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●時計の小話 第181話(ユリス・ナルダン(ミケランジェロ))●石川県の方から、ユリス・ナルダン ミケランジェロ自動巻腕時計の修理依頼を受けました。
http://www.isozaki-tokei.com/syuri-swiss_others2.htm(載っています) スイス旅行の際に買ってこられた腕時計で、インターネットで検索して当店にご来店頂きました。 この時計はインジケーター付きで、セコンドとカレンダーがインダイアルにあり、結構調整が難しい機構でした(同じミケランジェロ・シリーズにムーンフェイス・トリプルカレンダー搭載の品番161-47 定価125万円があります。これも基本的機械は「フレデリック・ピゲ社」Cal.9640と同じです)。 ナルダンキャリバーはCal.17-6 19石でしたが、もとをただせばブランパンにムーブメントを供給している「フレデリック・ピゲ社」Cal.9640から派生して生まれてきた見事な機械です。 自動巻であるにも関わらず、厚さが3.25mmと言う薄さの為に、組立調整が極めて難しいものでした。 この時計の故障の一つに、針を合わせる時にリューズを引っ張ると抜け落ちると言う事がありました。 一般的にこういう故障は、オシドリネジがゆるんでいる場合や、オシドリの巻真の溝に入るピンが摩耗してへたっている場合や、オシドリを押さえる日の裏押さえバネが折れている場合等が考えられます。 しかし、このナルダンは薄型に仕上げて、オシドリの先端を巻真の溝に入れている為に、何百回と針合わせをしている間に、オシドリの先端が摩耗したり、巻真の溝がへたってきて抜け落ちるという原因でした。 ナルダンのパーツの供給が当店では出来ないために、カンヌキとオシドリの噛み合わせを精密ヤスリですって緩やかにし、日の裏押さえバネとオシドリの噛み合わせも精密ヤスリで緩やかにして、オシドリの先端を鋭角に仕上げて修理しました。 この時計は文字板の足がネジで地板に止めない方法(単に地板穴に文字板足を入れるだけ)をとっているために、普通はケージングする前に文字板・針5本を全てムーブに組み込んでからするのですが、ムーブのみを裏側ケース(ワンピース・ケース)に入れてから文字板・針を取り付ける方法をとっていました(巻真がジョイント方式で汽車の連結部分と似ているやり方です)。 そして文字板足を入れて文字板のガタツキをケースの上層部で押さえつけて動かないようにする方法です。 薄型にするためにこのような方法を採用しているので、アフターの修理作業が大変です。 セイコーのU.T.Dに自動巻を取り付けたような薄型であるために、組立調整に本当に神経を使いました。 アンクルも極めて小さいために、アンクル爪に注油するのが本当に至難でした。 毎日こういう時計の組立調整をしているスイス・ナルダン工場の技術者の精神力に脱帽したくなります。 ・・・余談・・・ 最近発売された、ある時計雑誌に、ある記事が載っていました。 その中でちょっと気になる事があったので書いておきます。 ある人が「ハイビートの脱進機は動きが早すぎてガンギから油が飛び散ってしまう」と述べておられましたが、この注油作業の方法はどうかな?と思います。 正しい油の刺し方をすればそういうことはハイビートでもあり得ないと思うのです。 一度に多くの油をアンクル爪に刺すからそうなるのであって、極少量の油をアンクル入爪に刺し、ガンギ歯3つをアンクル入爪に噛ませた後、また極少量の油をアンクル入爪に刺し、この作業を数回繰り返してガンギ車をアンクル爪に1回転させれば、油が飛ぶという事は絶対おきないことなのです。 この方法なら万遍なく適切に適量がガンギ歯にアンクル油が塗布されるのです(ゼニス等の36000振動の腕時計ではメーカーでは当然このような油の刺し方をしているはずです。アンクルの油が、ある人が言うように飛び散ってしまったら正常に長く動きません。ゼニスは長期間、精度がイイのは使用者には判りきった事実です)。 アンクル爪に一度に多く注油すると、アンクル爪の根元や、ガンギ歯の歯の根元の方に流れてしまい、結局油を多く刺しても、適量を適切に刺すよりも全く逆効果になってしまいます。 よく雑誌で「ハイビートは寿命が短い」言っていますが、このようなアンクル爪の油の刺し方では、当然そのようになってしまうのも仕方ない事です(もう一つの飛び散る原因は、ハイビート専用のアンクル油ではなく、粘着力の弱いロービートのアンクル油を刺している場合も考えられます)。 ●時計の小話 第182話(最近の「ショパール社」の動向)●世界一のムーブメント供給会社「ETA社」が近い将来、スウォッチ・グループ以外にムーブメントを供給しないのではないか、と言う噂が広まっています。
真偽のほどはともかくとして、今までETA社からムーブメントを供給されていたスイスの時計会社が慌てだし、自社開発の機械を搭載した腕時計を発売しだしたのは事実です(本当にそうなったら大変な事態になるでしょうが、万が一のため逃げ道を作っておきたいというのが本音でしょう。私としてはその方が個性あるムーブメントが生まれて楽しいのですが・・。スイスの各時計会社が一貫生産メーカー・マニュファクチュールになったらもの凄いことでしょうね)。 その中で、私が一番注目しているのはスイスの時計会社、「ショパール社」です。 1996年に開発したショパール・キャリバー(Cal.L.U.C1.96)の機械は本当に見事な出来映えです。 ユニバーサル社がかつて発売した、マイクロローター式を踏襲した薄型の自動巻です。 ローターには比重の重い22金を使用し巻き上げ効率を高め、香箱を2個導入することにより、駆動時間が65時間と、長く持つように仕上げています。 緩急針も微細調整が出来るように、懐かしいスワンネック型に作っています。 振動数はプロトタイプでは21,600振動でしたが、高精度が出る28,800振動に進化させています。 このキャリバーはパティック・フィリップと同じように、高級腕時計の証明、ジュネーブ・シールを取得しています。 特に特筆すべき点は、平ヒゲゼンマイが主流を占めている今日、あえて調整作業のむずかしい巻き上げヒゲゼンマイを採用したことです。 パティック・フィリップ、オーディマ・ピゲ、バセロン・コンスタンチン等の最近のスイス最高級腕時計の機械も平ヒゲゼンマイを多く採用しつつある今、ブレゲヒゲを取り入れた事は、英断と言っても差し支えないでしょう。 ブレゲ巻き上げヒゲゼンマイは伸縮運動をする時に真円状態になっている為、ヒゲゼンマイの重心移動が極めて少なく、重心移動による姿勢差誤差が少ないのです。 極論すれば、ブレゲ巻き上げヒゲゼンマイを採用している調速機は、トゥールビヨンに匹敵する精度を持っていると言っても過言ではないかもしれません(ROLEX社はブレゲ巻き上げヒゲゼンマイを意固地なまでに今日まで採用しつづけている希有な時計会社です)。 平ヒゲゼンマイの場合は、どんな熟練な技術者がヒゲ調整しても必ず重心移動が起こり、その為に姿勢差誤差が生じます。 かつてセイコー舎は、この難問を解決する方法として、キングセイコーの平ヒゲゼンマイのある場所に、ゴミのような金属片を取り付けていました。 初めてこのキングセイコーの修理をした時は、ヒゲゼンマイに「ゴミが付いている」と錯覚するほどでした。 でもこの方法はあくまで邪道だと私は思っています。 ブレゲ巻き上げヒゲゼンマイに匹敵する高精度のメカ式調速機はこれから出現しないものと思います。 かって天文台コンクールに出品された精度競争用の腕時計・懐中時計はどれもがブレゲ巻き上げヒゲゼンマイを搭載していたことからもわかって頂けると思います。 「ショパール社」の今後の動向に大いに注目です。 ・・・・余談・・・・ 「ショパール社」にはブレゲ巻き上げヒゲゼンマイの内端・外端の理想曲線カーブを出来る時計職人は数名の方のみしかいないと言うことです。 あるスイス時計会社では有能な女性時計技術者一人しかこのヒゲ調整作業が出来ないのでヘッド・ハンティングを防ぐ意味で名前を明かさない時計会社もあります。 CMW試験では19セイコーのブレゲ巻き上げヒゲゼンマイを内端・外端の理想曲線カーブに仕上げなければ高得点では到底、合格出来ませんでした。 CMW試験が如何に超難関の試験だったか、その事だけでもお解りしていただけると思います。 ●時計の小話 第183話(Ω『コーアクシャル(共軸脱進機)』について)●伝統のあるオメガ社が、新機構の脱進機『コーアクシャル(共軸脱進機)』を搭載した魅力あるΩ・デビル腕時計を矢継ぎ早に発売し出しました。
