●続・時計の小話 第121話 遠藤氏からの最近のアメリカ時計修理事情●
11月11日に1971年CMW同期合格の遠藤勉さんから、久しぶりに電話がかかってきて、色んな興味あるお話をして頂き、小生の方からも日本の時計業界の現況をお話しました。彼の話によると、アメリカで現在、時計修理業として飯を食っている人は4000人に満たないのではないか、と言っておられました。(2〜30年前では3万〜4万人ぐらいの時計職人がいたそうです。)
世界最大の時計輸入国で消費国であるアメリカでも時計職人があきらかに不足しているものとして思われ、日本でも同様の厳しい状態におかれていると思います。アメリカの在住している時計職人の人は、ドイツ、フランス、ロシアからの移住した時計職人が多いそうで、自国民アメリカ人の時計職人は、だんだん少なくなっているそうです。
遠藤さんは約10年前に体調を壊され、今では仕事をリタイアされ、悠々自適の羨ましい生活をされています。時間が自由に使える身分になられたので、趣味として大好きな時計の製作の事に現在没頭されています。
彼の話によりますと、最近、1号機と言える手のひらサイズの長方形の置時計を完全自作されたそうです。その自作された時計を作るのに延べ1500時間もの多くの時間を割かれて素晴らしい時計を製作されました。充分な工作機械の無い状況下で置時計を作られた事は苦心のあとが窺い知れます。
神経の張る細かい作業の連続でしょうから、1日5時間の作業が目一杯であろうと思われ、休み無しでも300日間というとてつもない長い時間をかけて一個の命ある置時計を作られた事に驚嘆をせざるをえません。
遠藤さんによると設計に500時間、工具作り(歯切りカッター等)に500時間かかり、各パーツを全て作るのに500時間かかったそうです。特に作業が難しかったのは、アンクルのハコ先造りと自作のヒゲ玉にヒゲゼンマイを取り付ける作業が難しかった、と言っておられました。ガンギ車を作るのは意外と易しかったので、自分自身も驚いた、と言っておられました。香箱車を作るのに、太い真鍮棒を入手するのに大変苦労したと、言っておられました。
一番車、二番、三番、四番車、ガンギ車、アンクル、テンプと、輪列脱進機が一直線になっている仕組みで、時針・分針が分かれているレギュレーター表示になっているなかなか面白いできばえの置時計に仕上がっていました。(後日、弊店HPでも紹介したいと思っております)
さすが1971年のCMWをトップ合格をし、井上賞を受賞されただけの才能を持った人である、と感心した次第です。全くの私見になりますが、将来的にはアメリカ在住とはいえ、再興した日本時計師会の幹部になって頂きたい一人だと痛感した次第です。
※余談
2年前に東京銀座の和光を訪れた時に、ショーウィンドーの中に菊野昌宏氏の腕時計が販売されていました。価格を見ると数百万円した記憶があります。
トゥールビヨンを作った浅岡肇氏や、独立時計師アカデミーの正会員の菊野昌宏氏は自分の時計工房におそらくミリングマシーン、精密小型時計旋盤、ダイアルスタンパー、ベンチレース、マイフォード旋盤、CAD、CNC等の高額工作機械を揃えておられるでしょうから、一個の腕時計を作るのにそう多くの日数はかかっていないと思いますが、それでも個人が全てのパーツを自作して、一個の腕時計を完成させるには熱い情熱と持続出来る精神力・創造力、確かな技術がなければとうていおぼつかないものと思います。よって価格が相当高くなるのはやむをえないのではないか、と思います。
●続・時計の小話 第122話 35年ぶりの新・CMW合格者●
1980年を最後に、長い間途絶えていたCMW(公認高級時計師)試験が2014年に35年ぶりに再開され4人の受験生が最難関の時計技術試験を受験され一人の合格者が誕生致しました。大変おめでたいことです。
28歳の染矢泰輔君が見事に合格されました。彼は滋賀県大津市の近江時計眼鏡宝飾専門学校の講師を勤めておられ、昨年亡くなられた東條勝利先生の後、近江時計学校で教鞭をふるっておられます。彼とは試験会場で2回お目にかかりましたが若いにもかかわらず落ち着いた青年で、将来立派な教育者として大成される風貌をお持ちです。
近江時計学校は、行方二郎先生、東條勝利先生の跡を引き続いてCMW取得者が教壇に立たれるという、他の学校を圧する教育レベルの高さを証明した事になります。
今後の日本における時計修理業界は若い染矢君を中心として、発展する事を期待しています。染矢君がこの業界の求心力になって、将来、日本時計修理業界を引っ張っていってもらいたいと思います。
日本の時計修理業界の将来の屋台骨を背負う位の熱い気概を持って、彼には後進の指導をしてもらえたならばと思っています。60歳、70歳の老兵のCMWは気力、体力とも衰えていくばかりで、消え去るのみです。彼の様な若い人に日本時計師会を今後、担って頂きたいと希望しています。
染矢君のCMW試験結果内容は、学科試験、旋盤による天真別作、巻真別作も90点以上の高得点であり、二次試験においてもテンワがメッキしてあるという少し意地悪な試験課題も見事にクリアされ、栄えある5日間のCMW認定試験を突破されました。今後日本時計師会に加入され、CMW試験が継続的に行われるよう、彼の尽力に期待しておるところです。合格認証式は、3/14(土)に挙行される予定になっています。暗いニュースが多い中、嬉しいニュースです。
