーマンスの秀逸 さと、オーバーホール等の修理調整がし易いという利点と共に、高精度を絞りやすいという大きなメリットがあるからに他ありません。

ETA社のムーブメントの代表的Calに、
紳士用手巻きにはCal.2801、Cal.7001、
紳士用自動巻には、Cal.2824、Cal.2836、Cal.2892があります。
婦人用自動巻には、Cal.2000、Cal.2621等があります。
クロノグラフムーブメントには、有名なCal.7750が秀峰のようにあります。
懐中時計のムーブメントには、Cal.6497/98が歴然と存在します。

最近時折、懐中時計用ムーブメント・Cal.6497/98を搭載した、手巻腕時計のオーバーホール・修理の依頼を受けます。この懐中時計用ムーブメントを搭載した、スイス腕時計には、パネライ、タグホイヤー、アルピナ、エポス等々沢山あります。

中でも、エポスのCal.6497/98を採用した、手巻腕時計の修理を受けた時は、大型テンプを採用して慣性モーメントが高い為に、精度がいとも容易く出、心安らぎながら修理が出来る時計職人にとってはありがたい機種になっています。

地板にはコート・ド・ジュネーブ仕上げをしたエポス3366系の腕時計の仕上げの美しさには惚れ惚れする様な気持ちを抱きながら修理をし、なおかつ 価格が8万円前後と抑えてあり、パネライ、タグホイヤー等の様に数十万円する訳でも無く、手頃な価格で入手出来るのは、時計愛好家の人達にとっては、
嬉しい価格設定だと思います。

このCal.6497/98は、今から40年ほど前の1967年に開発された、歴史ある名機と言えます。竜頭を3時位置にして9時位置にスモール・ セコンド針があるのがCal.6497で6時位置にスモール・セコンド針があるのがCal.6498です。振動数も18,000から21,600振動と進 化し、駆動時間も56時間へと増大した為に、ユーザーの方にとっては、精度も申し分なく、使い勝手もとても良くなっています。

Cal.6497/98に微調整緩急針『トリオビス』が採用されているムーブメントの場合、ほとんど難しい調整をする事無く、クロノメーター級の精 度が簡単に出る事を思えば、このCal.6497/98は、ETA社の数ある名機の中で、Cal.7750と共に、最高のムーブメントと断じても言い過ぎ ては無いと思います。

●続・時計の小話 第95話(久しぶりの懐かしい電話)●

1971年度のCMW公認高級時計師試験を同期で合格した、アメリカ合衆国ネブラスカ州に在住の遠藤勉氏から、今日(2008/12/14 PM1時)久しぶりに電話がかかってきました。

彼は、CMW試験合格後、アメリカのベンラス時計会社に日本時計師会米国留学生として、アメリカに渡り、その後も日本に帰国する事無く、アメリカで永住権を得て、現在まで、彼の地で住んでおられる人です。

懐かしさのあまり話が弾んで、40分以上お話をしてしまいました。彼は7年前に時計技術者の仕事をリタイアして、その後は悠々自適の生活をしておられるそうです。米国では、時計職人の社会的の地位も高くて、遠藤君は恵まれた環境の中におられるそうです。

リタイア後、時計蒐集家が集う地元の時計愛好会倶楽部に入会して、自分の保有している腕時計や懐中時計をお互いに見せあいっこして、自慢話に花を咲かせているそうです。

彼の一番の自慢する時計は、1940年代・太平洋戦争中に作られたのではないかと思われる、ハミルトンの船舶専用機械時計『マリンクロノメー ター(北極星・太陽の位置を手がかりとして経度と船舶の位置を正確に知り的確な航海をするための船舶にとって欠かせない必需品)』との事でした。

自ら手入れを何年間に一度はして、今でも月差数秒以内の超高精度を維持しているそうで、並のクォーツよりも遥かにいい精度を出すそうです。1940年代のハミルトン社がスイス・ユリスナルダン製マリンクロノメーターを凌駕する様な時計を作っていた事に驚かされました。