この脱進機『コーアクシャル(共軸脱進機)』は1977年、天才時計師ジョージ・ダニエルズが発明いたしました。 商品化するまでに四半世紀の時間が必要だったわけです。 18世紀にトーマス・マッジがレバー脱進機を発明して以来、初めて登場した全く新しい仕組みの脱進機です(裏スケルトンになっているタイプもありますが、残念ながらその動きは 拡大鏡ルーペで見ても地板で隠れて見えません)。 この脱進機の特徴は、エネルギーを伝達させるパーツ間の摩擦を大幅に減らす事によって、従来のクラブツースレバー脱進機よりも、長期間にわたって安定した精度が維持されるという事です(OHする期間が倍に延びたと言われていますが、他の歯車・輪列機構は同じですので、ある程度、期間・7年以上が過ぎればやはりOHの必要があるのではないでしょうか)。 また、この脱進機に接触しているオメガのフリー・スプラング天府が相乗効果を生んで更に精度を高めています。 このフリー・スプラング天府はROLEXの天府と似ていますが、平ヒゲゼンマイを採用しています(ヒゲゼンマイの外端も理想に近い終末曲線を描いております)。 天輪・天真への衝撃を和らげる為に4本のアミダを持ち、微細精度調整が出来る2個のマイクロスクリュー(ミーン・タイムスクリュー)を持っています。 ヒゲ玉にも工夫を凝らし、従来の割れ目があるヒゲ玉を採用するのではなく、ニヴァトロニック型でテンプの片重りが出来にくい形をとっています。 ROLEX式を真似たのではないのでしょうが、ヒゲ棒がなく、その為に天府運動(ヒゲ伸縮)によるヒゲゼンマイのヒゲ棒接触変化による精度変動を無くしている為に、等時性に優れています。 しかし、本当に正しい評価をされるのは発売後5年過ぎてからでしょうか? <オメガ・デビルのコーアクシャル新キャリバーの紹介> ・Cal.2500・・・時、分、秒、日付機能付き自動巻クロノメータームーブメント。 コート・ド・ジュネーブ仕様され、ロジウムメッキで美しく仕上げされています。 地板はベルラージュ仕上げが施されています。 公式COSC検定に合格し、クロノメーター規格も取得。28,800振動。27石。 ・Cal.2628・・・時、分、秒、日付、GMT機能付き自動巻クロノメータームーブメント。 24時間針第二の国の時刻を表示します。 海外旅行中、出発地と到着地の時刻を瞬時に判別できます。 28,800振動。27石。公式COSC検定に合格し、クロノメーター規格も取得。 ・Cal.2627・・・時、分、日付機能付き自動巻クロノメータームーブメント。 9時位置にスモールセコンド、6時位置にパワーリザーブを表示。 この時計のパワーリザーブは44時間です。28,800振動。27石。 公式COSC検定に合格し、クロノメーター規格も取得。 これら上記の新キャリバーは、ETA社キャリバー2892A2を基本として進化させた優れた『コーアクシャル(共軸脱進機)』エスケープメントです。 ●時計の小話 第184話(『ランゲ&ゾーネ』についてNo.2)●昨年12月末、大阪に用事があったので、ついでにD百貨店の時計売場を見てきました。
その中に『ランゲ&ゾーネ』のコーナーがあり、ランゲ1(定価230万円)とダトグラフ(定価595万円)が各1本づつ陳列してありました(さすが大手百貨店だなーと感心しました)。 雑誌ではどんな機械か漠然と知っていましたが、裏シースルーバックなので、無理を言って中の機械を見せてもらいました。 ランゲ1は平ヒゲゼンマイでしたが、ダトグラフはブレゲ巻き上げヒゲゼンマイを採用しており、宝石のような感嘆する非常に美しいムーブメントでした。 私がもしお金持ちなら、衝動買いをしてしまいそうな感動を覚えました。 私が今まで見た中でダトグラフは一番キレイに仕上げた腕時計でした。 『ランゲ&ゾーネ社』は一つのモデルに一つのムーブメントを新しく製作する事を社是にしています。 他のスイス高級時計のように、同じムーブメントを搭載して多数のモデルを作るという方針とは全く違っています。 『ランゲ&ゾーネ社』のムーブメント組立工程で特に目を見張るべき事は、全製品に対して二度組立という手間のかかる事を敢えてしている事です。 二度組立とは、一度ムーブメントを組み立てて精度を限界にまでに絞り込み、そこでクロノメーター検査の倍の10姿勢で日差を徹底的に調整するのです。 それが終わってから再度完全分解し、洗浄後、装飾仕上げを施して組立調整するという、入念な作業をしています(2回目に焼き入れ青ネジを使っています)。 最近、『ランゲ&ゾーネ社』は女性用Cal.L911.4を開発し、女性用・手巻き腕時計を売り出しました。 「アーケード」と言うネーミングで、アウトサイズデイト表示を採用し、美しい機械式腕時計です(皮ベルト・18WGケースが125万円、18KYGケース・ブレスが220万円します)。 女性の方で最近メカ式に目覚めた人は一見の値がある時計です。 帰りに取引先の並行輸入元を訪ねてみると、今流行の『フランク・ミューラー』の トゥールビヨンが置いてありました。 見てみると平ヒゲゼンマイを採用していたので、正直びっくりしました。 トゥールビヨンは姿勢差誤差を補正する機能なので、完全なまでに姿勢差を追求するには、当然巻き上げヒゲを採用するべきではないかと思った次第です。 世界限定18本、フランク・ミューラー・サンセット、SSケース、ETA社系の自動巻ムーブを入れてプレミアム価格120万円には、本当に驚きました。 それでもフランク・ミューラが日本で飛ぶように売れているそうですから、フランク・ミューラの魅力は摩訶不思議ですね。 ●時計の小話 第185話(トゥールビヨン)●ETA社に対抗するムーブメントメーカー『ロンダ社』の子会社として知られている『プログレス社』が、廉価なトゥールビヨンのプロトタイプを発表したのは2000年バーゼルフェアにおいてでした。