●続・時計の小話 第123話 リシャールミル●
先月、CSのゴルフ番組でプロゴルファーの小田孔明氏、宮里優作氏、池田勇太氏が宮崎県のフェニックス・カントリークラブでそれぞれの色んなワザを競う面白い番組がありました。
なにげなくプロゴルファー宮里優作氏の右手首を見ましたら、ケース、バンドがオールホワイトのトノー型の腕時計をつけてプレイをしていました。まさか、アメリカPGAのスター選手で世界有数の飛ばし屋のバッバ・ワトソンが愛用しているリシャールミル腕時計ではないか?と思いました。
宮里優作選手は一昨年のメジャー大会、日本シリーズに悲願の初優勝をし、昨年開幕戦にも勝利を上げ、賞金額を相当稼いでいる日本を代表するスタープレイヤーにのし上がった人なので、高額なリシャールミルも購入出来ても当然であろうと、思いました。
その時、池田勇太氏の腕には、少ししか垣間見る事しか出来なかったのですが、ロレックスのSSのデイトナ・クロノグラフをつけている様に見られました。(人気プレイヤー、石川遼選手はカシオの白づくめのG-SHOCK腕時計をつけて毎試合PGAの試合に出ている事は皆さんご存知だと思います。)
それからしばらくして、週刊誌にリシャールミル・ジャパンが宮里優作氏をリシャールミル・アンバサダーとして迎えた事を4月に都内のホテルで記者発表会を開いたとのニュースが掲載されていました。宮里優作選手が腕にはめていた時計はやはりリシャールミルのRM055(定価1296万円)であることが書かれていました。
北陸の地方で開業している弊店は、現物のリシャールミルを見る機会はこれまでありませんでしたが、宮里優作選手が贈呈されたリシャールミルはチタン製手巻きムーブメントのスケルトンで、500Gに耐える構造になっているそうです。ベゼルは酸化アルミニウム・パウダー・チューブで作られ、1400ビッカース硬度で、非常にキズがつきにくい仕上げになっているそうです。
ゴルフのプレイ中に機械式腕時計をはめる事はあまりお勧め出来ません。弊店のお客様もうっかりゴルフプレイ中にスイスR社の時計を腕にはめててアイアン・ダウンブローのスイング中にテンプのテンションバネが外れて穴石が飛んでしまって止まる、という事が何度かありました。
リシャールミルは、衝撃性に優れた特性を持っている時計なのでゴルフプレイ中もなんら影響を受けない腕時計である、と認識した次第です。
話は変わりますが、太平洋戦争終了後、アメリカ軍最高司令官として日本に駐在した、ダグラス・マッカーサーが愛用していたジャガールクルト・エベルソ(1935年製造)腕時計が、スイスの競売会社アルティ・コルム・オークションで87,500スイスフラン(約1120万円)で落札されたそうです。それにして有名人の愛用した時計はプレミアムがつくのですね。
●続・時計の小話 第124話 ジョン・ハリソン●
先日、BSで映画『経度への挑戦』という洋画が放映されていました。
この映画の主人公はジョン・ハリソンという時計史に残る有名な人物です。(1722年にはグラスホッパー脱進機は発明しています。この脱進機は長い間クロックの脱進機として採用され続けた有名な方式です)
本職は大工なのですが、独学で時計学・物理学・機械学を学び、繰り返して精度の良い海上時計(クロノメーター)を作り続けた人物です。その動機は当時の大英帝国が正確な海上時計を作り上げた時計師に大枚な賞金(当時のお金で500ポンド)を授与したからです。
ジョン・ハリソンは協力してくれた息子と共に船舶時計としては、想像を絶する高精度の時計を作り上げる事に成功しました。現代のクォーツに匹敵するような高精度の機械時計を作りました。月差数秒の誤差という、とてつもない高精度を持っていました。
彼が作ったH4タイプは1761年に61日間で45秒の遅れ、1764年に156日間で54秒の進みでした。
H5タイプは1764年5ヶ月間の航海でたった15秒の誤差という途轍もない超高精度の海上時計を作り上げたのです。波の大きな揺れを諸にかぶる当時の小型帆船の悪環境下の中でのこの精度にジョン・ハリソンは天才時計師だと評価しても誰も異を唱える人はいないでしょう。
大英帝国が何故に高精度の海上時計を作った時計師に高額な報奨金制度を作った理由は、正確な海上時計により、船舶の正確な位置が把握出来たからです。
正確な海上時計が無い為に船舶が難破したり、とんでもない場所に航海して行き先を誤ったりしていたからです。正確な海上時計(クロノメーター)を手にした大英帝国は、海上国家としておおいに繁栄し、世界中に植民地を手にしてライバル国である、スペイン、ポルトガル、フランス等を凌駕して、繁栄の道を築き上げたのです。
大英帝国の繁栄の礎を築いたのは、他ならぬ時計師が大いに貢献したからに他ありません。戦後、敗戦から目覚しい発展を遂げた日本も同じ様な事が言えます。46cm砲を搭載した巨艦戦艦『大和』『武蔵』を設計製造した技術者がその後の日本の各工業生産の復興の中枢になって働いて、日本の発展に大いなる影響力を持ったのは現代よく知られている事実です。戦艦大和は現代の造船技術を以ってしても容易に作り上げる事が出来ない最高峰の船舶・戦艦だったのです。
●続・時計の小話 125話 『現代の名工』に平賀氏に●
卓越した技能・技術者に表彰される『現代の名工』に今年も各業界から150名の方々が顕彰されました。時計業界からは、セイコー・インスツル(SII)に籍を置く高級機械式腕時計の組み立て・調整をしておられる、平賀聡氏・40歳が選定されました。