アメリカ製工業製品は、日本人の概念として、雑な様な感じを受け取ってきましたが、アメリカ人は日本人に優るとも劣らない器用さを持った民族性がある、と思わざるを得ませんでした。

遠藤君が所有するハミルトン社製マリンクロノメーターは直径12cm程あり、温度補正も完璧におこなわれているそうで、内陸部の気温差の激しいネブラスカ州に住んでいる遠藤君の話では、温度の影響をほとんど受けずに素晴らしい精度を出しているそうです。

第二次世界大戦の頃に、ハミルトン社はアメリカ海軍のオフィシャル時計として採用され、『フロッグマン』という当時としては、防水性能の優れたダイ バーズウォッチを開発して、重要なミッションには、欠かせないギアとなっていました。その復刻版として『カーキネイビー』として現在でも発売されていて、 アンティークファンには根強い人気を持っています。

近日中に遠藤君から自己所有の『ハミルトン・マリンクロノメーター』の写真を撮って小生に送ってくれるそうで、写真が着き次第、読者の皆様にも公開したいと思っています。

遠藤君の話によると、ネブラスカの時計蒐集家にとって、セイコーの過去の『キングセイコー』、や『グランドセイコー』がアメリカ人に高い評価を受 け、人気を博しているそうです。中でも第二精工舎が製造した、手巻き10振動の名機『Cal.45』系が非常に人気を集めているそうです。

私は、アメリカ本国に一度も行った事が無いので、元気な内に渡米をして遠藤君と再会する事を約して電話を切りました。※昭和46年頃、マリンクロノメーターと言えば高級品で新品で20〜30万円したものでした。

●続・時計の小話 第96話(ミューレ グラスヒュッテ)●

昨秋以来ドイツの名門時計メーカー・ミューレ グラスヒュッテの日本小売価格の見直しが起こり、内外価格差の是正が図られ、ドイツ本国で購入する価格に近い値段になりました。

ドイツに駐在しておられる、日本商社マンの方からミューレ グラスヒュッテのドイツと日本との大きな小売価格差をメールにて時折指摘されていましたので、これでようやく、日本でもミューレ グラスヒュッテがお買い求めしやすくなったのではないか、と思います。

小売時計店への仕入れ原価率も上がり、日本の小売価格設定も圧縮して抑えている為に、今後地味ではありますが、ミューレ グラスヒュッテの人気がじょじょに出ていくものと思います。

2008年末に発売されたミューレ グラスヒュッテの新モデルに、緩急針調整に独自のウッドペッカーレギュレーターが搭載される様になりました。これは、アンティーク高級時計に採用されてき た、スワンネック型緩急針に匹敵するもので、より高度な精度調整が容易くなる、という仕組みです。

チュードルやロンジン、ノモス社に採用されているトリオビス・ファイン・アジャストメントと同様の高精度調整が出来るのがウッドペッカーレギュレー ターです。ミーンタイムスクリュー、マイクロステラ、スワンネック、トリオビスと共に、ウッドペッカーレギュレーターは今後時計業界に認知されていく高級 な緩急針調整方式と思います。

ミューレ グラスヒュッテ社は、1869年にドイツ・グラスヒュッテで創業を開始し、1994年に復活を遂げたドイツの名門時計メーカーです。船舶及び自動車に搭載 する、高級クロックや、精密測定機器等の、精密小型機械を作り続けてきたドイツの時計メーカーで、近年では、メルセデスベンツ社からコラボの申し入れを受 け、ミューレ グラスヒュッテ・ベンツ・コラボモデル等も発売して世界中のベンツファンから熱い眼差しを受けました。

ミューレ グラスヒュッテ社の腕時計の機械はETA社製をベースにしていますが、ミューレ社が更にチューイングアップしていますのでユーザーの方々に満足度の高い腕時計に仕上がっています。