約3000スイスフラン(日本円で約300,000円)という想像だにしない価格のムーブメントを売り出したので、スイス時計業界が喧々囂々の騒ぎになったのは容易に想像出来ます。 この『プログレス社』のトゥールビヨンはキャリバーが4種類(6361.101、6361.151、6561.101、6561.151)用意され、手巻き・自動巻・デイト表示のものがありました。 このキャリバーを搭載したスイス時計メーカーは、クロノスイス、フレデリック・コンスタント、アイクポッド、アラン・シルベスタイン等でした。 それまでトゥールビヨンと言えば、日本小売価格は1,000万〜2,000万円(その小売価格設定自体がもともと可笑しいのですが)もする超高額腕時計で、スイス時計の高級イメージを代表するコンプリケーションでした。 それが、300万円前後(それでも高値ですが)で日本で売り出されたので、超高級イメージが壊れてしまうのではないか、と私は懸念していました。 また、先行のスイス高級時計メーカーがどのような対抗手段を取るのか見物でした。 しばらくすると案の定、『プログレス社』の経営が行き詰まりだし、いろんな噂が飛び交ったため信用不安を起こし、破綻した事を最近知りました。 日本でも「出る杭は打つ」という諺がありますが、『プログレス社』にもいろんな方面からの圧力があったものと私は推測しています。 おそらく、資金的な面やエボーシュに関しての供給問題等、当事者にとっては頭が痛い事が次から次とあった事でしょう。 トゥールビヨンをスイス時計の儲け柱のドル箱に育てていきたいと思っていた高級ブランドメーカーが、『プログレス社』に対して直接・間接的に、いろんな圧力をかけたのではないかと思っています。 昨年末のスイス時計フェアが各有名百貨店にて開催されこの未曾有の不景気にもかかわらず超高額トゥールビヨンが各店で何本も売れたと言うことを輸入代理店から聞きました。 そういう需要が日本にもあるという事をセイコー社のトップの人によく知って貰いたいものです。 セイコーの技術力をもってすればコンピューター設計を駆使し最新のNCN旋盤加工で、超高精度のパーツの生産が出来うるものと思います。 よって昔ほどトゥールビヨンの組立・調整は難しいことはないと思います(熟練組立技術者がいなくても充分、対応出来るはずです)。 是非、セイコーのトゥールビヨンを一日も早く開発して欲しいと願う今日この頃です(東谷宗郎先生のセイコー・トゥールビヨン・プロトタイプがもう完成しているのですから・・・、スプリング・ドライブよりどれ程魅力があることか・・・)。 ●時計の小話 第186話(道具について)●1/5の晩、NHKで大変興味のある番組が放送されていました。
伝統工芸品を製作する職人さん達の使う道具が入手出来ない状態が、最近続いているという内容でした。 道具を作る材料が入手出来ない上、それを作る職人さんも減ってきていると言うことです。 石川県では漆器の輪島塗が特に有名ですが、蒔絵を書く特殊な筆がここ10数年1本も生産されていないそうです。 その筆の原料となる毛(くまネズミ)は琵琶湖湖岸の葦が茂っている所にしか生息しないそうですが、護岸工事のために日本ではもうほとんど捕れなくなってしまったのです。 そしてこの筆を作ることの出来る職人さんは京都に住んでいる一人の職人さんしかもう作れないという、お寒い状態なのです。 蒔絵師にとって命綱のこの筆が入手できないと言うことは、職業の道をたたれる事を意味する大問題なのです。 一流の繊維会社に人工繊維で筆を作って欲しいと長年試作品を作ってもらっても、なかなかイイ物が作れないと言う事でした(天然の素材がいかに優れているか如実に物語る話です)。 これによく似た事が時計修理業界にもあります。 最近、時計小型精密旋盤をもう一台購入したく、日本全国の時計材料店に問い合わせましたが、どこも在庫を持っておらず、今大いに悩んでいる所です。 時計旋盤も長年使用してきますと、センターに若干誤差(千分の五mm)が出るのです。 天真の先端のホゾは0.08〜0.05mm位の細さになる為、センターのほんの僅かな狂いが大いなる影響を及ぼすのです。 国産のアロー、ジェム等はとうの昔に生産をうち切っているのは知っていましたが、今ではボーレー、ベルジョンしか作っていないとの事です。 それも備品(チャック等)を揃えたらベルジョンで360万円を越す価格で大いに今悩んでいる所です(私は約30年前にジェムの時計旋盤を65,000円で買った記憶がありますが何という高騰でしょうか)。 時計工具はそれぞれの時計職人がいろんな工夫をして自分が使いやすいように自作して使用しますが旋盤・タガネ・超音波洗浄機・タイムグラファー等の修理道具はどうしても買わなければ入手出来得ないのです。 時計職人(そのころは時計店店主がほとんど自店で修理していました)が日本で2万人位いた40年ほど前なら需要が沢山あり、生産してもそれなりに採算がとれ売れたでしょうが、今では世界中でも3万人位しか時計技術職人はいないということです。 おそらく日本でも現役でバリバリ活躍している腕のいい時計技術者は200人もいないでしょう。 よってなかなか時計修理道具が入手出来なくなってきているのです。 ●時計の小話 第187話(ピアジェのOH)●昨年12月、長崎県のTさんからピアジェ極薄手巻き腕時計(Cal.9P2 18石、ムーブNo.818749、厚さ2.01mm・直径20.7mm、K18WG側・文字板オニキス)のOH依頼を受けました。
ピアジェはスイス高級腕時計4社(パテック、バセロン、オーディマ)の中の1社で、
世界中にファンを持った有名時計会社です。
ワクワクして荷物の到着を待っていました。
宅配便が届き、梱包を開けて見てみますと、
文字盤に貴石のオニキスを使っているではありませんか。
ピアジェは文字盤に貴石やメレーダイヤを沢山埋め込んで使っている宝飾時計メーカーとしても、知られています。
厄介なことに、オニキス等の貴石を使った文字盤は、針を抜く時によほど慎重に作業をしないと、ヒビが入る可能性が極めて高いのです。
ヒビを入れてしまうと、交換するのに数十万円かかる為、ミスは絶対に許されません。
万が一作業ミスでヒビを入れた場合、店が全額負担しなければならず、どんな腕のいい職人がいる時計店でも、修理依頼を100%断るのが常識になっています。(エージェント送りが当たり前なのです。)
文字盤にヒビを入れてしまい、弁償したという話を以前に何回か聞いた覚えがあります。
私も今回受け取って、断ろうかと思いましたが、前回にも修理依頼を受けている人ですので、何とかしてやりたいと思い、ケースを開けてみました。
開けてみると、オニキスの厚みが若干厚く感じられたので、「やってみよう」と決断してみたら、うまく作業が終了し、ホッとした次第です。
時計本体の修理よりも、針を抜く作業の方が数倍難しいと言うことがあるのです。
ピアジェ社はカルティエ、オーディマ・ピゲ等にムーブメントを供給してきたマニュファクチュール(自社一貫生産メーカー)です。
最近では新設計の薄型手巻きCal.430Pを開発し、「ウルトラシン」と言うネーミングで売り出しました。
また、自動巻Cal.500Pを搭載した「アップストリーム」は、新機構のクラスプベゼルを採用しています。
どちらとも非常に魅力のある腕時計です。
●時計の小話 第188話(メカ式GSの精度)●昨年末、セイコー社から弊店へ下記のような案内が届きました。
『グランドセイコー機械式腕時計の携帯精度表記について (1)表記内容 グランドセイコーの携帯精度は−1〜+10秒が目安です。 通常のご使用状態で一週間から十日間程度お使いになった際の平均値がこの目安範囲を超える場合には、調整させて頂きます。 ご購入後2年以内は無償、それ以降は有償。 ただしご使用期間が長く、部品が経年劣化している場合にはご希望の精度に調整できないことがありますので予めご了承ください。 なお上記内容はグランドセイコー規格(ムーブメント単体での静的精度※で平均日差−3〜+5秒)の表記と併記されますが、このグランドセイコー規格については「実際に使用したときの携帯精度とは異なる」旨を必ず記載いたします ※静的精度とは、ケース組込み前のムーブメント単体を一定条件下に人工的に管理された環境において数日間かけて実測した場合の数値です。 これは使用条件の違い(ぜんまいの巻上げ量、温度、姿勢【時計の向き】等)によって携帯使用した場合の精度が変化しやすい機械式時計の精度実力を公平に評価・表示する ためのもので、スイスのクロノメーター規格も基本的には同様の考え方です。 【グランドセイコー規格検定】は3温度差・6姿勢差の条件下で17日間かけて実測し合格したもののみを製品化し販売しております (2)考え方 '98年12月の発売以来、グランドセイコー機械式腕時計はムーブメント単体での静的精度を前提とした【グランドセイコー規格】に基づく数値のみを精度表示してまいりました。 