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国際時計通信『水晶腕時計の興亡』
時計の小話
続・時計の小話
121話〜140話

●時計の小話 第241話   44GSのOH●

先月末に岐阜県のKさんから、修理依頼を受けた
『グランドセイコー手巻き腕時計(Cal.4420 27石 1968年第二精工舎製)』 は当時の木製化粧箱と、グランドセイコー基準合格証明書が添付されて、 送られてきました。 この44GSは1964年に、亀戸工場で開発された、二代目のGS手巻き腕時計で、 ムーブメントのベースは同じ亀戸工場で生産された『クロノス』でした。

Kさんは、高校進学のされる時に、父親から新品のこのGSを贈られたそうで、 余程嬉しかったのでしょう、今日まで、大事に保管されていたために、 ケース・証明書が残っていたものと推察しております。 (高校生時代からGSを所有するなんて羨ましい限りでビックリしてしまいます。)

GSファンの方には、貴重な資料なので、証明書(下記URLは表紙です)の 記載内容をお教えしたいと思います。 (http://www.isozaki-tokei.com/3167a.jpg

(証明書P1)
最高級腕時計グランドセイコー グランドセイコーは、セイコーが技術の粋を結集し完全なる品質管理のもとに製造した最高級腕時計です。  この時計の高い品質を永く保存するために極めて厳しい検定基準を特に設定し、 これに合格したもののみグランドセイコーの名称を与え、皆様のお手もとにお届けしております。

(証明書P2)
グランドセイコー検定基準は、世界的な高精度の基準等を参考とし、さらに時計を実際に携帯した時の 実用精度に重点をおいて設定されており、この基準に基づいた時計の製品化は最高度の加工・調整技術と 厳格な品質管理の裏付けによってはじめて可能となるものです。

(証明書P3)
<グランドセイコー検定基準> a 5姿勢の平均日差 -3.0〜+6.0 sec b 5姿勢の平均日較差 2.2 sec c 最大日較差 6.0 sec d 水平垂直の差 +-8.0 sec e 最大姿勢偏差 10.0 sec f  第一温度係数 +-0.6 sec g  第二温度係数 +-0.6 sec h 復元差 +-5.0 sec

(証明書P4)
<グランドセイコー試験> グランドセイコー検定基準のそれぞれの項目についてどの様な試験が おこなわれているかを説明いたします。 (1)時計の姿勢及び検査室の温度を変えて15日間、毎日、日差を写真測定します。 イ.最初の10日間は24℃で同じ姿勢を2日ずつ5姿勢でおこないます。 (5姿勢とは時計を6時位置上、3時位置上、9時位置上、文字盤上、 文字盤下にした5種類の状態をさします。)

(証明書P5)
ロ.次の3日間は、文字盤上の状態で4℃、24℃と36℃と3通り温度を変えて、 それぞれ1日ずつ測定します。 ハ.最後の2日間は試験の最初の2日間と同じ姿勢(6時位置上)で、 室温も24℃で測定します。 (2)上記の測定で得た測定値からそれぞれの項目について成績を計算します。 イ.平均日差

(証明書P6)
最初の10日間の日差の平均値です。 ロ.平均日較差 日差は同じ姿勢でも試験した日によって多少変動することがあります。そこで、 ある日測定した日差と翌日同一姿勢で測定した日差の差を日較差といい、 平均日較差は最初の10日間における5姿勢の日較差を平均したものです。 ハ.最大日較差 日較差の最大値です。

(証明書P7)
ニ.水平垂直の差 5姿勢のうち、文字板上(水平)と6時位置上(垂直)の姿勢における各々の2日間の日差の差です。 ホ.最大姿勢偏差 5姿勢の各日差と平均日差との差のうちで最も大きい値をいいます。 ヘ.第一温度係数 4℃と36℃の日差から1℃当りの日差の変化量を計算します。 ト.第二温度係数 24℃と36℃の日差から1℃当りの日差の変化量を計算します。 (時計携帯時に条件をあわせて温度誤差をさらに厳しく管理するために新らたに 取りあげた項目です。) チ.復元差 試験最終日の日差と最初の同じ姿勢の2日間の日差の平均値との差をいいます。

(証明書P8)
<取扱説明書> ■セコンドセッティング(秒針規制装置) この時計には、便利な秒針規制装置がついてます。リュウズを引き出すことにより 針が止まり、時報に合わせて押し込めば、秒針まで正確な時刻に合わせることが できます。 これによって精度の高いこの時計の価値が一層高められています。 ■この時計にはセイコ−独特の3D装置がついています *ダイヤショック(DIASHOCK) おとしてもこわれない耐震装置 *ダイヤフレックス(DIAFLEX) きれない、さびないゼンマイ *ダイヤフィックス(DIAFIX)   いつまでも性能を保つ保油装置

(証明書P9)
■防水性を保つために・・・ この時計は、工場出荷の際に各種の厳しい防水性能検査がおこなわれ、 これに合格したものです。 この優れた防水性能をながく保持するために、以下の点にご留意ください。 *水中ではもちろん水滴のついたままリュウズを回すことはさけてください。 *水につけた場合は、ご使用後水滴をよく拭きとってください。 特に海水につけた場合は清水で塩分を洗い落とすことが必要です。 ※防水性を長期間保持するために、1〜2年目毎にガラス、リュウズ、 パッキングなど防水時計専用部品の交換をおすすめします。 部品交換の際には”SEIKOの純正部品”とご指定ください。 と記載されていました。

同じ頃、石川県のTさんからGSハイ・ビート(10振動)自動巻 『Cal,6145A 25石 1969年諏訪精工舎製 社内精度等級2A 日差-3〜+6』 のOHを依頼されました。 両方のGS共、過去において何回か他の方が修理している為、ヒゲゼンマイが 大きく変形しておりました。

理論に乗っ取ってほぼ完璧に修復した結果、 両方のGS共、30数年前の新品当時の精度が復活しました。 ※このGSのヒゲゼンマイの修正に根をつめて長い時間作業にあたった為に 神経が疲労困憊し体調を崩してしまいました。 ここ10日間仕事をやむえず休憩してしまいました。 OH・修理お預かりしている皆様に修理完了が少し遅れることをお詫びいたします。

●時計の小話 第242話   メーカー修理対応について●

1970年当初、水晶腕時計が発売された頃には、 水晶腕時計のオーバーホールの修理対応は、難解な設計・組立作業の為に 一般小売り時計店では出来ないだろうとメーカー側が判断し、 メーカー修理一本のみに、なっておりました。

しばらくの間は、各メーカーのサービスセンターのみで、 オーバーホールの対応が全て賄われていたのですが、クォーツ腕時計が、 手の届く低価格帯(当時の商品代金で2〜3万円)になってきますと、 定期的なOHやその他のなんらかの原因による故障への、修理・対応が メーカーのサービスセンターのみではとても対応出来なくなり、

メーカー主催の『クォーツ腕時計技術講習会』がセイコーでは全国の主要都市各地で 延べ三日間の内容で何回か行われ,またシチズンでは神奈川県の藤沢市の シチズン技術研究所で五日間、行われる様になりました。 (小生は、シチズンクォーツの講習会は昭和50年2月3日〜7日にかけて受講し 講師はかの有名なシチズン製造部設計課の岩沢 央氏ら4人の諸先生でした。 セイコークォーツの講習会は昭和55年2月20日〜22日にかけて 大阪市で受講しました。)