ミューレ グラスヒュッテ社は、ノモス社の様に近い未来にはマニュファクチュール(完全自社生産体制)を目指すものと思われ、ドイツの4箇所の州立時計学校(グラス ヒュッテ、ハンブルグ、フォートバンゲン、フォルツハイム等)から、卒業生を今後多く受け入れて飛躍していくものと思われ、将来が楽しみな時計メーカーに なっていくと期待されます。

●続・時計の小話 第97話(セイコー・スポーツマチック5の修理)●

昨年、11月末に大阪府S市のY様から、1966年諏訪精工舎製 セイコー・スポーツマチック5
21石 5振動(Cal.6619A ムーブメント直径28.1mm 厚さ6.4mm 新品時の社内精度基準Dクラス・日差-20〜+35秒) デイデイト付きのオーバーホールのご依頼を受けました。

この時計は、Y様のお父様が若い頃、使用されていた時計で、今では使われていない眠っている状態で、修理してお父様をおそらく喜ばせてあげたい、と いう気持ちが伝わるメールが弊店に届きました。完全に停止していた状態でしたので、分解しながら原因を調べておりましたが、テンプの振り座についている 『振り石』が飛んで外れている状態でした。非常に小さなパーツなので、慎重にムーブ及びケース内を捜しましたが見つからず、どうしたものかと思案にくれて おりました。

もう既に43年以上経過した腕時計ですので、セイコー部品センターには無いのは解りきっていましたし、微かな望みを抱いて弊店取引先の大阪の時計材 料店に問い合わせてみましたら、やはり余りにも前の時計なので、部品は見つかりませんでした。もし万が一あったとしても振り石だけを売る、という販売経路 は無く、振り石が取り付けられている振り座一式か、またはテンプ一式になるのではないかと思っておりました。

どこからも入手出来そうに無いので、弊店が所持している『セイコー・ウォッチ部品カタログ』を取り出しCal.6619A系のパーツ詳細を調べてみ ました。Cal.6619Aのテンプ一式部品番号は『310-660』と解りました。セイコー・パーツのテンプは頭の数字が必ず、310-から始まりま す。(ちなみにガンギ車は251-から始まり、アンクル301-から始まります。)

弊店はセイコー及びシチズンのパーツを時計店としては、日本でおそらくトップ3に入るほど多く持っているのではないかと、自負しておりましたので一 応念のために、パーツ整理箱にこのスポーツマチック5のテンプが無いかと探してみました所、なんと在庫として持っている事が解り、大袈裟ですが大変な喜び がありました。

このテンプ一式(テンワ、天真、振り座、振り石、ヒゲ玉、ヒゲゼンマイ、ヒゲ持ち、ヒゲクサビの計8個で構成されています)を0.1gまで正確に計 れる重量測定機で計ってみたところ、0.1g以下で、測定不能でした。おそらく0.0Xgだと思われ、テンプが非常に軽いという事が読者の皆様に判って頂 けるのではないか、と思います。

トゥールビヨンのテンプ及び脱進機は想像を絶する軽さでないと、上手く作動・機能しないので、機会があればどれ程軽いのか一度計ってみたいと思いま す。そう言えばグランドセイコーCal,9Sムーブメントの生誕10周年記念限定モデルのムーブには重力の影響を受ける脱進機誤差を少なくする為にアンク ル・ガンギ車を極限にまで軽く仕上げ加工しているそうです。

又軽くすることによりテンプへのトルクの伝達効率を良くし、等時性を向上させる意味もあります。
(スケルトン・ウォッチのように余分な贅肉を削って筋肉化しているようです)

●続・時計の小話 第98話(キングセイコークォーツのOH)●

先月、宮城県M町Y様から、お父様が約30年前に買われたキングセイコークォーツ腕時計 (Cal,5856A 8石 32,768Hz ムーブメント25,6mm 3,4mm トリマコンデンサ緩急方式採用 1977年諏訪精工舎製) の止まって不良の修理依頼を受けました。

30年以上も前の水晶腕時計の修理の依頼の場合、注意しなければならない厄介な事があります。 正確に分解・洗浄・組立・注油しても電子部品の不良のために全く作動しない場合があるのです。