しかしながらこれまで購入いただいたお客様からは、グランドセイコー規格の静的精度と、実際に使用される際の携帯精度との違いについてお問い合わせ等をいただくことが多々ございました。 弊社としましてはその都度、静的精度と携帯精度との違いについてご説明させていただいておりましたが、よりお客様にわかりやすい表示を実現するために、このたび携帯精度の目安を表示することにいたしました。 ※なお'02年10月以前に出荷いたしました商品には携帯精度に関する表記がございませんが、精度、性能等は変わりありません。 したがいまして、携帯精度が上記の目安範囲を超える場合には、同様に調整させていただきます。』 ・・・・との内容でした。 35万円以上もする機械式腕時計ですから、できるだけ新品時の携帯精度を−2〜+5秒以内に収めてから、出荷するべきだと思いました。(セイコーの技術陣をもってしてもGS携帯精度を−3〜+5秒にすることは 困難な事なのでしょうか。) 当店でGSをお買い上げ下さった方の3〜5年後のOH依頼の時には、携帯精度を−2〜+5秒以内に収めてお渡ししたいと思っています。 (全てのGSを出荷段階で携帯精度−2〜+5秒以内に収めるのが無理だと メーカーが感じた場合は、何らかの善後策を取るべきだと思います。 緩急針を微細精度調整が出来るスワンネック型に変更するか、天輪にミーンタイムスクリューを取り付けるか、ブレゲ巻上げヒゲに変更するかしなければならないと私は感じています。) 35年前に発売されたCal.45を搭載したGSの携帯精度は−2〜+5秒以内だった記憶があります。 発売したお客様から絶賛の言葉を受けたと父は誇らしげにいつも語っておりました。 最近の時計雑誌にCal.45を搭載した1969年製GS・VFAが何と88万円でアンティークショップで売られているのには腰を抜かす程ビックリしました。 (Cal.45を搭載した30年前のKSでも時間をかけて精密調整すれば、 GS・VFAの精度に匹敵する正確さが蘇ります。) ●時計の小話 第189話(メカ式GSの精度・続編)●世界中に高級腕時計メーカーがたくさんあるにも関わらず、弊店のホームページ左メニュートップにグランドセイコー(GS)を取り上げているのは、この業界に入って約30年間の熱い思い入れがGSにはあるからなのです。
私がこの業界に入った頃(おそらく今でもそうですが)、GSは車で言うとトヨタ・クラウンに匹敵し、キングセイコー(KS)はトヨタ・マークIIに当てはまったのではないかと思っています。 25歳の頃、実家の時計店を手伝っていた頃、親父に「KSを買いたいけどいいかな?」と言いましたら、親父は即座に「まだお前には早い」と言われ、買うことが出来なかった記憶があります。 KSでも高嶺の花で、ましてやGSと言えば手に届かない夢の時計であったのです。 セイコーウォッチ販売(株)の社長さんが、齢60歳近くになって憧れのGSを初めて手に入れたように、私にとってGSはまさしく憧憬の腕時計だったのです。 父親も時計店を長年経営しているにも関わらず、50歳頃になって初めて新品のGSを自分用におろしたのを見ました。 私はKSを持てなかったので、セイコー5を時間をかけて精密調整し、GSの精度に負けない正確さの腕時計にし、愛用していました。 セイコー社を私が何故こんなにまで愛しているのかと言えば、KSよりも廉価版の「ロード・マーベル」、「クラウン」、「スカイライナー」、「セイコーマチック」、「ロード・マチック」、「5アクタス」等は、完璧に修理調整すれば、優秀クロノメーター規格以上の精度が出る良心的な時計づくりを創業以来、ずーっと続けてきた時計会社だからなのです。(腕時計設計力は世界一だと思っていますし、機械のどこを見ても手抜きのない時計作りをしているのがセイコー社なのです。) 前回、現行のGSにあのような辛口批評が出たのは、セイコー社やGSを長く愛してきたからなのかもしれません。 これからも私が生きていく限り、セイコーGSを愛し続けてやまないでしょうし、GSが世界的に認められ、パティックに負けない最高峰の腕時計として君臨して欲しいと願っているからなのでしょう。 また、それが当然の正当な評価の腕時計であるからなのです。 30年前以上の腕時計のOHで、私の技術にすぐさま反応し、応えてくれるのは、GSとロレックスなのです。 そういう時計づくりを長年してきたセイコーとロレックスに対して、私は深い尊敬と敬愛の念を抱いています。 ●時計の小話 第190話(独立時計師アカデミーについて)●今、日本で人気がある腕時計の中で、スイス独立時計師アカデミーが作ったものが特に耳目を集めています。
その代表的なアカデミーは、フランク・ミューラー氏、フィリップ・デュフォー氏、アントワーヌ・プレジウソ氏等でしょう。 ここ15年間、卓越した技術を持ったスイス時計師達が自分のブランドを立ち上げ、製作販売し出しました。 彼らが何故独立時計師になれたのかは、1970年代〜80年代のクォーツクラッシュの影響が大いに及ぼしたものと推測しています。 何故なら、狭いスイス国土の中に、当時は1500社以上の機械式時計関連企業があったからです。 クォーツクラッシュのために、多くのエボーシュメーカーが倒産・廃業に追い込まれていきました。 その数は1000社以上にのぼるものです。(おそらく膨大な数にのぼる時計工作機械がただ同然の値で引き取られていったことでしょう。) 日本のセイコー、シチズン等のマスプロ・マスセルを社是とする一大時計メーカーと違い、スイス時計業界は家内手工業の小規模な部品メーカーが分業し、時計作りをしていました。 廃業に追いやられた小規模なエボーシュメーカーの時計製作用の工作機械を、おそらく想像を絶する安価で独立時計師達は手に入れられたからではないかと思っております。(フィリップ・デュフォー氏は倒産したコモ社の時計工作機械を入手し、自宅の工房に持ち込み、製作をし出しました) 日本の時計メーカーの時計工作機械は大がかりな物で、とても個人で所有出来るものではなかったのです。 日本にもスイスと同じような状況におかれていたら、アカデミークラスの技術を持った人達がおられるので、おそらくその仲間入りが出来たことでしょう。 スイス独立時計師に匹敵する技術を持った人は日本にも何人かはおられます。 末和海先生、行方二郎先生、多田稔先生等は、もしスイスに住まれてたら、当然アカデミーの仲間入りになり、独自の新機構の腕時計を開発されていたでしょう。 私なんかがお側に寄れない腕を持った高級時計師は日本全国にまだまだ沢山おられます。その方々は労働省から卓越技能者「現代の名工」として、褒賞されています。(そのほとんどの諸先生方は、CMW技師で各地方に一名の方がおられます) 将来、日本にもスイス独立時計師アカデミーに負けない時計技術者がこれから出てくることを期待しています。 それには必須条件として、いかにして安価な時計工作機械を入手出来るかにかかっていると言っても過言ではないでしょう。 ●時計の小話 第191話(プラスチック樹脂歯車)●豊橋市にある中小企業(株)樹研工業(松浦元男社長)が、時計産業に大きく貢献している事をNHKの番組を見て知りました。