その講習会に参加して技術講習を修了した人のみ、『クォーツ技術講習済認定店制度』が取られ、その修了証書を、持っている技術者のいる店には、 水晶腕時計のパーツ・工具が支給されオーバーホール及び 修理が出来るようになりました。 30年前の時計小売店は、今とは全く違って、技術レベルの非常に高い時計店主が 全国で数多くおられ、その認定店制度は、大いに力を発揮しメーカー側も 助かったものでした。

最近、千葉県の方から最高級GS(9S51−0020)のOHの依頼を受けました。 メール・マガジン読者のお方で、どうしても小生に愛用のGSを OHして頂きたいとのメールがありました。 腕時計を受け取ってみて、ムーブメントを見てみましたら、ローター(自動巻錘)を 取り外すのに、GS専用工具が必要な事が、解りました。

現行のGSの修理はグランドセイコー・サービスステーション(略称GSSS)が 一手に引き受けていることが、わかっていましたので、東京のGSSSに電話して、 責任者のK所長に代わってもらい、GS専用工具を弊店にわけて頂く事は出来ないか?と頼みました。 K所長は『自分一人の判断では答えが見いだせないので、一週間待って頂きたい』 との事でした。

一週間後、GSSSのK所長から電話がかかり、 『GSSSのK代表、東日本営業部名古屋営業所長・O氏と相談の結果、 工具をお譲りする事は出来ないという結論になりました。』との連絡を受けました。 今まで、GSSSが修理を断ってきた、過去の名機のGSの修理を何十回となく 直してきた小生としては、その答えに、はいそうですかと、引き下がる訳にもいかず、 『弊店のHPの修理実績等をよく見てから再度、考慮して、 返答していただきたいです』と申し込み致しました。

しばらくしてから、K所長から、電話がかかり 『SC推進部主幹・A部長、 東日本統括部長・H氏と三者会談の結果、 GS専用工具は残念ながら今回はお渡し出来ないという、最終結論になりました。』 という返事を頂きました。

現行のGSの販売個数が少ない時には、GSSSで全てが賄えるものと思いますが、 今後、販売数量が増えて、OHの依頼が急激に伸びた場合、GSSSだけでは、 とても全て賄いきれないのは、目に見えて解っている事だと私は思っております。 その時になって、あわててクォーツの時の様に、全国各地にGS技術講習会を開いて、 認定店制度を設けるのか、どうなるのか、しばらく様子を見守りたいと 思っております。

GSSSのK所長の言い分にも解らない訳ではありません。 小生にGS専用工具を用立てした場合、他の時計店からも、 GSの専用工具を譲って欲しい、というケースも考えられ、 その場合その時計店がある一定レベルの技術者がいる店の場合、問題が無いのですが、 未熟な技術の店からの、工具の斡旋依頼を断る事が、出来ない、との話でした。 (GSSSにはある一定の基準をクリアした技術者が修理対応するので 安心な面はあると思いますが。)

小生もGS・KSを今まで数え切れない程、OH修理をしてきて、 初心者の人が、このセイコーの最高峰の機械をいじったりしたのでしょうか?、 ヒゲゼンマイを大きく変形させて壊しているのに沢山あたって、 大変苦労した経験が余りにも多いので、K所長の言い分にも、 一理があると思った次第です。 (GSSS側も言っていましたが酷い修理作業をしたGSを何回も 見ているとのことでした。) 弊店では、将来の現行GSのOH依頼の為に、なんとかこのローター外しの工具を 自作して、間に合わせたいと思っています。

●時計の小話 第243話   バネ棒●

時計ケースと、時計バンドを取り付ける方法に、バネ棒方式、ネジ止め式、 ピン&パイプ方式という三つのやり方があります。

今日はバネ棒方式について述べてみたいと思います。 時計ケースの4つの足(ラグ)に、0.8mm前後の穴が掘ってあり、 そこにバネ棒を埋め込んでバンドを取り付けたり、外したりするのです。 (大きくわけて2種類の形のバネ棒があります) 10〜15年メンテナンスをしないで、使用しつづけていると、バネ棒先端部が、 サビ朽ちて、ケースの足に埋め込まれたまま付着し、メタルバンドが 取り外せない時が、時折あります。

OH依頼の時は、ケース及び時計メタルバンドも洗浄しなければならない為、 時計バンドを取り外すとき、サビている場合、無理をして、工具でバネ棒を 外そうとすると、バネ棒先端部分がケースの足に埋め込まれたまま折れてしまう時が あるのです。 そうなると、大変で、ラグの穴の直径に合わせた、錐を別作して、 穴堀り作業をせざるを得ません。

時計ケースが、昔の柔らかい真鍮製ケースの場合は上手くいくのですが、 ケースが硬いSS製の時は、穴堀り作業に、大変な苦労と時間がかかります。 ロレックス社のバネ棒は、腕時計メーカーの中で一番、頑丈に出来ているのですが、 その為に、ユーザーの方が安心しきって、20〜30年もバネ棒を交換しないで 使用している場合があります。 その場合もよくあることなのですが、ラグと曲管を取り外すときにバネ棒の先端が、 サビて折れ込んでしまうケースが、良く見受けられます。 (また曲管の中にあるパイプとバネ棒が錆びて離れない場合もあり大変です。)

最近のロレックスのケースは、その穴が、かつての様に、ラグを突き破っている穴で 無い為に、折れ込んだら大変なので、定期的にバネ棒の交換をお勧めします。 (かつてのロレックスのケースは、ラグのバネ棒の穴が、貫通していた為に 万が一折れ込んでも、簡単に抜き出せる事が出来たのです。)

IWCは機種にもよるのですがバネ棒はどちらかと言えば細く華奢に仕上げています。 オメガはロレックス程ではないのですが堅牢に作られています。 (バネ棒一つとっても各時計会社のこだわりがあるのです。) 30〜40年以上前の時計のバネ棒では特殊な方式がありました。 ケースの足に凸のような突起がありバネ棒が両端とも凹のような形をした物があり 初心者の方がうっかりして強く外そうとするとケースの足の凸状の金具が 折れてしまう時がありました。 そうなったらまた修理するのも大変で助け船を出して困惑したものでした

●時計の小話 第244話    婦人用IWCマークXII●

読者の方から、IWC・マーク12レディス自動巻腕時計のOHの依頼を受けました。
紳士用のマーク12はジャガールクルト製のCal.884(36石)が 搭載されていましたが、婦人用のマーク12もジャガールクルト製の Cal.964(31石)が搭載されていました。

このムーブメント(Cal.964)は、マスター・レディ用に開発された カレンダー付き自動巻ムーブメントで、28800振動です。 1995年に市場に登場し、自動巻ながら、厚さは3.95mmに抑えられ パーツ総数は226個ありました。

ジャガールクルトのムーブメントはIWCだけではなく、オーディマ・ピゲ、 ブレゲ等のスイス高級腕時計にも採用されている非常に精度の出る 高級ムーブメントです。 いつもジャガールクルトのムーブメントのOHをする時に、 思い起こすことがあります。 ロレックスのムーブメントは、戦国武将で例えるなら、合理性と完全主義の 織田信長を彷彿とさせます。 一方、ジャガールクルトのムーブメントは、繊細で知的な感じがして、 明智光秀を思い浮かべる細やかな神経の様な感じがしています。 (質実剛健な社風のIWCには地味で堅実で忍耐強い徳川家康が マッチするような気がします。)