彼は若干25歳で、1995年度の時計技能競技全国大会で素晴らしい成績を収めて優勝されている輝かしい経歴の持ち主です。
彼は現在、セイコーの旗艦モデルであるグランドセイコー・メカ式腕時計を担当されています。主にGS・ハイビート36000や、GMTなどのGS高級機種の組み立て調整等をしておられます。また、後進の若手の技術者の養成にも関わり、時計技術全国大会で優秀な賞を授与される若手時計技術者を育て上げる実績も持っておられます。
セイコー・インスツルの岩手県・盛岡工業にある、高級メカ工房の大平晃氏の後継者として、将来を嘱望されている人です。大平氏は現在、世界にあるセイコーサービスセンターを訪問し、技術指導をしておられて大変忙しい職務についておられるそうです。
平賀聡氏は、昨年3月にスイス・バーゼルフェアで実技実演を披露され、その優れた技能は世界中の業界人から注目を浴びました。
第28回時計技能競技全国大会が滋賀県の近江時計学校・近江勧学館10/22-24で開催されました。競技試験は、第一部門(メカ式時計・クォーツ時計)と第二部門(クォーツ時計)に分かれて試験が行なわれました。
第一部門の優勝者はセイコーエプソンの相馬弘希君で、第二部門の優勝もセイコーエプソンで平谷朱菜さんでした。各部門トップ3の6名の内訳は、セイコーグループの若手技術者が4名、シチズン時計から1名、近江時計学校の生徒・熊淵太一君も栄えある賞を受けられました。この時計技術試験は毎年、時計メーカーの若手技術者が成績上位を独占しています。
受験資格が原則23才以下に指定されている、第53回技能五輪全国大会・時計修理部門が12月5〜6日に、千葉・仕事プラザで開催されます。毎年日本の若手技術者が世界の栄えある舞台で大活躍をしてきた実績があり、非常に楽しみな事です。
●続・時計の小話 126話 セイコーからの新作トゥールビヨンモデル●
満を持してと言うか、遅きに失したというべきか、セイコーから初めて複雑時計の代名詞と言える、トゥールビヨンモデル『FUGAKU』が来る5/13に、セイコーブティックショップで発売されます。
販売価格は税込み¥54,000,000で世界限定8本のみだそうです。ムーブメントは、セイコーの極薄レベルの68系キャリバーをベースとして、Cal,6830を開発しました。厚さは4mmの手巻腕時計で、一部両面スケルトン仕様になっています。このセイコー初のトゥールビヨンは、セイコーが抱える現代の名工の技術を集積して完成された極めて芸術性の高い時計として、工芸時計として仕上がっていす。
機械時計精密組立技術の平賀聡氏、彫金装飾技術の照井清氏、卓越な漆技法を保持している田村一舟氏の3人の『現代の名工』技術を結集して、世に送り出される時計です。
『FUGAKU』をデザインしたのは、デザイナー部門で初の現代の名工として選ばれた著名な小杉修弘氏が担当されました。浮世絵で世界的に有名な葛飾北斎の『富嶽三十六景』をアレンジして作られたものです。
『FUGAKU』の最大の見所である波の部分には、18金イエローゴールドと18金ホワイトゴールドを用いて、非常に繊細な仕上げになっています。この時計の彫金を完成させるまでには、連続延べ200時間の作業時間が必要であったそうです。
発売されたら、東京のセイコーブティックで一見する価値のある時計と言えるでしょう。今年の『時の記念日』の6/10には、メカ式彫金スケルトン手巻き腕時計、税込み\5,184,000、世界限定30本で全国のセイコー・クレドール取り扱い店で発売されます。
果たしてこの二つのセイコーメカ式高級腕時計を購入するのは日本人が何人いるのか、興味津々です。もしかして中国の富裕層の方々が銀聯カードを使用して買うのでしょうか?セイコー社には販売終了後、ユーザーの方の国別データーを教えて欲しいものです。
●続・時計の小話 127話 カシオG-SHOCKについて●
デジタル腕時計といえば、すぐに頭に浮かぶのはカシオ・G-SHOCKだと思います。カシオ・G-SHOCKは日本のみならず、世界中の若人を魅了したデジタル腕時計だと思います。小生の年代の者はカシオといえば、すぐに思い起こすのはG-SHOCKではなく、カシオデジタル計算機です。
実際カシオはカシオ計算機という名称が正式な会社名です。カシオ計算機は1957年に設立され、丁度来年60周年を迎えるまだ若い会社だと思います。カシオ計算機は樫尾四兄弟(長男忠雄氏、次男俊雄氏、三男和男氏、四男幸男氏)で設立された会社です。頭脳明晰な四人の兄弟が力を合わせ、60年足らずで年間3500億円を売り上げる名実共に日本を代表する会社に成長しました。
(会社経営に専念した忠雄氏、新製品開発に能力を開花させた次男俊雄氏、生産管理担当の三男和男氏、技術畑の四男幸男氏がそれぞれの得意分野で活躍されたお蔭で今日のカシオ計算機という会社が大きく成長して成り立ってきた経緯があります)
その売り上げの中でもG-SHOCK(1984年発売のG-SHOCKが第1号です)の売り上げを占める金額が800億円前後に達しており、G-SHOCKがカシオ計算機を牽引する大きなヒット商品になっています。
カシオ計算機のデジタル腕時計の最初は1974年に発売された、カシオトロンという歴史に残る時計で、カシオファンにとっては現在でも中古でも高値で取引されているそうです。