1/1000gのプラスチック樹脂製の歯車を製作する事に成功し、日本と香港の腕時計メーカーにパーツ(歯車)を納品している、という事です。 そう言えば、クォーツムーブメントの歯車はほとんどがプラスチック樹脂で出来ています。 クォーツの心臓部・ステップモーターでさえ、プラスチック樹脂を採用している事に出会ったりします。 ステップモーターの回転トルクは非常に弱い為に、歯車を軽量化・小型化しないと、十分な作動がしないものと思います。 最近、樹研工業は2億円の設備・開発投資を行い、1/100,000gのプラスチック樹脂製の歯車を製造することに成功したそうです。 どれほどの大きさかと言えば、直径は髪の毛の太さ位の大きさです。 余りにも究極な小ささの為に、それを応用する製品はまだ見つかっていないという事ですが、医療分野にも将来大きな展望が開くものと私は思っています。 おそらく(推測ですが)、この開発を知ったスウォッチグループ(ETA社)?がこの会社の技術力に目を付け、精度の高い自動車のスピードメーターを開発するために、担当者が会社を訪問しました。 開発費を丸抱えの好条件で契約したそうです。 この樹研工業の売り上げの何割かが、時計メーカーに収めるプラスチック樹脂歯車だと言うことです。 中部地方の一中小企業が世界中の時計メーカーを相手にしているなんてすごいことですね。 最近頻繁に各社のクロノグラフに採用され出した、ETA2892A2をベースとした2階建てのクロノグラフ(デュボア・デプラ社製モジュール搭載)や、ETA2890-2の2階建てのクロノグラフムーブメントのクロノグラフ機構にプラスチック樹脂歯車が使われている事があります。 かつてプラスチック樹脂歯車を採用したクロノグラフに故障が多いというクレームがあり、数年で生産中止に追い込まれていったクロノ・キャリバーが少なからずあります。 この2階建てのクロノグラフは、木造平屋建て(自動巻ムーブメント)の2階部分に、鉄骨コンクリート(クロノグラフ機構)を建て増ししたようなムーブメントです。 将来、どのような運命をたどるのか・・・言葉は悪いのですが少し不安な気持ちがしないでもないです。 クロノグラフムーブメントは手巻きに名作が多いのですが、自動巻クロノグラフムーブメントで安心して使用出来る機械は、今や既に名機の仲間入りを果たした汎用クロノグラフムーブメント:バルジュー7750です。 このムーブメントはクロノ歯車部分にプラスチック樹脂歯車を採用しておらず、長年の使用に耐えられる設計がされています。 この根拠によって多くのスイス時計メーカーがバルジュー7750を採用しています。 やはり、機械式クロノグラフ腕時計の歯車にはプラスチック樹脂を使わず、金属歯車で充分動くメカを設計して欲しいと思っています。 豊橋市にある中小企業(株)樹研工業(松浦元男社長)が、時計産業に大きく貢献している事をNHKの番組を見て知りました。 1/1000gのプラスチック樹脂製の歯車を製作する事に成功し、日本と香港の腕時計メーカーにパーツ(歯車)を納品している、という事です。 そう言えば、クォーツムーブメントの歯車はほとんどがプラスチック樹脂で出来ています。 クォーツの心臓部・ステップモーターでさえ、プラスチック樹脂を採用している事に出会ったりします。 ステップモーターの回転トルクは非常に弱い為に、歯車を軽量化・小型化しないと、十分な作動がしないものと思います。 最近、樹研工業は2億円の設備・開発投資を行い、1/100,000gのプラスチック樹脂製の歯車を製造することに成功したそうです。 どれほどの大きさかと言えば、直径は髪の毛の太さ位の大きさです。 余りにも究極な小ささの為に、それを応用する製品はまだ見つかっていないという事ですが、医療分野にも将来大きな展望が開くものと私は思っています。 おそらく(推測ですが)、この開発を知ったスウォッチグループ(ETA社)?がこの会社の技術力に目を付け、精度の高い自動車のスピードメーターを開発するために、担当者が会社を訪問しました。 開発費を丸抱えの好条件で契約したそうです。 この樹研工業の売り上げの何割かが、時計メーカーに収めるプラスチック樹脂歯車だと言うことです。 中部地方の一中小企業が世界中の時計メーカーを相手にしているなんてすごいことですね。 最近頻繁に各社のクロノグラフに採用され出した、ETA2892A2をベースとした2階建てのクロノグラフ(デュボア・デプラ社製モジュール搭載)や、ETA2890-2の2階建てのクロノグラフムーブメントのクロノグラフ機構にプラスチック樹脂歯車が使われている事があります。 かつてプラスチック樹脂歯車を採用したクロノグラフに故障が多いというクレームがあり、数年で生産中止に追い込まれていったクロノ・キャリバーが少なからずあります。 この2階建てのクロノグラフは、木造平屋建て(自動巻ムーブメント)の2階部分に、鉄骨コンクリート(クロノグラフ機構)を建て増ししたようなムーブメントです。 将来、どのような運命をたどるのか・・・言葉は悪いのですが少し不安な気持ちがしないでもないです。 クロノグラフムーブメントは手巻きに名作が多いのですが、自動巻クロノグラフムーブメントで安心して使用出来る機械は、今や既に名機の仲間入りを果たした汎用クロノグラフムーブメント:バルジュー7750です。 このムーブメントはクロノ歯車部分にプラスチック樹脂歯車を採用しておらず、長年の使用に耐えられる設計がされています。 この根拠によって多くのスイス時計メーカーがバルジュー7750を採用しています。 やはり、機械式クロノグラフ腕時計の歯車にはプラスチック樹脂を使わず、金属歯車で充分動くメカを設計して欲しいと思っています。 ●時計の小話 第192話(時計技術習得について)●今年度の時計技術通信講座(第三期)第一回を2月19日と26日の二回に分けて、計8名の方が参加されました(今年は受講希望者が多くやむえなく、8名の方を取りましたが、さすがに終わってみたら疲労困憊で来年はどんなに多くの方が募集されても4名しか取らない予定です)。
今回は各講座生に教材として19セイコー懐中時計(セコンド・インダイアル式)をオークションやアンティークショップで購入してもらいました(入手価格はおよそ¥15,000〜¥25,000です)。 第一期生・第二期生には、弊店が保有している19セイコーを教材として提供していましたが、のべ8人の方にあっちこっち触られてしまったので、とても調子が悪くなってしまい、今回は受講生の方に各自負担で用意をしてもらいました。 機械式19セイコー(セコンド・インダイアル式 15石)は25年以上も前に生産をうち切られておりますが、国鉄及び各社鉄道用に大量に使用されていた為、まだまだ廉価で入手出来ます。 機械式19セイコー(セコンド・インダイアル式)のムーブメントと本当によく似た懐中時計が現在、ゼニス社から発売されています。 その品番は「07.0051.141」で、定価は何と¥630,000もします。 よって、19セイコーを高くても¥30,000以内で現在入手出来るのですから、機械の精密さ・高精度の出るブレゲ巻き上げヒゲの調速機搭載等を考慮すれば、非常に安い買い物なので、受講生の方に最高の教材になるので、無理言って買っていただきました(19セイコーは高等技術者が修理時間を度外視して調整すれば日差3秒以内におさまり高精度がでる最高のムーブメントです。チラネジ天輪でミーンタイムスクリュー付きで、今もしセイコーが生産再発売すれば、ゆうに20万円以上の値が付く高級機種だと思っております。現行の腕時計に見られる飾りだけのチラネジ天輪ではなく、実際にチラ座を入れて片重り調整が出来る本格的なテンプです)。 受講生8人の方も一日がかりで分解・洗浄・組立・注油等の作業を全てうまく完了し、帰られる時には順調に動いていました。 機械がとにかく美しいから皆さん感動されていたようです。 話は変わりますが、今年からロレックス社が時計技術学校を東京に開校しました。 期間は2年間で、授業料は1年間100万円、初年度だけ工具代30万円かかり、2年間で総額230万円かかるそうです。 講師をされる人は若いお二人で、少人数の生徒を教えられるそうです。 その学校の名前は「東京ウォッチテクニカム」と言います。 