機械腕時計の隆盛と共に、ジャガールクルトの新製品の開発ラッシュも、勢いがあり、最近では、『マスター・エイトデイズ』、『マスター・パーペチュアル』、 『マスター・ジオグラフィーク』、『マスター・コンプレッサー・メモボックス』等を売り出しております。

マーク12(紳士用)のCal.884のOHをする時に、いつも懸念を抱く箇所が 一カ所だけあります。 (姉妹ムーブメントのハイグレードのCal.889もそうですが) 緩急針は微細調整スクリューが取り付けられており、日差の調整等は、 すこぶる簡単明瞭に出来るのですが、ヒゲ受けとヒゲ棒の隙間の点がどうしても、 気になる所があります。

ヒゲ棒がヒゲ受けに狭く平行に立っていれば問題は無いのですが、 ヒゲ棒の根本が、ヒゲ受けよりも少し離れた所に、取り付け(カシメ)てある為に、 先端にいくにしたがって隙間が少なくなるように傾むかせているのです。

この様な状態ですと、ヒゲゼンマイが片アタリの時はあまり影響は受けないのですが、 高級精度調整のヒゲ両アタリにした場合、 文字板上と文字板下とでは、日差に多少、差が出るのです。 その理由は、ヒゲ受けとヒゲ棒間の遊びの差が、平行で無い為に文字板上下で 差が大きくなり、文字板上の状態では、文字板下の状態よりもアソビが 大きくなり若干『遅れ』の兆候が出てしまうからです。 (天真のホゾの上下のアガキの存在の為、どうしても起きてしまいます。)

高級腕時計を生産し続けてきたジャガールクルト社が、 何故にヒゲ棒とヒゲ受けを平行にせずに、敢えて斜めに傾けているのか? 今だに私にとっては大きな謎です。

Cal.884もCal.964もヒゲ棒が、太めにしてある為に、 段差をつけて平行にする様に無理して曲げると根元から折れてしまう為に、 小生は紳士用はヒゲ棒が傾いていても仕方なく極少ない両アタリにして調整し、 婦人用は片アタリにしたりして調整する場合もあります。 精度調整も当然、文字板上を最重要視して調整します。

●時計の小話 第245話   ハミルトン腕時計について●

先月から、弊店でハミルトン腕時計を正規取り扱いする事を スウォッチ・グループ・ジャパンと契約しました。 送られてきたハミルトン腕時計はどれもデザインが秀逸で価格も割安感があり 取引して良かったと安堵しました。 特にさすが世界一の時計会社であるからでしょうか?箱・付属品・保証書等が キレイに作られていてお買い上げ頂いた方にきっと満足感をあたえるものと 確信しました。 (時計店への委託貸し出し業務を全くしていないためでしょうか、 ケース・バンド等に微塵もキズが付いていなくて安心して仕入れが出来ました。)

特にハミルトン・クロノグラフ 『マウントバーノン』(http://www.isozaki-tokei.com/mvernon.htm) は何処にもない押し出しの強いデザインで 『カーキ』(http://www.isozaki-tokei.com/khakifield.htm) と共に若人に人気を集めそうです。

急に、ハミルトンを弊店で販売しよう、と思いついたのは、アメリカ在住の知人、 遠藤勉氏からの電話でハミルトンという会社が、100年以上も前の時代に、 その当時では、とても精度の良い鉄道懐中時計(レイルウェイ・スペシャル)を 製造していて、アメリカ鉄道網建設に陰の支えとなった、という事を知ったからです。

遠藤勉氏もハミルトンを沢山、修理していつも良い時計なので感心しているとの 事でした。 小生が、この業界に入った頃、ハミルトン製の電気腕時計 Cal.500 (12石 18000振動)の修理を時折した記憶があります。
この時計は、1957年に発売され『ベンチュラ』とネーミングされ、 当時としては、独創的なテクノロジーと人目を引き寄せるスタイリングで時計史上、 偉大な足跡を残しました。 この電気腕時計は、永久磁石とコイルと接点によって作動し、 1.55Vの電池で、14ケ月間休みなく動き続けるという当時の時代背景からは、 想像だにしない画期的なエレクトリック腕時計でした。 (現行の『ベンチュラ』(http://www.isozaki-tokei.com/ventura.htm)は 当時そのままのデザインを踏襲していて未だに新鮮な感じを与えるのに 驚きを感じます)

アンティーク・ハミルトン手巻き腕時計をオーバーホールするたびに驚かされる事が あります。 ロレックスと同じようにブレゲ巻き上げヒゲを多く採用していた事です。 いかにハミルトン時計会社が精度追求に本気になっていたかが 計り知れるというものです。 (特に角形のムーブメントに優れたものがあったようです。)

ハミルトン時計会社は、1892年にアメリカ合衆国ペンシルバニア州ランカスターに 創立した、伝統のある時計会社でベンラス、ブローバ、エルジン、タイメックス、 と共にアメリカ発祥の時計メーカーとして名を残しています。 (余談ですがペンシルバニア州と言えばカレッジ・アメ・フットで強豪チームで有名なペン・ステイト大学がある東部の州です。 PGAの全米オープンで2回も優勝したシニア・ゴルフの賞金王、H・アーウィンは ペン・ステイト大学でクォーターバックをしていたと聞いたことがあります。)

1940年代の第二次世界大戦の頃、アメリカ政府の要請を受けて、ミリタリーウォッチを全社を挙げて生産する事に傾注し、100万個以上の軍用腕時計を生産した事は 生産工程が非常に効率の良い、システムを構築していたものと思います。 おそらく、ダグラス戦闘機、B29爆撃機等のパイロット達も ハミルトンを腕につけて、大空に飛び立っていたに違いありません。

●時計の小話 第246話   難物修理について●

昨年の、9月に読者の方から、チュードル・デイデイト自動巻腕時計のOH依頼を 受けました。 約30年ほど前に、製造されたチュードルで、搭載されていたムーブメントは Cal.ASア・シールド1882/83  1895 21石が入っていました。

このムーブメントは当時、ラドー等にも採用されていた、そこそこ有名な機械です。 分解修理する前に、針合わせの状態で、針が簡単に回ってしまう為に、 筒カナの役目をする歯車を締めなければならない、と思いながら作業をしました。

このムーブメントは、セイコーのCal.56と同じく、2番車が地板の センターになく、巻き真先端の所に2番車を配置する方式です。 このASのムーブメントにも勿論、筒カナはあるのですが、 筒カナと同じ役目をする歯車は、2番車の上に覆い被さる様に乗っている 小さな鼓状の歯車です。 この鼓状の歯車の『置き回り』を防ぐ為に、非常に鋭角な工具で中央部を叩いて、 締め直さなければいけません。 当然、その歯車の穴には、抉り棒を入れ、 鋭利なもので叩く自作のポンスと同じものを下に受けて作業をします。

非常に小さい(高さ1.07mm 幅1.80mm)という歯車の為、カシメる時は 非常に神経を使います。 適度な強さで、叩かないと、この小さな歯車はいとも簡単にヒビが入ったり、 割れたり、変形したりしてしまう為、最大限の注意が必要です。 上手くカシメられて、修理完了し、一週間の様子見が終わって後、 お客様にお渡ししましたが、やはり、置き回り状態が起き、時計自体は順調に 動いていても、長短針が全く動かないという状態になり、再点検を頼まれました。