小生が店を開店した1980年にはカシオというブランドの新興時計メーカーはまだ多くのユーザーに認知されていないためにカシオデジタル時計を販売するには努力が必要だった記憶がありますが、今では世界中の時計ファンに認知され大好評を博しているのは皆さんご存知だと思います。
現在のカシオ計算機の会長は三男の和男氏が就任し、社長には和男氏の長男の和宏氏が就任し会社を引っ張っておられます。日本を代表する歴史のあるセイコーウォッチ、シチズン時計もカシオ・G-SHOCKはなかなか手ごわい、傍観出来ない存在になっているのではないでしょうか
●続・時計の小話 128話 セイコーの高度時計技術・公開実演会●
セイコーの『現代の名工』を顕彰された4名の技術者が東京・銀座セイコー本店でセイコー高級腕時計の組み立て・実技の公開実演されます。
セイコープレミアムブティック開店1周年記念行事として行われるそうです。時計技術に関心のある読者の方々は高度時計技術を拝見する絶好のチャンスと思います。初回は7月9日に既に行なわれました。中澤義房氏がクレドール・叡知2のスプリングドライブの組み立て作業工程を説明されました。多くの方が来場され感銘されたそうです。
7月23日は小松育清氏によるグランドセイコースプリングドライブの文字板に針取り付け等の作業実演を披露されるそうです。8月6日には照井清氏のよるセイコークレドール・トゥールビヨンFUGAKU(価格は税込5,400万円です)を手がけた彫金技術を公開されるそうです。(FUGAKUを見ましたがベゼルにサファイアの取巻があり文字板・針等も紫色の美しい仕上げになっていて波は金色加工しています。ムーブメント裏側は白を基調にして金の波を施しています。角穴車は紫色のギアをアレンジしたデザインになっています)
リオ・オリンピック陸上競技 男子100m代表に決定いたしました山縣亮太選手はセイコーがサポートしていますが100m競技で10秒を切れば褒美としてFUGAKUが授与されるそうです。凄いですね)
8月19日には平賀稔氏が機械式グランドセイコーの組み立て調整の実演をされるそうです。どれも貴重か機会ですのでお時間をお作りになり足を運ばれることをお勧めします。
●続・時計の小話 129話 シチズン時計の荒井寛子氏●
平成28年度の現代の名工(卓越した技能者)にシチズン腕時計の製造子会社である、シチズン時計マニュファクチャリング株の長野県飯田工場に勤務しておられる荒井寛子氏が厚生労働大臣から受賞されました。11月21日に、その名誉を称え明治記念会館で表彰式が挙行されました。
荒井氏はシチズン時計のフラグシップウォッチといえる『ザ・シチズン』腕時計の組み立て精度調整を担当され、メカ式腕時計としてクロノメーター基準に匹敵する日差5秒以内に歩度調整する優れた技能を有しておられます。
また、社内では技術者育成の為、後進指導を熱心にされており、社内から多くの『信州 匠の工房・時計修理士』合格者を多く輩出される努力をされています。その仕事ぶりが高く評価され今回の受賞に結びついたと思われます。
高級メカ式腕時計の国産時計メーカーの分野ではセイコーのグランドセイコーが歴史的背景から一歩前に進んでいる状態ですが、今後シチズンが製造する高級腕時計『ザ・シチズン』が躍進するのではないか、と期待されます。
それを裏付けるかのようにシチズン時計株は長野県に大規模な時計製造工場『ミヨタ佐久工場』を今年、12月2日に竣工しました。売上高全体では既にセイコーを凌駕しているシチズンですが、メカ式高級腕時計の分野でも、GSを今後追いつけ追い越しの気迫で進んでいくものと思われ、期待されます。
●続・時計の小話 130話 2017年国際高級時計展●
2017年の国際高級時計展『SIHH』が1月16日から1月20日までの五日間、スイスのジュネーヴで開催されました。スイス・ドイツの高級機械式腕時計メーカー30社が今年の新作を一堂に集めて展示されました。
今年の傾向は文字板に濃紺の色を採用するメーカーが多かった事です。そして復古調のケースの外径をこぶりにした腕時計が目立っていました。毎度の事ながら、ムーンフェイズ機能を搭載した薄型オートマチック腕時計が多かったようです。
目を引いたのは、モンブランの新作クロノグラフです。モンブラン社は2007年にマニュファクチュールメーカー・ミネルバ社を買収し、かつてのミネルバ社が作り続けてきたブロンズカラー、及びミレルバーアローと呼称される個性的な針を採用したアンティーク調の腕時計に仕上げていました。注目を集めていたようです。
モンブラン社に買収されたミネルバの工房には、1941年製造の精密工作機械が今も現役で働いているそうです。古き良き時代の工作機械を破棄せずに現代まで使用しつづけてきたミネルバ社の時計職人に尊敬の念を抱かざるをえません。
先日BSを見ていましたら、『ウオッチバレー 独創の技をつかめ』という番組が再放映されていました。天才的ロボットクリエイターの高橋智隆氏がスイス各時計会社を訪問し、自分がロボット製作で苦労をしている箇所のヒントをスイスの時計技術者からアドバイスを貰う為に訪問する内容の番組でした。
特に面白く興味関心が起きたところは、彼が天才時計師ダニエル・ロート氏の工房を訪ねて、いろんな話をしているシーンでした。ダニエル・ロート氏が高橋氏に「パーツ造りは時間がかかるし、辛い作業が続く」と本音を言っておられたのが興味深いセリフでした。