そうなるとそれまでの修理作業が全くの徒労に帰してしまいます。
よって古いクォーツの修理依頼の場合は洗浄する前に分解途中で、回路ブロックの導通点検やコイルブロックの断線点検等々、電子部品の点検をまずしなければなりません。
電子部品が正常である、という確認後に地板や輪列歯車の分解洗浄を行います。

20年以上前のクォーツ腕時計の場合、電子部品はメーカーも既に在庫を持っていないので、電子部品が、不具合・不良の場合は時計の寿命が尽きてしま い、もはや修理する事は不可能となります。このキングセイコークォーツは、各電子部品が正常でしたので、分解・洗浄・組立・注油へと作業が順調に進みまし た。

作業の結果、このCal,5856Aは、非常に優れた機能を持ったムーブメントである事が解りました。

リューズ一段目で秒修正装置がついており、リューズ左回りで『1クリック』するだけで+2秒進む事が出来、リューズ右回り『1クリック』だけで-2秒の簡単な秒調整が出来る仕組みになっています。
その仕組みは秒修正カムが秒修正リードピンに接触した場合、回路ブロックから一秒間に2回電子信号が出て、秒針を2秒進ませたり遅らせたり出来る様になっています。

組立調整時には、秒躍制レバーの調整が非常に難しい点があります。60倍の双眼顕微鏡を用いて、『4番車の歯』と『秒躍制レバーの爪』とが隙間無く確実に接触している様に秒躍制レバーのネジを回して調整をしなければなりません。

現代では、クォーツのステップモーターや輪列車はプラスチック樹脂を使用しているのが当たり前ですが、30年前以上の高級クォーツには、メカ式の歯車と同じ様に金属で作られており堅牢でした。
このキングセイコークォーツは、音叉腕時計と同様の繊細な修理作業が必要ですが現行のクォーツではこういう面倒な作業はほとんど無くなり、容易く オーバーホール修理が出来る様になり、時計職人にとっては時計電子技術の進歩のおかげでクォーツ修理作業が楽になったと言えます。

●続・時計の小話 第99話(クロノグラフ機能)●

若い人のみならず、中年の時計愛好家の皆さんにもクロノグラフ(ストップウォッチ機能付き)腕時計が根強い人気があります。

クロノグラフは、秒、分、時を測定出来るという基本的な時間計測が出来ますが、ベゼルに各種の目盛りを入れる事により、他の計測が出来るという強 者・つわもののクロノグラフがあります。有名なの機能が、タキメーター、パルスメーター、テレメーター、レガッタ用カウントダウンタイマー、航空機用回転 計算尺機能等があります。

ロレックス、オリス、ハミルトン、エポス、フォルティス等のクロノグラフにはタキメーターのベゼルがついています。カーレースで1キロメーターを車 が走破した時に、ストップした時、クロノ秒針が指し示した数値が時速になります。鈴鹿サーキットに行かれるとカーレースファンがよく使用されている光景が 目に飛び込んできます。

パルスメーターは、脈拍15拍を計測するだけで1分間の脈拍回数がすぐに判るという便利な機能で、看護士、や医師に重宝されている医療腕時計の一つです。

ハンハルトやエポスに採用されているテレメーターは、光が目に捉えられた瞬間にスタートボタンを押し、音が耳に届いた時にストップをする事でその距 離が簡単に割り出せる事が出来る機能です。雷雨の時や、夏の風物詩の花火大会の時などに距離を簡単に測る事が出来ます。本来は海軍砲兵隊に欠かせなかっ た、砲撃用テレメーター観測付きクロノグラフとして開発されたものでした。

ロレックス、ハミルトンに採用されているレガッタ用カウントダウンタイマーは、レガッタの独自なルールに乗っ取ってスタートまでの残り時間を計測する機能を持った時計です。海が大好きな人には欠かせない時計と言えるでしょう。