これ以上の、この歯車のカシメ直しは無理だと判断し、 T時計材料店にこのASのパーツを取り寄せて貰うように手配を致しました。 古い機械なので、入手するのに不安がありましたが、3ケ月後にやっと この筒カナの役目を果たす鼓状の歯車を入手してもらいました。 (1回目は違った歯車が送られてきてガッカリしたものでした。) やっと手に入った、と安心し、取替作業をしましたが、 やはり、置き回り状態が続く為、原因がどこにあるか? と二番車の心棒を60倍の双眼顕微鏡で見てみましたら、 やっぱりへたって摩耗しているのがわかりました。

歯車の心棒の摩耗なので、再度T時計材料店に2番車を取り寄せて頂くよう、 手配をしました。 T時計材料店の親爺さんの話によると、古いムーブなので手に入らないかもしれない、と念を押されましたが、ようやく、また3ケ月後に二番車が手に入り、 修理作業をしましたが、やはり上手く作動しません。 T時計材料店の親爺さんが、やっと見つけてくれたこの2番車も新品の歯車ではなく、 おそらく、中古の良い状態の歯車を捜し取り出して、送ってきた物ではないか?と 思っています。 (古いムーブなのでその行為は仕方ないものなのかもしれません) その為に折角手に入れた部品なのですが交換してもやはりうまく作動しませんでした。

機械式時計は、耐久性に優れたものがあるのですが、 一度やっかいな故障の原因になると、なかなか修復するのに時間が かかるものなのです。 (ましてや古いムーブメントのパーツの入手には骨折りするものです。) 弊店には、こういう難物修理が10個以上残っており、ほとほと神経を すり減らしてしまいます。

サービスセンターの様に、出来ないものは出来ない、と容易に断ってしまえば 済むことなのですが、弊店のHPを見つけて、いわれのある時計修理の場合、 なんとか直してあげたいものと思っています。 こういう何回も手をかけても上手く作動しない時計修理に遭遇しますと、 神経も体力も消耗してホトホト疲労困憊してしまいます。 (フィリップ・デュホォー氏も難物修理をしてなかなか上手くいかないとき、 彼は床を靴でドンドンを悔しがって叩くそうで階下におられる奥様は、 また大変な修理をしているのかと同情の憶測をされるそうです。)

最近、電話でお話した、CMWのE氏も長年の時計修理をしてきた疲労の蓄積の為、 疲れ果てて52才で仕事をリタイアしたと、聞きました。 また小生の先輩のCMWのT氏、O氏も56才前後で、急逝していて 無理はダメだと自戒しています。

昨年秋以来、体調を崩しており、また非常に根を詰める仕事なのでもう少し、 余裕を持ってゆっくり、おっとり作業をしたいと思ってる今日この頃です。 

●時計の小話 第247話  ティソの思い出●

今月初めより、スウォッチ・グループ・ジャパン(株)と、取引契約をして、 弊店は、ティソを販売しはじめました。 ティソは、日本に初めて上陸した時は、『チソット』と呼ばれていました。 (懐かしく思われる人も多いと思います) ティソの創立は古く1853年スイス・ルロックルにシャルル・フェリシアン・ティソと その息子シャルル・エミル・ティソによって興された由緒ある歴史を持った 時計会社の一つです。 ティソ時計会社は枚挙にいとまがないほど次から次へと新開発のムーブメントを 作り続けてきました。

欧州ではおそらく一番親しみのある時計会社で販売実績もトップクラスではないかと 思います。 今から40年ほど前は、日本の総輸入代理店は『シイベル時計(株)』が輸入元で、 オメガとバセロン・コンスタンチン・チソットの3本柱で、取り扱っていました。 今から40年〜50年前のオメガ腕時計は、男性の垂涎の的の腕時計で、 (今でもそうですが)いつに日にかは必ず腕につけてみたいと恋い焦がれる ブランドでした。

その頃のオメガもかなり高価格で、余程時計好きの人か、収入に余裕がある人でないと買えないステイタスな時計でした。 その頃のチソットはオメガの姉妹品の様に取り扱いされ、オメガまで手の届かない 人達や舶来品のスイス時計をを一度持ってみたい、という人々にチソットが 愛され購入されました。 当時から、オメガよりもデザイン的には、優れた商品が一杯あり、 日本各地でかなりの数が売れたものと思います。

小生が、少年の頃、湖北の商都、長浜市で一、二を争う時計店は、 『INO・・時計店』と『YA・・時計店』でした。 実家の時計店は3番か4番目位、だった記憶があります。 人口4万の小都市に、当時は時計店が20店舗近くもありました。 (そんな過当競争でも充分皆さん飯が食えたのです。) その頃の、非常に小さい時計店であった、『FU・・店』、『IWA・・店』の 2店の経営者が先見の明があったのでしょう、 オメガとチソットを長浜市で初めて取り扱い始めたのです。

私の父親は、人口4万の長浜市でオメガ、チソットは売れないだろう、という 甘い推測をしていましたが、蓋を開けてみると、二店の店でオメガ、チソットが とてもよく売れ出し始め、長浜中で評判が立つ程の店に急成長しだしたのです。 慌てた父は、シイベル時計と連絡を持ち、オメガを取り扱いしたい、 と願いでましたが、既存のオメガ販売時計店である、二店舗から新規取り扱いを 反対され、オメガ、チソットを取り扱いできなかったという苦い経緯がありました。

小さかった『FU・・時計店』、『IWA・・時計店』は、今では、大きな店に 成長して、湖北では誰もが知っていた老舗の『INO・・時計店』は、 閉店に追い込まれてしまいました。 (経営者の舵取りひとつで会社・店の命運が決まってしまうのは何時の時代でも 同じ事なのでしょう。) 経済成長とともに、消費者の方々の所得が向上するにつれ、 時計店は、粗利の大きい宝飾品にウェイトを置くようになり時計関係の売り上げは 何処でも減少の一途になってゆき、時計のみで生活の糧を得ていた日本各地の 零細時計店は、閉店や倒産に追い込まれていったのです。

バブルが弾けた1990年以降、宝飾品関係の売り上げは、激しい減少にあい、 日本の有名宝飾店も今日まで四苦八苦しているのが現状でないか?と思います。 日本でバブルが弾けたと、同じ頃から、機械式腕時計が日本の消費者の方に見直され、 徐々に人気が出てきて、今の隆盛を迎える様になったのです。 弊店でもティソを漸く取り扱い出来る様になり、 親父の無念な気持ちの鬱憤晴らしが今頃になって出来たのではないか?と 喜んでいます。

現行のティソもデザイン・価格・機能的な面も大変よく昔のように日本でも きっと人気が出てくるものと思っています。

最近、頂くメールの中に「時計職人になりたいのですが、どうすればいいのですか?」 という問い合わせが多いのですが、私の希望としては、 時計技術を身につけて時計店を立ち上げてほしい、と願っています。 機械式腕時計が売れる時代の今、技術をしっかり身につけたなら小資本でも 時計店開業は出来るものと思います。 弊店の時計技術通信講座卒業生のH君もK市に、アンティーク・ウォッチの店を 開店して頑張っているとの事、嬉しく思っています。

●時計の小話 第248話  日本でのスイス腕時計の販売動向●

スイス時計協会(FH)が2003年度のウォッチ販売動向の調査結果を公表しました。

有名百貨店・有力時計専門店が取り扱っている輸入時計:上位20ブランドは 以下になります。 トップ20:やはり1位はロレックスで、2位以下はオメガ、ロンジン、ラドー、ティソ、タグホイヤー、ボームメルシー、シャリオール、グッチ・セクター・オリス、 カルティエ、ハミルトン、ブライトリング、ウォルサム、フェンディ、エルメス、 オーディマ・ピゲ、ジャガールクルト、カルバンクラインの順になるそうです。