ジャガールクルト社も高橋氏が訪問され、複雑時計専門部門のクリスチャン・ローレン氏、フィリップ・ヴュレン氏と話をし、ジャイロ・トゥールビヨンの組み立て様子を興味深く見ておられる姿が印象的でした。ジャイロ・トゥールビヨンの心臓部は約100個のパーツで出来ていてその総重量は僅か0,2gだそうです。またオートマター製作の世界的有名人フランソワジュノー氏の工房を訪ねて色んな機械仕掛けの仕組みから氏は多大なヒントを日本へ持ち帰ったに違い無いと思います。非常に見応えのある番組でした。
●続・時計の小話 131話 フレデリック・コンスタント社の動向●
シチズン時計の高級ブランド『カンパノラ』には、スイス・ラ・ショー・ド・フォンにあるムーブメント専用メーカー、ラ・ジュー・ペレ社のムーブメントが搭載されている時計が販売されています。
その時計は、カンパノラ・琉雅という時計で文字板には会津漆の伝統工芸師、儀同哲夫氏が見事な職人魂を発揮した美しい文字板の腕時計に仕上げています。
搭載されている機械は、2012年にシチズンが子会社として買収したラ・ジュー・ペレ社のメカ式ムーブメントが入っています。販売価格は税別80万円に抑えられていて、美的感覚の秀でた時計マニアの方に人気を集めるのではないか、と思われます。
昨年、春ごろフレデリックコンスタントの日本正規輸入代理店の営業マンS氏から耳に挟んだ事なのですが、フレデリックコンスタントをシチズン時計が買収する可能性があるとの噂を聞いておりました。それが現実化し、シチズン時計が、目を見張る勢いで成長している新進気鋭のスイス時計会社『フレデリックコンスタント』を完全買収したという、事実を聞かされました。
オープンハートの文字板を世界に先駆けて発売し、わずか30年足らずで名実共に世界に名だたる時計メーカーの一員として認められるまでに大きく成長した時計会社であるにも関わらず何故、東洋のシチズン時計に身売りをしてしまったのか、大きな疑問を持っていましたが、営業マンの話では、創業者の跡継ぎのご子息が時計産業に全く関心が無く、止むを得ず経営権をシチズンに委ねてしまったという事でした。話によると買収金額は数百億円という高額の買収案件でした。
これで、シチズン時計はスイスの有名のムーブメントメーカー、ペレ社とスイス高級腕時計フレデリック・コンスタントを手にした訳で、今後シチズン時計がさらに飛躍し、今まで以上にセイコーを大きく凌駕していくでのはないか、と思われます。
セイコーファンである小生には何とか1970年代の勢いを取り戻してほしいと願って止みません。それには誰もが驚嘆するような素晴らしいメカ式ムーブメントを開発しかないのではないかと思います。名機キャリバー45系、61系、56系以上の機械の開発が待たれます。
●続・時計の小話 132話 天才時計師ピエール・ル・ロワ●
ピエール・ル・ロワと言う時計師をご存知の方は、そう多くないと思います。知っている方がおられましたら、かなりの時計通と言えるのではないでしょうか。
ピエール・ル・ロワ(Pierre Le Roy)は1717年にフランスで生まれた時計師です。デテント式脱進機を彼が発明したお蔭で船舶マリン・クロノメーターの精度が飛躍的に向上したのです。その為に船舶の位置(経度)を正確に知ることが出来るようになり遭難、難破事故が減少したと言われています。(正確なマリン・クロノメーターを開発・製作した為に彼は報奨金を得ています)
当時、帆船で海洋に打って出ていくことは、その時代の最先端の技術(航海術もその一つ)を習得した者しか出来えない事だったのです。現代で言うIT技術に長けた者と言えるのではないかと思われます。
『ル・ロワ』と名撃った腕時計は現在でも世界で販売されていますが、日本では正規輸入代理店が無く日本未登場になっています。邦貨で換算すれば普通200〜400万円前後する高級時計ですので、なかなか取り扱う会社が名乗り上げないのかも知れません。高級時計の割には知名度が弱いのも難点かも知れません。
ピエール・ル・ロワと言えば、ルロワの名を世界中に知らしめた要因の一つに『ルロワ01』という超複雑時計の存在が知られています。世界の超3大複雑時計と言われています。
アントニオ・アウグスト・カルバリヨ・モンテイロがフランスの時計メーカーのルロワ一家に製作を依頼したのは1897年でした。パーツ総数は975個で4年という時間をかけて製作されました。機能としては年、月、日、曜日、春分、秋分、夏至、冬至表示、世界1265都市のローカルタタイム等、がありました。
『ルロワ01』は注文したモンテイロの死後、ルロワ一族に買い取られ現在はルロワ家があるフランス・ブサンソン、時計博物館に展示されています。サザビーズ・オークションなどに出品したら、ゆうに15億円以上の値段が付くと思われる価値ある時計です。渡仏する機会がありましたら一見に値する時計です。
●続・時計の小話 133話 ジャガールクルトのムーブメント●
ロレックスのムーブメントは頑健は体格を持った肉体労働者のような、どんな障害にも屈しない強固な意志を併せ持った人のような機械と言えるかもしれません。
セイコーのムーブメントは農業従事者の方のように絶えまず、コツコツと努力し将来の実りある収穫を目指して頑張る人々を連想させる機械に見えるかもしれないです。
ETAのムーブメントは誰にも愛される世界的なポピュラーな人気歌手、ビートルズのような意味合いの機械と言えるのではないでしょうか?