セイコープロスペックス等に搭載されている航空機用回転計算尺は、フライトに欠かせない速度計算や、燃料消費量等の必須の計算が出来る高機能を持った腕時計と言えます。パイロットの皆さんの左腕には必ずはめられている時計でしょう。

その他にはメカ式で1/100秒を計れるクロノグラフが最近開発されました。毎秒100振動という超ハイビートのムーブメントを搭載している代物で、耐久性等に関してどうかな?と小生は少し疑問符を持っています。

また、ゴルファーにはスコアカウンター機能付きの腕時計も開発されていて、多種多様の趣味人に期待を添えられる様なクロノグラフが発売されていてメカ式クロノグラフ人気の下支えをしています。

●続・時計の小話 第100話(悪戦苦闘の修理)●

愛知県のI様から今月初め、1970年第二精工舎製のキングセイコー・クロノメーター手巻き腕時計(Cal.4500A 25石) の修理依頼を受けました。

この時計は、I様が30年以上愛用されてきたキングセイコーで、ゼンマイの巻き上げが出来ず、弊店に来る前に三軒の時計修理店に修理を依頼されましたが、ゼンマイや歯車が手に入らないという、理由で断られた時計でした。

なんとか弊店にて修理依頼を受けて欲しい、という事なので小生の好きなセイコー・Cal.45なので受ける事に致しました。分解してみますと、ゼン マイは当然の如く切れておりましたし、ゼンマイが一杯巻かれた状態で一瞬に切れた様なので爆発的な力が歯車の歯・カナに加わった為でしょうか?香箱車の歯 こぼれや、二番車の歯こぼれがありました。

Cal.45はセイコーの最高峰の手巻きの名機なのですが、10振動のハイビートの為、ゼンマイトルクが強い影響で中心カナ車や、中心カナ伝え車の 歯やカナが損耗・摩耗しているのが多く見られます。この時計も当然の如く、中心カナ車(パーツNo.226450)、中心カナ伝え車(パーツ No.296450)の大きな損耗・摩耗が見られました。

セイコーCal.45は、高精度が出る非常に良い機械なので小生は以前より機会があればこの時計のパーツを出来うる限り集めてきました。ゼンマイ、 香箱車、2番車等は弊店在庫がありましたが、中心カナ車(パーツNo.226450)、中心カナ伝え車(パーツNo.296450)のパーツはもう既に使 いきって持っておりませんでした。

製造元のセイコー社にはとうの昔にこの時計のパーツは全く持っていないので、弊店取引先の時計材料店に2、3軒当たってみましたが、どうしても中心カナ車だけは見つからず、中心カナ伝え車のみ、やっとの思いで、ある材料店から入手出来ました。

それにしてもセイコーは何故、歴史に残る過去の名機の腕時計のパーツを持っていないのか不思議でなりません。クォーツ一辺倒に会社が目指していたときにメカ式のパーツを処分してしまったのでしょうか?残念でなりません。

(諏訪セイコー・現セイコーエプソンのT氏が弊店に来られたときに言っておられましたが随分昔に会社はメカ式の設計図・マイクロフイルム・修理工具等を全て破棄してしまったとの事でした)

中心カナ車も摩耗していた為、交換すべきなのですが、もはや入手出来ないのでやむをえず、そのパーツは交換せずに何とか修理してオーバーホールを完 了致しました。この時計は以前にも時計の小話で何度か触れましたが、時計職人の技量が試される高精度の出る機械なので、ヒゲゼンマイ等を精密調整しました 所、40年近く経っているにもかかわらず、優秀クロノメーター級の精度が蘇りました。

3週間、悪戦苦闘した時計修理でしたが、修理完了してホッとしました。I様には、きっと喜ばれた事と思っております。手巻き腕時計の場合、留意すべ き点はリューズを右回りに30回程巻いてリューズが回らなくなるまで、一日に一回ゆっくり巻き一杯に巻き上げた後、さらに強く巻き上げますとゼンマイが切 れてしまいますので注意が必要です。

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