また、輸入時計の販売本数上位ブランドは、やはり1位がロレックスで、2位以下は オメガ、タグホイヤー、ブライトリング、ラドー、カルティエ、ロンジン、グッチ、 シャリオール、ショパールの順になるそうです。

これらの情報からもわかるように、日本の消費者の皆様はロレックス・オメガ・ ロンジン・タグホイヤー・ラドーが好きなのだなと思います。 私がこの業界に入った35年前でも、日本人によく売れたスイス時計はオメガ・ ロンジン・ラドーであった事を思えば、日本人の好みの潮流はそんなに大きく 変化していないのではないかと思います。

おそらくその原因は、今のスイス時計ファンの皆様のお父様・お爺様が オメガ・ロンジン・ラドーを愛用してきた事を強く心の中の記憶に とどまっている為に、自分がスイス時計を購入しようという時期に到来した時に、 その事を思いだして買われているのではないでしょうか。

私共のような地方の小さな時計店ではとても想像が出来ない事ですが、 大都市及び地方の地域一番店の大型時計店では、 ロレックスを年間平均980本も販売していて、金額は4億5千万円にものぼるそうです。 (ロレックス客単価は45万円になります。) また、オメガの年間平均販売本数は220本で、金額は4500万円になるそうです。

このデータから解って頂けるように、スイス機械式腕時計は日本で完全に 復活をなし得たと断言しても間違いないと思います。 (その反動で国産腕時計は苦戦を強いられていると思われます)

●時計の小話 第249話    サービスセンターについて●

この間、少しばかり、驚いた事がありました。 弊店にて、舶来腕時計をお売りした人から、一週間ぐらいしてメールがあり、 日差が一分前後遅れるので、精度調整して欲しい、との連絡がありました。 (おそらく何かしらの衝撃による原因と思われます。)

どこの時計店、百貨店時計売場でも、そうなのですが、販売後の保証期間中に 不具合が発生した時は、輸入元(仕入先)が責任持って対応して、 修理調整する事になっています。
(自前で修理技術を習得していないほとんどの時計店は、 保証期間を過ぎても輸入元に送って修理依頼するのが、一般的です。 弊店では保証期間が切れた場合のお客様の大切な時計の修理に関しては 小生が修理するようにしています。)

そのお客様に、メールで返事を出して、輸入元のサービスセンターに 送っていただく様に、お願いしました。 しばらくたって、そのお客様から、連絡が入り、 サービスセンターから直って送られてきた時計を見て、ビックリした、との事でした。 何故なら、ベゼルと裏蓋にかなりのコスリ傷が一杯付いているとの事でした。 余りにも酷いので、弊店に送りますので、一度見て頂きたい、との事でした。

荷物が届いて、腕時計を観てみましたら、 10年以上使用した程のキズがベゼルと裏ブタに一杯ついていました。 時間調整のみの、修理なので、ここまでキズがつくのは想像だに出来ず、 その時計の輸入元サービスセンターに電話をしました。 その時計のサービスセンターには、わずかの人しか修理技術者がおらず、 そこの責任者のN氏と電話で何故こういう修理ミスになったのか?問いただしました。

その時計は、限定版シリアルナンバーがついている貴重な時計なので、 完璧に修復してお客様宛に送って欲しい、と頼みました。 輸入元の話では、これだけキズがついてしまったものですから、 海外の製造元に頼んで、もう一本追加して製造する、という事に話が 一件落着しました。 後日、その輸入元の取締役、M氏がお詫びがてら弊店に来店されました。

2時間余り、人柄の良い信用出来るM氏と対談して、 今後の輸入元サービスセンターの修理の対応の仕方、時計技術職人の養成の方法等を、キメ細かく提言しました。

日本には、舶来腕時計を輸入して、時計小売り店に卸す輸入商社が、 おそらく50社以上に上るものと思います。 その中で、自前のしっかりしたサービスセンターを持っており、 どんな修理でも対応出来る技術者を育成して、十分なアフターフォローが出来る 輸入時計商社は果たして、どのくらいの数なのか?想像するにつれ、 ほんの僅かの会社しか無いのではないか?と危惧をしております。

日本で安心して、舶来腕時計を購入出来る、自前のサービスセンターを 持っている時計会社は日本ロレックス・スウォッチグループジャパン・ 日本シーベルヘグナー・ワールド通商・・・等の会社でしょうか。 その中でもダントツに、充実したサービスセンターを保有している会社は 日本ロレックス社、一社のみと小生は思っております。

日本ロレックス社は、総社員数が200名前後と、聞き及んでいますが、 その中で修理技術者の数は140名もの数を占めるそうです。 サービスセンター網も、日本各地に点在しており、 東京、大阪、名古屋、札幌、福岡、仙台、広島の7都市にあります。 世界や日本のユーザーのみなさんが、ロレックスを愛されるのも、 ムーブメントの秀逸さ、ケースの堅牢さもさることながら、 アフターサービス網がしっかりしている為に、後々が安心である、 と思われているからに違いありません。

このようなサービス網を持った、日本ロレックス社は、マレで、 日本にある舶来時計の輸入元会社はほとんどが自前のサービスセンターを持たず、 外注の民間の下請けサービスセンターに修理を委託・依頼しているのが、 現実だとおもいます。 クォーツ腕時計なら、新品ムーブメントを一式交換をして修理完了するのが 輸入元の修理の一般的な方法ですが、機械式腕時計の場合は、 修理技術者が一個一個丹念に分解・組立・調整をして修理しなければなりません。

輸入元時計会社の経営者の方には、商品を販売拡張する以前に、 もっと自覚を持って先ず第一にしなければならない事は、 修理体制を自前で完全なサービス体制網をまず作って頂きたいと、 強く願望するものです。 そうしなければ折角、機械式腕時計の魅力に魅了された大切なユーザーを 失うことになると思うのですが?

執筆後記  先頃4月24日に、アンティコルムのオークションがジュネーブで行われ、 パテック フィリップの懐中時計(Cal.89 K18WG)が 史上2番目の高価格で、落札されたそうです。 その金額はなんと500万$強(日本円で約6億円)で、あったそうです。 ちなみに、時計の落札最高価格は同じ、パテック フィリップで、 1933年に完成された複雑懐中時計で 1999年に1100万$強(日本円で約13億円)で落札されたそうです。

●時計の小話 第250話    オメガ・スピードマスター その1●

スポーツ腕時計の名声を欲しいままにした腕時計と言えば、 オメガ『スピードマスター』の右に出る時計は無いと思います。 ロレックス・デイトナの存在がいかに大きくとも、 オメガ・スピードマスターの50年弱に渡る、歴史の重さを考えれば、 その存在意義は他を圧倒するものでしょう。 世界中の若人の胸をトキメキさせた一番の腕時計と言えばΩスピードマスター だったような気がします。

オメガ・スピードマスター・ファーストモデルは、1958年にCal.321 (ムーブ直径27mm・金メッキ使用)を搭載して発売されました。 特徴としては、時針は蓄光塗料が塗られた大きなアロー型で、 分針はドルフィン型が採用されていました。

初代スピードマスターはピラー・ホイール方式を採用していたために、 構造は複雑で生産コストも高くなり、修理調整も厄介で、そういうデメリットも ありましたが、時計マニアの方には、この操作方法の方を、 高く評価されたのも事実でした。