ジャガールクルトのムーブメントの特徴は繊細できめ細やかな文学少女のような雰囲気を持った機械と言えるでしょう。大事に扱わないと壊れてしまうような錯覚が起きる、きめ細やかな機械ですキラ星の如く燦然と輝く珠玉のジャガールクルトのムーブメントの数々を紹介してみよう。
※丸型ムーブメント
・1993年開発 キャリバー891/447 自動巻きデイデイト36石 部品総数270ピース28800振動
・1993年開発 キャリバー928 自動巻きスモールセコンド、パワーリザーブ機能45石 部品総数256ピース28800振動
・1994年開発 キャリバー918 自動巻きアラーム機能 部品総数260ピース28800振動
・1994年開発 キャリバー849 手巻き極薄 部品総数123ピース 21600振動
・1994年開発 キャリバー889/2 自動巻きカレンダー部品総数202ピース28800振動 (IWCマーク13にも採用されている)
・1996年開発 キャリバー929/3 自動巻きパワーリザーブ機能 GMT機能部品総数293ピース 28800振動
・1996年開発 キャリバー889/440/02 自動巻き永久カレンダー ムーンフェイズ機能 部品総数277ピース 28800振動
・1997年開発 キャリバー891/448/2 自動巻きデイデイト月 ムーンフェイズ部品総数275ピース 28800振動
・2000年開発 キャリバー909 自動巻き永久カレンダー ムーンフェイズ アラーム機能 部品総数349ピース 28800振動
※婦人用ムーブメント
・1929年開発 キャリバー101 世界最小、手巻き19石 部品総数98ピース 21600振動
・1975年開発 キャリバー846 手巻き18石 部品総数93ピース 21600振動
・1992年開発 キャリバー822 手巻きスモールセコンド21石 部品総数134ピース21600振動
上記はどれも秀逸なムーブメントで長く歴史に残る機械と言えるでしょう。読者の方でジャガールクルトを愛用されている時計のムーブメントがどれか知るのも良い事でしょう。※代表的なジャガールクルトの角型ムーブメントは後日紹介します
●続・時計の小話 134話 ティソの人気時計バナナウォッチ●
当初、2017年9月発売予定のティ・.バナナウォッチ日本限定500本はようやく10月末に日本に入荷してきました。予約は6月から弊店は受けましたが弊店の割り当て本数はすぐに予約一杯になるほどの人気がありました。
このようなスイス腕時計に人気が集中したのは久しぶりな事です。Tレース ツール・ド・フランスT111.417.37.441.00も世界中で爆発的な人気が沸騰していましてご予約を受けたお客様には納品が大変遅れています。
以前にフォルティスから2008年に発売されたIQウォッチ(596.18.61IQ)や、2006年に発売されたブラックアウトウォッチ(595.18.41MBO)を凌ぐほどの人気が上記、ティソ2機種にありました。当時、フォルティスは人気がある腕時計を矢継ぎ早に販売していました。
ここ数年来、舶来時計ではビッグ・ヒット商品が無く腕時計を新規に買い求めるユーザーの方にも心を動かされる魅力のある時計の発売が無かったような気がします。
昨年以来50万〜100万クラスの腕時計の販売が芳しくなくスイス・ドイツ・国産各社の時計メーカーはヒット商品を出すべく努力をしているのですが、人気を集める程のヒット商品が出ていないのが現実です。
中国からの爆買が一段落し、高級時計が売れない状態の中、日本の時計メーカーも苦心惨憺している状況です。高級時計が低迷している今、セイコー、シチズン、カシオは逆にチャンス到来と思っているのか高級時計路線に力を入れ始めました。売上が低迷しているからこそ、余計に高級腕時計の販路を開拓したいと思っているからでしょうか。
セイコーは東京日本橋で開かれた、時計見本市『ジャパン・ウォッチコレクション』で150万〜300万超のスポーツウォッチを新発売しました。シチズンは今まで5万〜20万のクラスの腕時計を主力に販売してきましたが、スイス高級腕時計メーカー『アーノルド&サン』を買収し、1000万〜2000万の超高級腕時計分野に進出しました。
シチズンはこれでブローバ、フレデリックコンスタント、アーノルド&サンを傘下に納め、マルチブランド時計メーカーへと大きく舵を切り変身しました。今後の動向が注目されます。
一方カシオ計算機は、主力ブランド『Gショック』の価格帯は1万〜5万円クラスのデジタル腕時計でかなりの販売高をあげてきた実績がありますが、ここにきて全面にチタンを採用した28万円のGショックを発売しました。これは大胆な発想の転換による商品だと思われます。
●続・時計の小話 135話 『セイコー・ソノーラ』●
昨日夜BSジャパンで、『男はつらいよ 柴又より愛をこめて』の映画が放映されていました。この映画は1985年に製作された映画です。
その映画のシーンの中で懐かしい柱時計が目にとまりました。その柱時計は昭和40年前後に販売された『セイコー・ソノーラ』と言う電池式のトランジスタクロックです。
本打式の柱時計で単一電池2個(駆動用、時打つ用)で1年間、動きました。振り子(円筒形状の磁石)の長さを微妙に合わせれば1か月の誤差が1分以内という極めて正確に時を刻む柱時計でした。音叉時計並の精度を誇っていました。
パーツ数も少なく小型化され、定期的なOHも数年に1回で済むという維持費のかからない時計で、設計も秀でていて修理も簡単に済むという優れモノでした。
セイコー・ソノーラが出現するまでの主流の掛時計は1か月巻きのゼンマイ式の掛時計(直進型脱進機)で、どんなに微妙に振り子を調整しても1週間に1分前後の誤差がでて、精度を要求するユーザーの方には不満の残る柱時計でした。
またOHも2〜3年に1回はしないと十分に性能を発揮しない品物でした。セイコー・ソノーラは数か月経ってからでも数分の誤差しか出ないクロックとしては当時では申し分のない時計で他社の時計メーカーの柱時計よりもかなり優位に立っていました。価格も1万円を切っていたと思います。(現在の価格ですと数万円はしたのではないかと思いますが)。
昭和40年代初、年末の師走ともなれば、毎日、掛け時計は数本売れていきました。大学生の兄貴と高校生の自分がメーカーから送られてくる、しっかりした木箱の荷物を分解して商品を取り出すお手伝いを毎日していた忙しい懐かしい記憶です。
その頃は柱時計、目覚まし時計は時計店でしか買えなくて、毎日よく売れていっ
た思い出が有ります。昨今ではクロック類は殆どの方々が雑貨の量販店で買われるのではないでしょうか。記念品や贈答品のクロックのみ時計店でご利用されるのではないかと寂しい思いが有ります。
消費動向が大きくこの50年で大きく変換したと思われてなりません。昔懐かしい・・・商店、・・・屋は消え去る運命なのでしょうか?