これから時計技術を専門的に学びたい若い人達にとっては、いろんな選択肢が増え、朗報だと思いました。 1.近江時計眼鏡宝飾専門学校(滋賀県・大津市) 期間:3年間、授業料他:約450万円前後 2.ヒコ・みづのジュエリーカレッジ(東京都・渋谷区) ・ウォッチメーカーコース 期間:3年間、授業料他:約500万円前後 3.東京ウォッチテクニカム(東京都・江東区) 期間:2年間、授業料、工具代:約230万円 4.WOSTEP(ウォステップ)時計学校(スイス・ニューシャテル市) 期間:3年間、授業料:約?万円(情報がないのでハッキリした金額はわかりませんが、日本の時計学校とほぼ同額だと聞いております) 各学校の授業料が高いので、若い人にとっては相当な負担がかかると思います。 時計技術は奥が深いので、基本を2〜3年間でゆっくり教えるのが理想なのかもしれません。 しかしながら、基本的技術を集中的に教え込み、生徒が情熱を持って自己研鑽すれば、私は1年という期間があれば十分だと思っています(ランゲ&ゾーネ社が短期間であのような見事な復活を成し得た大きな理由は、技術者養成カリキュラムが即効性のある実践的教育だったからでしょう)。 私は時計技術を本格的にやりだして、ほぼ1年間で基本的な時計技術をマスターしました。 大津の行方先生の技術講習会を2回受け、大阪の加藤先生にも3回ほど旋盤技術・調整技術を教わり、菅波錦平先生には1年間にわたり通信教育を受けました。 あとはほとんど時計技術専門書を繰り返し繰り返し読んで勉強しました。 最近、私が時計技術の座右の銘として大切にしていた本が復刊されたことをとても嬉しく思っております。 一つは「基礎時計読本:小林敏夫先生著 ¥5,000」、もう一つは「標準時計技術読本:CMW日本支部編 ¥5,600」です(内容を考えれば非常に良心的な価格です)。 販売先はラ・テール出版社で通信販売をしています。 → http://www.laterre.co.jp/f_shopping.html おそらく復刻部数が少ないと思われますので、将来時計技術者を目指す人は、早めにご購入されることをお薦めします。 ●時計の小話 第193話(時計技術叢書)●問い合わせが色々ありますので、私が若い時に読んで勉強した時計技術関係の本を下記に書きます。
既に絶版して入手不可能な本もあろうかと思いますが、どうしても読んで勉強してみたいと思われる方は、各時計学校や国会図書館にはあるかと思います。 <初級編:3級時計修理技能士、WOSTEP用> ・「わかりやすい最新時計学」 著者:国友秀夫・佐藤政弘、出版:誠文堂新光社 ・「百萬人の時計学」 著者:佐藤政弘、出版:精密工業新聞社 ・「初歩時計技術読本」 著者:桑名良造、出版:グノモン社 ・「電気時計技術読本」 著者:野元輝義・高宗寛暁、出版:グノモン社 ・「THE WATCH REPAIRER'S MANUAL」 著者:ヘンリー・B・フリード ・「THE MECHANISM OF THE WATCH」 著者:J・スウィンバーン <中級編:WOSTEP用、2級時計修理技能士、1級時計修理技能士用> ・「時計旋盤工作」 著者:大川勇、出版:村木時計 ・「通俗時計学」 著者:大川勇、出版:いわき時計技術研究室・・・名著 ・「標準時計技術読本」 著者:CMW日本支部、出版:グノモン社・・・名著 ・「基礎時計読本」 著者:小林敏夫、出版:グノモン社・・・名著 ・「時計修理技術読本」 著者:小野茂、菅波錦平、出版:村木時計・・・名著 ・「実用電気時計総説 上下巻」 著者:業界各氏、出版:精密工業新聞社 ・「時計学教科書」 著者:佐藤政弘、出版:全時連 ・「誇りある誤差」 著者:藤井省吾、出版:芝巧芸 ・「脱進機・調速機と給油」 著者:岩沢央、出版:シチズン時計・・・名著 ・「図解・タガネ使用法」 著者:菅波錦平、出版:村木時計 ・「アナタをテストする」 著者:小野茂、出版:村木時計 ・「時計油の知識」 著者:勝沼愛生、出版:村木時計 ・「月刊誌・時計技術」 著者:菅波錦平 小野茂 野元輝義先生他、出版:村木時計 ・「PRACTICAL WATCH REPAIRING」 著者:ドナルド・D・カルロ・・・名著 <上級編:1級時計修理技能士、CMW用> ・「電気と電子腕時計のすべて」 著者:フランツ・シュミードリン、出版:村木時計 ・「腕時計の調整」 著者:H・イェンドリッキー、出版:村木時計・・・・名著 ・「脱進機」 著者:多田稔先生、出版:日本時計師会・・・・名著 ・「脱進機の秘訣・ひげぜんまい取扱の秘訣・時計の歩度調整」 著者:末和海、藤野寿夫先生他、出版:グノモン社・・・・名著 ・「測定機の実際例」 著者:石塚要、出版:村木時計 ・「時計師試験学科問題解説集」 著者:日本時計師会・飯田弘 飯田茂 岩崎吉博 北山次郎 角野常三 末和海他諸先生 出版:グノモン社 ・「高級テンプ式腕時計の歩度調整」 著者:依田和博、 出版:村木時計の月刊誌「時計技術」に連載・・・・名著 ・「PRACTICAL WATCH ADJUSTING」 著者:ドナルド・D・カルロ・・・・名著 上記の書籍の中で、私が繰り返し読んで勉強した本は、次に挙げる書物です。 「標準時計技術読本」、「腕時計の調整」、「脱進機」、 「脱進機の秘訣・ひげぜんまい取扱の秘訣・時計の歩度調整」、 「時計師試験学科問題解説集」、「高級テンプ式腕時計の歩度調整」、 「PRACTICAL WATCH ADJUSTING」です。 機械時計が完全に復興した今、これらの本が再刊されることを熱望してやみません。 ●時計の小話 第194話(セイコー卸商について)●現在では(株)セイコーの子会社『セイコーウォッチ(株)』から、全国の時計店がセイコーの腕時計を仕入れます。
しかしかつて時計卸商が群雄割拠した時代では、各地域の主要都市にセイコー時計卸商が一つか二つは必ずありました。 東の横綱は山田時計店(東京・仙台に営業所がありました)で、西の横綱は栄光(大阪)です。 その他には、磯村時計商会(東京・名古屋・大阪)、東京三光舎(東京・仙台・横浜・大阪・金沢・福井)、沢木時計店(東京)、東信商会(東京・富山)、金栄社(東京)、コジマ(東京・千葉)、太陽興業(大阪)、裕工舎(大阪)等々が有名でした。 しかし卸商無用論が標榜され、幾多の吸収合併・統廃合が(株)服部セイコー主導で行われ、ほとんどのセイコー時計卸商はこの世から消えて無くなっていきました。 ただ一つ現在でも存続している卸商は、大阪の栄光時計のみになっています。 私が長浜の家業を手伝っていた頃(昭和45年頃)、父親と一緒に大阪の栄光と太陽興業を訪れて、よく仕入れにいきました。 その頃セイコーが沢山売れた時代なので、卸商の店内は活気に満ちあふれていました。 従業員の方々が、各地方の時計店に腕時計や掛け時計を出荷する為に、慌ただしく梱包作業をしておられました(掛け時計・置き時計は段ボールで梱包しないで、木で枠組みを作って発送していました)。 その頃のセイコー時計卸商はどこも元気があり、セールスマンもイキイキとされていました。 春の入進学シーズン「フレッシュマン・セール」の1ヶ月間に、300本・500本単位で仕入れると温泉旅行招待等があったものです。 しかしながら父親も頻繁に大阪までには行けません。 その当時長浜には高級品のみを扱う飛脚業の方が二人おられ、毎晩小売店に来て「何か大阪に用事はありますか」と注文に来られました。 その当時はセイコーが爆発的に売れていた時代なので、人口4万人の長浜市でも、毎日3〜4本のセイコー腕時計の注文があり、それを飛脚業の人に頼んでは、大阪の卸商まで行って、取って来て貰ったりしました。 飛脚業の人は、朝一番の鈍行列車で大阪へ行き、夜の7時頃までには長浜へ帰ってきて、各時計店から依頼された商品を届けに回られてました。 