2ndモデルは、1959年に登場し、キャリバーは同じCal.371を搭載し、針の形状が、細長いアルファ型に仕様変更されました。 この2ndモデルが、アメリカ・マーキュリー計画以降の宇宙飛行計画で使用する、 NASAに公式時計として、採用されました。 1秒を争う厳しい宇宙空間の中でΩスピードマスターは絶大なる信頼と信用を 勝ち得たのでした。

3rdモデルは、1963年から68年にまで製造され、NASAはジェミニ・アポロ計画の 公式時計として、正式採用しムーブメントは初代のCal.321を踏襲しておりました。

4thモデルは3rdモデルとほぼ同時期に発表・発売されています。 ムーブメントも同じ手巻きのCal.321を搭載していました。 1969年、アポロ11号による、人類史上初めての月面着陸に携行された (ムーン・ウォッチ)の名で世界中の人々に知られる様になったのは、 おそらくこの4thモデルだろうと言われています。

1968年にはレマニア社の協力を得て、新ムーブメントのCal.861を開発して、 5thモデルが発売されました。 このスピードマスターから、従来のピラー・ホイール式から、カム式に変更し、 パーツ数を相当数減らす事によりコストダウンにも成功し、修理が容易なるという 最大のメリットがありました。

テンプもチラネジ式を止めて、丸テンワ式に変更した為に、慣性モーメントも高まり、より等時性が安定して出やすくなりました。 当然振動数も、Cal.321は18000振動でしたが、Cal.861は21600振動まで 高められ、自ずと精度の向上が見込まれ絞り込みが、容易になりました。

執筆後記     
先日、名古屋のM商事のM氏が来店しビックリした噂話をされました。 バーゼル・フェアではこのことで話は持ちきりだったそうです。 アカデミー会員の著名なフランク・ミュラー氏が『フランク・ミュラー社』から 抜けたという話らしいのです。 真偽はともかくとして何かと話題に上る彼らしいと思いました。

●時計の小話 第251話    オメガ・スピードマスター その2●

現行のオメガ・スピードマスターには、Cal.1861が搭載されています。 これは、Cal.861が、金メッキだったものを、ロジウムメッキに仕上げ変更をして 世に出されたものです。 今まで、何十回となく、オメガ・スピードマスターの修理を携わってきて、 手巻きクロノグラフの美しさにいつも魅了をされ続けています。 (クロノグラフを購入される時計好きな人達もシースルーバックから垣間見える この機械的な美しさに参ってしまったに違いないでしょう。)

オメガ・スピードマスターを修理するときに、一番神経を使うのは、 ムーブメントの組立調整では無く、六本の各種針の脱着作業です。 このオメガの針の白い塗料は凄く傷つきやすく、また剥がれ落ちやすい為に、 最大限の神経を集中して、作業をしなければなりません。 (使用中に衝撃・落下等で白い塗料が剥がれ落ちた時計に何度となく会っています。)

250話と上記の最近のスピードマスター以外にも、異なったキャリバーを搭載した スピードマスター・クロノグラフが多々ありました。 1973年には、オメガ社創立125周年を記念して、 自動巻のスピードマスター・クロノメーター(Cal.1040)が、世に出ました。 このクロノグラフ・ムーブメントはレマニア製Cal.1340を リファインしたものでした。

同じく、1973年には、アメリカのブローバー社の音叉式腕時計の精度に対抗すべく、 世界で初めて、音叉式ムーブメント・クロノグラフCal.1225搭載の スピードマスター・スピードソニックを開発しました。 機械の構造上、スモールセコンドが12時の位置にあり、30分計が9時位置になり、 デイデイトを標準装備してありました。

この時計は、当時のオメガ社の技術陣が総力を挙げて開発したものに 違いないのですが、クォーツ腕時計の黎明期と重なった為に世に出た寿命が短く、 僅か二年間で消え去る運命だったのが残念で惜しまれてなりません。 それ程までに金メッキされた美しいエレクトロニクス・音叉ムーブメントでした。

1980年には、アポロ11号月面着陸10周年を記念した、 限定モデルが、初めてシースルーバックを採用されて発売されました。 1988年には、Cal.1140(48石,28800振動,自動巻)が新しく開発され、 世に出ました。 スピードマスターの変還史を掻い摘んで見てきただけでもオメガ社の技術力の 底力をまざまざと見せつけられた思いに駆られるのは、 私一人では無かったと思います。

今年のバーゼルではΩスピードマスター・プロフェッショナルMK?が文字板や針に カラーリングが施されレーシングウォッチの再現が見事になされました。 8月発売予定で304.500円になるそうです。

●時計の小話 第252話   掃除木●

最近、他店でオーバーホールしたにもかかわらず、調子が悪いので、見て欲しい、 という修理依頼が、時折あります。 裏ブタを開けますと、大体がそうなのですが、前回時計修理人が書いたと思われる 日付が入っています。

その日付を見ますと、半年前とか、一年前に修理されたにもかかわらず、 テンプ上下穴石の油がほとんど無い状態なのです。 当然、アンクルの油もチェックしてみますが、ほとんど油の残量がありません。 何故半年・一年前にオーバーホールしたにも関わらず、油が消えてしまうか? と言うと揮発油(ベンジン)の油膜が残っている状態で、注油しているからなのです。

穴石・受石等を洗浄した後、布巾で素速く拭いて揮発油・油膜を取り除けば いいのですが、綺麗に油膜が取り除けていない状態で、 テンプ油を注油した場合、油は拡散してしまい、長時間、保油出来ないのです。 弊店では、超音波洗浄機で、洗浄した後、テンプの上下ホゾ、ガンギ車上下ホゾを 掃除木(エルダーピース)でホゾに万が一油膜が残っている場合を考えて、 取り除く方法を採っています。

超音波洗浄機は、時計修理人には、無くてはならない必須の機械なのですが、 100%全幅の信頼を置くわけにはいかず、 テンプの穴石・受石・アンクル爪石,各車の穴石等を洗浄後も、 油膜が残らず綺麗になっているか?確認作業をしなければなりません。

特に、アンクル爪石・油が短期間の内に、拡散して、無くなった場合、 時計の調子は急激に悪くなるからです。 (ハイ・ビートなら余計に悪い影響がでます) ロレックスによく見受けられるのですが、 新品購入後、7年以上時間が経過しているにもかかわらず、 テンプの穴石・油が、十分に残っているケースがあります。

さすがに、ロレックスのテンプのホゾの保油能力の凄さに愕然とします。 ロレックスは、2番・3番・4番・ガンギ車のホゾの穴石・油の量が十分に注油 出来る為に、オーバーホール後5年以上過ぎても、油が残っている場合があり、 ロレックスは他を抜きんでて、良い保油設計をしているものと、 いつも感心しております。

●時計の小話 第253話   耐震装置・押さえバネ●

腕時計の心臓部であるテンプの上下ホゾには、 衝撃やコンクリート上への落下によるショックから守る為に、 耐震装置が装備されています。 天真の先端のホゾの直径は0.06mm〜太いもので0.12mmぐらいしか無い為、 耐震装置が無い時代においては、落下による天真が折れがあり 天真入れ替え作業という修理が多かったものです。 (懐中時計にはほとんど耐震装置が付いていないために旋盤にて 天真ベッサクして天真入れ替えをよくしたものでした。)