●続・時計の小話 136話 光格子時計●
想像を絶する究極の時計が誕生しました。160億年に1秒しか誤差が出ないという途轍もない神の領域に踏み込んだと言える時計です。(宇宙空間の感覚の時計と言えそうです。地球誕生から消滅までの長い間でも1秒も狂わない時計ですから、誰でも驚嘆する時計と言えます。時計という概念から逸脱しているかも知れませんが。)
この時計を開発発明した科学者は東京大学の香取秀俊先生です。光格子時計を開発した業績により江崎玲於奈賞(超微細技術分野の優れた業績に対する褒賞)が授与されました。
2001年に国際会議でアイデアを発表し、2003年にプロトタイプ試作機の開発に成功を収めました。そして2015年に考えの及ばない天文学的な超高精度の実現に成功されました。凡人では理解が出来ませんが報道によりますと「レーザーで閉じ込めた大量の原子を振動させる」方法で超高精度が実現したそうです。
※それまでの正確な時計は1955年にイギリスのエッセンが発明しましたセシウム原子時計で6000万年に1秒の誤差でした。
今後の課題はこの超高精度の光格子時計を使用して、どの分野で応用し、大きく飛躍的に利用・貢献できるかにかかっているでしょう。既に一部では測量の分野で応用されているとのアナウンスがありました。凄い事ですね。
●続・時計の小話 137話
時計産業におけるスイス、日本、中国の競争●
スイスメイドと表記が許されているスイス製腕時計でも、外装部品や内装部品のパーツ、文字板、サファイアガラス、ケース等が著しく最近技術の向上が発展しているアジア諸国(中国、タイ、モーリシャス)などのパーツ製造会社から輸入調達しているケースが一段と増えつつあります。
スイス政府はスイス国内の時計パーツ製造会社を保護するべく、スイスメイドの表記の条件を大幅に厳しく変更しました。今までは駆動部分(ムーブメント)の製造コストが50%以上であれば、 スイスメイドという表記が許されてきました。
アジア諸国の時計パーツ製造会社の技術の発展、コストダウンにより、スイス国内のパーツ製造会社が衰退する一途の道を辿るのではないかという危惧が生まれ、今年は時計製造コスト全体の60%以上がスイスで生産されているものに対してのみスイスメイドという表記が許される様になりました。
世界の車の生産量もメーカー別に分類すればアメリカ、日本、ドイツのメーカーがダントツでシェアを大きく占めていますが、生産数量国で言えば圧倒的に中国が一位を占めており、今後この勢いが止まる気配は全くなく、さらに差が開くに違いありません。将来の主流を占めるであろう電気自動車の生産量においても中国が圧倒的に世界で優位に立っています。
腕時計の世界的シェアにおいても現在では、スイス、日本が総生産額の面では圧倒的な優位に立っていますが、数量に限定すれば、中国が世界一になるのはおのずと目に見えて予想出来ます。
日本時計メーカー、セイコー、シチズン、カシオ等の腕時計の総出荷本数は毎年減少傾向にあり、スイス時計メーカーも輸出量は減少傾向にあり歯止めがかかっていません。
電気製品(箱物)、パソコンの生産量が世界で中国が圧倒的にシェアを占めている現在、日本時計業界の一番の危惧する点は中国時計メーカーに負けない新製品の開発、コスト削減等の企業努力がますます必要になってくるのではないか、と思われます。
キャリアウーマンが社会進出して活躍している現在、婦人用の高級腕時計の販売は日本では例外的に進展しています。セイコーはそれをいち早くキャッチして女性用グランドセイコーの拡充を図って、最近10機種の新作婦人用GSを追加販売しました。
また、セイコーの海外直営店舗は2017年現在、67店舗ですが2019年3月までに、100店舗に増やす計画を発表しました。高級腕時計分野ではスイス製に後塵を拝しているセイコーが積極果敢に世界に打って出る覚悟だと思われます。
ルイ・ヴィトングループのゼニス社が機械式腕時計ムーブメントで342年ぶりの新発明をし、魅力ある時計を販売しました。中級品腕時計の100倍とも言える日差0.3秒という、画期的な機械時計としては高精度のムーブメントの開発に成功しました。
機械式腕時計と言えば、1675年に発明されたテンプとヒゲゼンマイ(調速機)の仕組みにより駆動しているのですが、ゼニス社が開発したメカ式ムーブメントはテンプとヒゲゼンマイの調速機の代わりに単結晶シリコン製・新型オシレーター(発振器)を採用し高精度を実現しました。
シリコン製を採用する事により、摩擦係数が大幅に減少し、注油が必要無くなり温度、磁気等の歩度を乱す原因からも解放されるという優れたムーブメントに仕上げました。しかしこのムーブメントが果たしてユーザーの方々に支持されるかどうかは不安要素で注目です。
●続・時計の小話 138話 高級舶来時計のレンタルリース●
今年(2018年)6月からネットで高級舶来時計のレンタル店舗が営業を始めました。屋号は『KARITOKE』という名称で評判を呼んでいるそうです。