今から思えば、大変な仕事をされていたんだな、とつくづく思います(現在のような大きなトランクではなく業務用の大きな風呂敷で包んで、自転車で背負って運ばれてました)。 また、正月になると各卸商から「初荷」が届きました(セイコー腕時計50本くらい)。 その初荷の商品は、売れ筋商品が3割くらいで、あとの7割は抱き合わせの、売れにくい商品が入っていたりしたものでした。 私は父親に「売れにくい商品は返品したらどうか」と言うと、父親は「店を信用してこれだけ沢山送ってくるのだから、返品は出来ない」と言って、仕入れてしまいました。 そういう時計は結局は売れ残り、店の奧の金庫に大量にたまっていた記憶があります。 私が石川県で時計店を開業した頃、東信商会の富山支店から時計を仕入れていましたが、金沢にはセイワと言う時計卸商もありました。 しかし今では二つとも消滅しました。 そして、中部地方の時計卸商は中部セイコー販売に全て吸収されました。 それも現在では無くなり、セイコーウォッチ(株)一社のみになってしまいました。 今から回想すると、沢山のセイコー卸商がこの世から消えていった事に、寂しさと侘びしさを覚えます。 裏返せばそれだけ時計店でセイコー腕時計がだんだん売れなくなっていった証拠なのかもしれません。 余録・ 一方の雄、シチズン時計は20年前、金沢に岡時計店、乾時計店と言うシチズン卸商がありましたが,2社が合併し岡乾(株)になり、これも今では消滅して中部シチズン販売(株)金沢支店のみになっています。 セイコーは北陸には一社もセイコー卸商・営業所は存在しません。 ●時計の小話 第195話(婦人用GSについて)●ある地方の方から、お母様の形見の婦人用グランドセイコー(手巻き)を直して欲しいと、修理依頼が当店に舞い込みました。
セイコー社に問い合わせても修理を断られ、インターネットで当店を検索され、送られてきました。 40年間使われていたにも関わらず、60倍の双眼顕微鏡で見てもガンギ歯のロッキングコーナー・衝撃面・レットオフコーナーは全く摩耗していませんでした。 当時のセイコー技術陣の素材研究に対する完璧さがわかるものです。 この時計は1969年第二精工舎が満を持して発売した、ハイビートで10振動のムーブメントです。 これは世界初の婦人用ハイビート発売の快挙なのです。 40年ほど前の婦人用腕時計と言えば、国産中級品で日差40秒前後狂うのは当たり前の精度で、スイス高級婦人用腕時計でも日差25秒位は狂ったものでした。 しかしこの婦人用のGSは36,000振動の為、今までの婦人用精度からは想像を絶する高精度が出ました。 メーカーが発表している許容精度は−15〜+25秒という控えめな数字でしたが、実際に携帯してみると−5〜+15秒以内に入っている素晴らしい精度を維持していました。 キャリバーは1944A(ハイビートクロノメーター、23石、中3針)、ムーブの大きさは12.9mm×19.2mmで、厚さは4.4mmでガンギ歯の数は20ありました。 私が若い頃、この時計のセイコー技術講習会に参加した記憶があります。 その時、セイコー技術者の説明では「ハイビートであるから、ガンギ車とアンクル爪には保油の為、特殊な処理膜を施しているので、修理OHの際には音波洗浄や刷毛洗い等はしないで、洗浄液(ベンジン)だけで軽くゆすぐ程度にして欲しいと言われました。 今ではハイビートの脱進機にはエピラム液処理をするのは当たり前になっているのですが、その当時は企業秘密で公には出来なかったものと思います。 そう言えば同じ10振動のロンジン・ウルトラクロンも、修理OHの場合はガンギ・アンクルの新品交換を旨としていました。 このGS婦人用は紛れもなく当時の婦人用腕時計では世界ナンバーワンの精度を維持していました。 その栄光はブローバの婦人用音叉時計が出現するまで続きました。 この時計は修理後日差+10秒前後まで精度を絞ることが出来ました。 ●時計の小話 第196話(経験と勘と理論について)●長浜にある家業の時計店を継いだ時(約30年前)、当時長浜で腕のいい技術の時計店として有名であった父親の店には時計技術関係の本は一冊もありませんでした。
約30年前の時計店では、ほとんど各自の店で時計修理をしていましたが、どこも似たり寄ったりで、時計技術の専門書をしっかり読んで時計修理を携わっている人は余りいなかったと思います。 どの店の店主も経験と勘で修理をしていたものと思います。 昭和40年代初頭に労働省が行った「時計修理技能士試験」を受験する為に、父親は初めて「時計学教科書:著者佐藤政弘」の本を購入し、それ一冊のみをよく読んで父親は1級に合格しました。 おそらく父親はそれまで長年の経験と勘で時計修理をしていたと思います。 確かに経験と勘は侮りがたいものには違いないのです。 日本光学(株)の天体望遠鏡の光学レンズの研磨に携わる著名な職人さんは、手の感覚で1ミクロン単位のレンズ研磨仕上げをするそうです。 ある著名な金床職人さんも、1ミクロン単位で金型を作り上げる事を聞き及んでおります。 こういう事はいくら理論を深く知っても、持って生まれた人間の天性の勘と経験がものを言うのでしょう。 私がCMWを受験する時、時計修理の経験は2年余りであり、経験と勘は父親とは問題にならないくらい僅かなものでした。 ですから私はまず最初に時計技術の理論を完全に把握するために、あらゆる内外の技術叢書を取り寄せて、勉強したのです。 米国時計学会から名誉あるヘイガンス賞を受賞している菅波錦平先生は「CMWとは現在の国家試験の1級の課題に比較すると、三段に位する。旋盤による巻真作り、天真作りもあり、1級受験生には手も出ない難しい試験で、この試験こそ時計修理工の技能の程度を示す本格的な試験なのであります」と述べられています。 私はこの文章を読んで、CMW試験合格は時計職人として第一歩の関門であると理解しました。 頂上の九段クラスの技術を持った末和海先生・行方二郎先生・小野茂先生・加藤日出男先生・多田稔先生等を目指すべき、今日まで経験と勘を養って来たつもりですが、しかし、まだまだ諸先生の方々が遠い遠い存在であることを認めざるをえません。 私が時計技術の理論を本格的に勉強し始めた時、脱進機調整が完全に仕上げてあるか確認出来るスジカイ試験(CMW第一回合格者・末和海先生が発見されたものです。Greater Angular Test 総合角度試験とも言う。)というものがありました。 これは時計脱進機修理の秘伝中の秘で、どの技術叢書にも書かれておらず、ほとほと困っておりました。 どういう風にすればいいのか全く見当がつかず、その頃オリエント時計の設計技師として敏腕をふるっていた小野茂先生に直接電話をして聞きました。 電話で聞いてもその時はハッキリと理解出来なかったのですが、試行錯誤の結果、ようやくその検査方法が理解出来ました。 現在スイスの超高級時計を生産している時計メーカーは必ず、そのスジカイ試験をして出荷しているものと思います。 時計修理技術には理論・経験・勘は切っても切り離せない重要な要素でしょう。 ●時計の小話 第197話(先生のタイプについて●日本時計師会(前・米国時計学会日本支部CMW)を構成する諸先生には2通りのタイプの方がおられました。