耐震装置が腕時計に取り付けられる様になって、天真折れという故障は極めて、 少なくなりました。

世界の腕時計に広く採用されている、耐震装置に『インカブロック (鼓の外形に似ています)』があります。 これは、『耐震穴石』と『耐震受石』と『耐震押さえバネ』から構成されていて、 テンプに強い衝撃が加わると天真が動き、受石・穴石がそれに伴って上下左右に動き、 押さえバネが衝撃を吸収する様に、なっています。

あまりにも大きな衝撃が、加わった場合、押さえバネで、吸収しきれなくて、 押さえバネがショックで外れてしまうという事があります。 お客様の修理依頼の中で、落として急に止まった場合、 昔は天真折れが多かったのですが、今では、押さえバネが外れて、 受石・穴石が飛び出してしまうという故障も起きます。 (1年間に数回はこのような故障に遭遇します。)

セイコー社の耐震装置は、『ダイヤショック』が有名ですし、 シチズン社では『パラショック』がよく知られている所です。

スイスのオメガ社等の高級腕時計製造会社の多くは、『インカブロック』を 採用しています。 インカブロックは効果が高く、非常に作業がし易いために今では多くのメーカーが この方式を採用しています。

ロレックス社は、1500系のムーブには、『フラワーKIF(花びらの形に似ています)』 が採用されていましたが、現在では、『ニューKIF (近鉄バッファローのエンブレム形に似ています。)』が採用されています。 以前のオリエント時計には、『ニュートロショック』が採用されていました。 ETAの普及版Cal.2824-2には、『KIF.プロテショック』が採用されています。

このタイプは、『ダイヤショック』に似ていて取り付けが易しそうに見えても、 意外と手こずる方式で、少し職人泣かせのタイプと言えるかもしれません。

その他には、今では、ほとんど見受けられない耐震装置・バネに 『アンチショック51』、『ビドリングマイヤー』、『コントラショック』、 『デュオフィックス』、『フィックスモビル』、『ジロキャップ』、 『レソマチック』、『ルファレックス』、『シムレックス』、『トリショック』、 『ユニセーフ』、『ユニショック』、『ビブラックス160』、等々がありましたが 市場から淘汰され消えて行きました。

各押さえバネは極めて薄く細く作られているために神経を集中して作業をしないと いけません。 余分な力が加わればすぐに折れてしまいますので繊細な作業と言えるかも知れません。

●時計の小話 第254話    パーツの入手について●

先日、修理をしていてこのような事が、ありました。 K様から修理依頼を受けた、ロレックス (Ref.6426 Cal.1225 17石 手巻き)は ゼンマイが切れておりオーバーホールとゼンマイ入れ替えで、修理作業を終えました。

ゼンマイ切れの故障の場合、必ず点検しなければならない事があります。 一瞬にして、爆発的な力でゼンマイが切れた場合、香箱の歯に想像を絶する力が 加わる為に、歯こぼれが起きる場合が往々にしてあるのです。

その時も二重キズミで、香箱の歯を一つづつ、入念にチェックして、異常ないものと、判断して、組み立ててオーバーホールを完了しました。 一週間の携帯精度調整を無事に終了し、その後お客様にその時計をお渡ししました。 そうしました所、K様から、『10日程は、正確に動いていたのですが、今日、 急に止まった。』との連絡がありました。

再度、送って頂くように、お願いし、再点検する事になりました。 ムーブメントをケースから取り出して、全てのパーツをを一個づつ取り出して 点検しました所、なんと、香箱の歯が三枚欠け落ちているではありませんか! これでは、動かないのも当然で、新品の香箱を入手する為に、 アッチコッチの取引先に手配を頼みました。
(おそらく二重キズミでは、発見出来ない非常に小さな亀裂が歯の内部で 起きていた為でしょう。 2週間は何とか持ちこたえたのですが、やはり亀裂が入ったところが負荷が大きく 歯が欠けてしまったと思います。)

このロレックスは、シリアルナンバー3705510から判断して、1973年製と思われ、 入手が出来ない可能性もあるのではないか?と少し不安に陥りました。 弊店の取引先のスイス時計パーツ専門・輸入商社や、普段から取引をさせて いただいてる、二社の時計材料店、そして知人のCMW技師等に入手出来ないものか、と尋ねました。

ようやく、見つけられ、交換し、この修理作業は終了しました。 ロレックスの場合は、99%新品の純正パーツは入手出来るのですが、 最近では、入手出来ないパーツの時計メーカーがあり、そうゆう時計メーカーの 修理依頼が来た場合、旋盤等で、作れる場合はいいのですが、 作れないパーツ破損の場合は、修理依頼をお断りしている状況です。

昔は、時計材料店に、力があったので、スイス時計メーカーのほとんどの あらゆるパーツは入手できたのですが、この頃では、ジャガールクルト等に 代表されるマニュファクチュールのパーツはもう、完全に入手出来ない状態に なっています。

ここ最近、45キャリバーを搭載した、GS・KSの修理依頼がたくさん弊店に 持ち込まれますが、この時計の特徴も、一般の手巻きの時計よりも歯車数が多い為、 またハイ・ビート仕様にしている為に、ゼンマイ・トルクの大きな香箱を 使用している為に、ゼンマイが切れて香箱の歯こぼれや、 2番車のカナの摩耗・損耗が著しいものが見受けられます。

また、三番車の歯もかなりへたっているものも、多く見受けられます。 これらのパーツはもはや入手不可能で、修理完了後のお客様もこのような貴重な GS・KSは大事に使って頂きたい、と思わざるを得ません。

●時計の小話 第255話  フランクミューラーはどこへ行く?●

現代が生んだ天才時計師、フランクミューラー氏が自ら創業した、 『フランクミューラー社』を出たのは、どうやら事実の様です。 敏腕な経営手腕のあるヴァルタン・シルマケス氏と彼が手を組んで フランクミューラー社を立ち上げてから10年そこそこで世界中にファンを持つ、 一大時計メーカーになった事は、前例を見ない希有な成功事でした。

フランクミューラー社は昨年度、好業績を挙げ48,000本ものフランクミューラー腕時計を売りまくり、売上高300億円という、時計メーカーとして巨大企業に のし上がったのです。 創業当初は、お互いの良いところを認めあい、 経営手腕の優れたヴァルタン・シルマケス氏をフランクミューラー氏も相棒として 認め、ヴァルタン・シルマケス氏は、フランクミューラー氏を時計技術者として 最高の賞賛を与えていたものと思います。

創業当初のお互いのひたむきな情熱と世に打って出るというがむしゃらな情熱が 巧く噛み合った時は順風満帆に事が運んでいき、上手く右肩上がりの 軌道になったのでしょう。 シルマケス氏は、会社の経営を任されていたので、会社内での自分の地位を 盤石のものとし、自分の息のかかった優れた部下達を育て上げ、 経営中枢を自分のブレーンで固めていったものと思います。

一方時計技術者のフランクミューラー氏は、一、二年ごとに世界中の時計愛好家が 驚嘆する様な新機構の腕時計の開発に没頭していて、なかなか経営の体質 及び業績内容等がうまく把握出来ない為に徐々に経営陣から疎外される立場に 追い込まれていったものと推察しています。

昨年から両氏がお互いに訴訟をおこし、裁判沙汰になっており、 第三者から見れば泥試合の様相を呈してきているのは残念な事です。 (組織対個人の争いになっている状況では、フランクミューラー氏の方が 一方的に不利な様な気がします。)