購入するのに、二の足を踏む高価格帯のロレックス、オメガ、IWC、ウブロ、パネライ等のスイス高級腕時計が手頃な料金のリース料で借りられるという画期的な発想のネット・バーチャル店舗が始まりました。
基本的には一か月間のレンタルで気にいれば延長も出来るという事です。小売価格200万円前後という高価格の腕時計が60本在庫があるそうです。腕時計の価格によりリース料金は4つのプランに別れています。
カジュアルプランは一ヶ月3980円、スタンダードプランは一ヶ月6800円、プレミアムプランは一ヶ月9800円、エグゼクティヴプランは一ヶ月19800円の4通りあるそうです。
当初ネット上で応募をしましたら200件以上のお客様から応募依頼があったそうです。年齢別では、30代、20代、40代の順で申込利用客がありました。
利用客の使い道は大切な時のビジネスシーンで相手方に良いイメージを与える為や、結婚式、同窓会、集会等のイベントのステータスとして高級腕時計を腕につけてみたいという要望があるそうです。
40代の利用客のリースの動機は実際に高級腕時計を買う前にレンタルで試着してどんなものなのか?判断して、現実に購入するかしないか決めるそうです。
200万円以上の高級腕時計を一か月間19800円で貸出をして、ビジネスとして成り立つのかどうか疑問が起きますが、時計業界での大きなカンフル剤になり、メリットが大きいと思われます。
●続・時計の小話 139話 2021年、新型ムーブメント搭載のGS●
グランドセイコーヘリテージコレクション SLGH005が2021年3月6日発売されました。(税別95万円です)
昨秋発売されたグランドセイコー60周年記念限定モデルSLGH002金無垢ケース(税別450万円)のSSケース普及版です。
これらに搭載されているムーブメントの特徴はツインバレル(最大巻上時約80時間駆動)、ブレゲ巻き上げヒゲを採用したフリースプラング天府、新方式デュアルインパルス脱進機(デテント式とクラブツースレバー式を合体させたような脱進機)、そして36000ハイビートムーブです。
天府受けは、耐衝撃性能に秀逸な、両持ち式に改められ、受けの下にある調整ネジを回すことで、テンプのアガキ調整が簡単に出来るようになっています。(ロレックスも採用しています)
ようやくにしてGSに秒単位で精密精度調整ができる、ブレゲ巻き上げヒゲ、ミーンタイムスクリューを備わった天府採用のGSが具現した事はセイコーファンにとって喜ばしいことでしょう。
ロレックス、オメガに対抗できる最高のメカ式ムーブメントをセイコー社が手に入れたと言う事でしょうか。このムーブメントの公正な評価は5年後にハッキリするでしょう。
1998年に再登場したキャリバー9S51とキャリバー9S55搭載のGSとは比較にならないくらい進化した、今回のメカ式新型GSです。
これらのGSは、岩手県雫石町 盛岡セイコー工業 雫石高級時計工房内「グランドセイコースタジオ 雫石」で生産されています。20年前に知り合った当時のGS製造の担当主任O氏は、この新型GSの登場を非常に喜んでおられることでしょう。
●続・時計の小話 140話 新型、ザ・シチズン、メカ式腕時計を発売●
シチズン時計が2021年8月に、約10年ぶりに開発した新型、ザ・シチズン高級メカ式腕時計を発売します。小売価格は55万円(税別)~揃える予定です。
秒表示がインダイアル方式でカレンダーなしの自動巻きになります。シチズン時計が買収した傘下のスイス、ラ・ジュー・ペレ社との共同開発によるニュー、ザ・シチズンになります。
搭載されているキャリバー0200(パワーリザーブ60時間、振動数:28,800、26石)は、高精度、高級機械式腕時計には当然のように採用されている、天府がフリースプラング方式を取っています。
シチズン社がフリースプラング方式のメカ式を発売するのが今回初めての挑戦になります。2010年にシチズン創立80周年を記念して発売されたザ・シチズンは自動巻きで(Cal.0910、27石、28,800a/h、パワーリザーブ42時間、 日差±5秒〜10、定価315,000円(税込))カレンダー付きでした。
今回のザ・シチズンは日差-3~+5秒に絞り上げた高精度腕時計に仕上がっています。延べ17日間に及ぶ、厳しい検査基準を通った時計のみ販売し、シチズン社の『規格検定合格書』を添付するそうです。CITIZEN社の自信の程が伺い知れます。
ほぼ時を同じくしてフリースプラング方式を新発売したセイコーGSと激しい火花が飛び交うのは必然で、面白くて楽しみな展開になっていくようで、ワクワクします。メカ式愛好家の皆さんがどちらに軍配を上げるか、興味津々です。
品揃えや、知名度から言えば、GSに一歩先んじられているザ・シチズンですが今後の巻き返しがみものです。セイコー社とシチズン社とのメカ式第4ラウンドの戦いと言えそうです。