学究肌(理論派)と職人肌(技能派)のタイプの先生です。 学究肌(理論派)の代表的な先生に末 和海先生(大阪府立大学出身)、小林敏夫先生(大阪大学)、小野 茂先生(東京理科大学)、小原精三先生(神戸大学)、行方二郎先生、多田稔先生、佐藤政弘先生(東京工業大学)等がおられました。 一方、職人肌(技能派)の有名な先生に角野常三先生、野元輝義先生、米国時計学会から特別褒賞を受けられた菅波錦平先生、東北の孤高の技術者・大川勇先生です。 これらの諸先生方は日本の時計技術のレベルアップのために献身的に地方を回られ後進の育成に努力されました。 時計店を経営されながらのその行為は今日、高く評価されるべきと思っております。 その諸先生方の薫陶を受けたCMWは全国津々浦々まで誕生したのです。 特に小野 茂先生と菅波錦平先生は海外の著名な最高権威の時計技術者デ・カルロ氏(英国)、ヘンリー・フリード(米国)に非常に似た先生で日本のデ・カルロ、日本のヘンリー・フリードと言われておられました。 私もこのお二人の先生の書物には大変お世話になりました。 今まで自分が苦労して会得してきた修理技術を惜しげもなく披瀝されたのです。 それまでこの業界では技術は教わるより盗めと言われたほど閉鎖的でしたが、これらの諸先生方のお陰で率先して新しい技術を公開するのが当たり前の風土が出来たのです。 ●時計の小話 第198話(歯の摩耗)●埼玉県の方から先月、セイコー・ゴールドフェザー(Cal.60 25石 5振動)手巻き腕時計の修理を頼まれました。
この時計は1960年製で第二精工舎が売り出したもので、その当時としては国産最薄型でした(1962年にシチズン・ダイヤモンドフレイク厚さ2,75mmが出るまで日本一の薄さの時計でした)。 価格もそれなりに高く(金メッキ型で2万円前後した高級機種の記憶があります)、厚さは2,95mmというものでした。 薄型化を成功しるためにセイコー独特の輪列機構が設計されましたが、やはり少し無理があったのでしょうか、分針にガタが生じやすい欠点がありました。 しかしながら調速機構はしっかりした作りでかなりの精度はでる時計でした。 その時計は巻真も折れていましたし、長年の仕様で歯車の歯・カナが全体的に摩耗してへたっていましたのでいろんな調整に大変手間がかかりました。 特に日の裏車の歯が摩耗してきますと時間合わせがとてもしにくくなります。 よく防水時計でも横着に使用してますと筒カナ・日の裏車・笠車が錆びて付着し、無理して針合わせをすると歯がバリバリと欠ける故障が起きます。 歯車の歯も何十年と使用しますと強いゼンマイのトルクでカナを回しますので歯が減ってきたりします(人間の歯も40年、50年と生きてきますと歯が小さくなり隙間が生じたり、抜け落ちたりするのと全く同じです)。 そう言えば、手巻きクロノグラフのストップウォッチ機構を頻繁に使用しますと、秒クロノグラフ車・中間クロノグラフ車の三角状の歯がスタートボタンを押すたびに、噛み合うためにぶつかり合い、先端の三角状の歯が摩耗して減ってきてしまいます。 そうすると、歯と歯がきちんと噛み合わなくて飛んで歯が噛み合うために秒針の運針が流れるように進まなくなり、ぎこちない運針になります。 中間クロノグラフレバー調整ピンでその噛み合いを直すのですが、へたって浅くなった分、深く噛み合いさせるようにすると4番クロノグラフ車と中間クロノグラフ車が深く噛み合い止まってしまうのです。 なかなかその調整は勘がいるものなのです。 メカ式腕時計は大切に使えば人間の寿命とよく似た運命を辿るものなのかも知れません。 ●時計の小話 第199話(シチズン・ホーマーについて)●セイコーロードマーベルに対抗する、シチズン手巻き腕時計の名機がCal.020のシチズンホーマーです。
ホーマーはムーブメントの直径が25.6mm、圧さが4.0mm、振動数はロービートの18,000振動です。 この基本的ムーブメントCal.020から派生的に沢山のシチズン手巻腕時計が誕生しました。 それらをここで紹介します。 ・基本Cal.020搭載は『ホーマー』、『マリーンスター』、『シチズンタイム』 ・Cal.0270搭載は『ヤングホーマー』、『キンダータイム』、『リズムタイム』 リズムタイムは2003/4/10に福岡県のT様から修理依頼受け、OHをしました。 40年以上経過しているのも関わらず、非常に調子のイイ時計として蘇りました。 ・Cal.091搭載は『クリステート』、『クリステートデラックス』、 ・Cal.092搭載はキングセイコーに対抗して誕生したシチズンの中級機種『クロノマスター』 この時計は2003/3/19に東京のT様から修理依頼受け、OHをしました。 さすがにKSに対抗して生産した機種で高精度が四十数年ぶりに見事に復活しました。 ・Cal.093搭載は『クロノマスタースペシャル』 ・Cal.180/184搭載はデイト機能付きの『ホーマーデイト』 デイト付きは厚さが4,5mmになります。 ・Cal.181搭載は『ホーマーウィークリー』 ・Cal.183搭載は『ヤングデイト』、『リズムデイト』 ・Cal.185/186搭載は『スーパーデラックスデイト』 ・Cal.187搭載は『クロノマスターデイト』 ・Cal.3000搭載は『シャイン』 これらのホーマー仲間のムーブメントは、パラショック(テンプ耐震装置が全機種に採用され、19石以上の時計にはプロフィックス(保油装置)が採用されています。 このホーマーは、第1回一級時計修理技能士試験の実技に試験課題として用いられました。 それほどこの時計は低価格でありながら、時計職人の腕前によっては高精度に仕上げることが出来る安定した優れた時計でした。 一つの基本ムーブメントから、これほど沢山の時計の種類が派生的に生まれることが、読者の皆様にはわかっていただけたと思います。 今までセイコーの名機ばかりを取り上げてきましたが、これからは逐次、埋もれたシチズンの名機も紹介していきたいと思います。 ●時計の小話 第200話(時計店店頭の今昔)●昭和45年頃、店頭にご来店のお客様は、ほとんど購入時計を何々が欲しいと指名で来られました(そう言う意味では接客が非常に楽でした)。
大まかな記憶では70%の方はセイコーを買われ、20%の方がシチズンを買われました。 残りの10%をオリエントかリコーをお買い求めいただきました。 セイコーでないとイヤだというお客様は圧倒的に沢山おられました。 それほどまでにセイコーの人気は高く、寡占状態でした(時折、他社が販売キャンペーンをやり、その期間中に腕時計を販売するとバックマージン数%おこしてくれるときなど敢えてシチズン、オリエント、リコーなどを薦めたりするとお客様からお叱りの小言を言われたりしたものでした。 『なんで、SEIKOを奨めないで他のを奨めるのか』と)。 30年過ぎた今ではセイコーを指名で買われるお客様は当店では1割にも満たない僅かになってしまいました。 過去においてセイコーが何故、ここまで販売シェアを伸ばせたのか、その原因は価格が良心的であったことや、精度がよく、修理が他社と比較して容易であっとことなどが挙げられます。 販売戦略・広告宣伝が他社よりも上手かった事も挙げられるでしょう(そう言えば昭和30年代初頭、テレビ民放で最初にテレビコマーシャルをしたのは松下電器、東芝、日立でもなく精工舎の置き時計でした)。 シチズンはセイコーよりも一般的に部品数も多く、組立調整も手間がかかるというものでした。 リコ時計ーなどは私は個人的には嫌いな方でなかなか調子がでない機械であった記憶があります。 でもデザインはオリエント・リコーに秀逸なものがありました(当店に持ち込まれる昭和30年〜40年代の時計の修理依頼はほとんどがセイコーで占められていることからも解っていただけると思います)。 ロレックス、OMEGAには人気のシリーズがずーと有りますがセイコー・シチズンには今ではほとんど無いのが寂しい気がします。 最近セイコーにメカ式GSが人気出てきたのが嬉しい限りです(特に手巻きのSBGW001は人気が凄く納品6ヶ月待ちという状態が続いています。) これからも、セイコー・シチズン・オリエントには人気のメカ式シリーズを掘り起こして欲しいと願っています。 |
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