なんといっても一番の被害者はフランクミューラー腕時計を買ったユーザーの方々で、 フランクミューラーのイメージが悪い方に大幅にダウンして、 困惑されているものと思います。 一部にETAベースのムーブメントを搭載しているフランクミューラー腕時計でも、 100万円前後という高額商品ですので、あの独創的なデザイン、 フランクミューラー氏の魂に共鳴を覚えて購入された顧客の方々は、 慚愧の念に耐えないような気持ちに陥っているのではないか、と思います。

彼ら二人が、何故そこまでこじれた関係になってしまったのか?と言えば、 会社内での権力闘争及び、金にまつわる利益配分の取り分、経営の舵取りによる 意見対立等も大きな原因なのではないでしょうか? お互いに犯してはならない領域に口を挟むことによって、深い亀裂と断裂が おきたものと思います。

言い換えれば、フランクミューラー氏は経営にタッチしないで、時計開発に専念し、 ヴァルタン・シルマケス氏も腕時計開発に口を挟む事なく、 経営に専念しておれば、このような事にはならなかった気がします。

(本田技研工業が、世界のホンダとして大飛躍したのも経営に優れた藤沢武夫氏が おられ、技術開発に専念できた本田宗一郎氏という優れた技術者との 二人三脚のタッグが上手くいったからなのでしょう。)

この問題は、時計業界にとって大きな出来事であり、再度仲直りする事は 非常に難しい状況と思われますが、 なんとか二人が和解して円満解決の方法を見つけてくれる事を祈ってやみません。 そうでなければ一番の犠牲者はフランクミューラー氏でもなく ヴァルタン・シルマケス氏でもなくフランクミューラー腕時計を愛する お客様なのですから。

●時計の小話 第256話   長野県発・時計修理資格について●

この時計の小話でも、何度も取りあげた事なのですが、 機械式腕時計のめざましい隆盛と共に、必ずや4、5年後にやってくる オーバーホールをする時計職人の絶対数の受け皿が非常に少ないという事を、 危惧してきました。

恐らく、現実味をもって感じられるであろう、修理対応が目一杯で出来ない状態が どの時計店にも訪れてくる事に対して、業界が先手を打って、 対応策を一日も早く打たなければ、とんでもない事に陥る事は容易に察せられます。 小生も事ある毎に舶来時計輸入商社の役員に方々に、充実したサービス網を しっかり構築して欲しいと口を酸っぱくして言ってきました。

最近、非常に喜ばしいニュースが飛び込んできました。 1970年代からのクォーツ腕時計の拡販と共に、難関のCMW試験も終幕し、 国家技能検定の時計修理課題もクォーツ一辺倒になり、機械式腕時計の修理技術を問う試験制度が無くなっていましたが、長野県が『技能評価認定制度』を創設し、 機械式時計修理技能資格が、認定第一号になった事は喜ばしい出来事です。

機械式腕時計の技術の継承を計る為に、長野県と、長野県時宝鏡商業協同組合、 セイコーエプソン、シチズンの子会社『平和時計製作所』が、協力しあって、 機械式腕時計の修理技能資格を独自に立ち上げ、 今年度10月末に初の認定試験を行うと、宣言したのです。

試験制度は1級から、3級まで等級があり、 1級は時計職人としての、卓越した知識や、技能を試され 2級は生業として可能な、修理技術力の保有を試され、そして 3級は分解掃除と、外装の組立が再生出来る力が試されます。 (弊店の時計修理通信講座を良い成績で卒業した二人のK君にも 受験を勧めています。)

日本で、販売されるスイス製高級腕時計が3.000億円も売れ、そのほとんどが 機械式腕時計で占められる事を考慮すれば もっと早く、国家技能検定の試験課題もクォーツ腕時計の修理から脱却して、 機械式腕時計の修理技術を問う試験に、しなければならなかったのではないか?と 思っております。 (機械式腕時計の修理はクォーツの修理よりもかなり難しくて専門的な理論と技能を 身に付けなければならない事を思うにつれ、もっと早い段階で何かしら方法で 職人教育を充実させるべきではなかったのかと思います。)

クォーツのオーバーホールは難なく出来るけれども、 機械式腕時計の修理技術を完璧に修得している若手の時計職人は、 意外と少ないのではないか?と想像しております。 そういう点でも意気込みのある、若手の時計職人の人が機械式腕時計の修理技術の 腕前を上げて、この長野県主催の時計修理資格を、取得する為に頑張って頂きたいと 願っております。 小生も微力ながら将来、CMW試験が復活するべく尽力したいと思っています。

●時計の小話 第257話   バーゼルフェア●

今年も、スイスで開催されたバーゼルフェア、SIHHが成功裏に終わったそうです。 たくさんの時計メーカーが意欲的な新作を発表しましたが、 その中で小生が特に興味を持った腕時計がいくつかあったので、 紹介してみたいと思います。

インターナショナルが満を持して発表した、 『ポルトギーゼ・ミニッツ・リピーター・スケレット 税抜き予定価格1075万円』。 この時計は、直径42mmの18KWGの大型ケースに、完璧なまでのスケルトン加工を施した ミニッツ・リピーター搭載の手巻き(Cal.95911)腕時計です。

リピーターの音色を奏でるハンマーとゴングが、文字板下部から見られるので 興味が沸きますが、それよりも裏蓋側から見られるスケルトン手巻きの美しさに 感嘆せざるを得ません。 この様な、腕時計を製作出来るIWCに感動を覚えると同時に脱帽ものです。

2番目に、興味を引いたのは、タグホイヤー『MONACO V4コンセプトウォッチ』です。 この試作品モデルは自動巻のローターに代わる物に、 『線形振動錘プラチナ製(ケース裏側で上下に振動する)』を採用しています。 また、ケースの4角に4個の香箱があり、今までの歯車に代わり、 リレー式駆動ベルトを採用している、画期的なシステムになっています。 商品化されるまでには、未だ幾多の課題を克服しなければならないでしょうが、 将来的には楽しみとも言える腕時計の一つだと思います。

もう一つの時計は、フレデリック・コンスタント社が、 マニュファクチュールとして仲間入りを果たすべく、 自社開発したハート・ビート新開発ムーブメント(FC910-1)を搭載した腕時計です。 このムーブメントの特徴は、文字板側にテンプ受けがあるという 斬新な発想で作られています。バーゼルフェアともなると、金銭感覚がおかしくなるほど、 一千万円とか一千五百万円もする高級腕時計が氾濫していますが、 このフレデリック・コンスタントの新型の特色の一つは、 少し我慢して蓄えれば、一般の方々でも購入出来る価格(\378,000)である事が 嬉しいです。

最後の一つは、 マニュファクチュールの代表的な時計メーカーのジャガールクルト社が発表した 『ジャイロ・トゥールビヨン・永久カレンダー・8日巻き腕時計 (390.000スイスフラン、邦価約3.500万円)』でしょうか。 一般的なトゥールビヨンはキャリッジが水平に回転するのですが、 この時計は二重の球体ケージに収めて多方向に回転させるという代物です。 均時差表示、パワーリザーブインジケーター、レトログラード方式の日付と月表示、 ケースの裏には、閏年の表示まで出来るそうです。

●時計の小話 第258話   ユーロ(株)展示会●

6月23日に名古屋市のパレロワイヤルシャンテ・ホテルにて、 ユーロパッション(株)の『ジ・アート オブ タイム2004』と謳った、 スイス腕時計の展示会が行われ、小生も家内を同伴して、見てきました。

四階ワンフロアに、ユーロパッションの主力商品『オリス』、『エポス』、 『ジャッケ・エトアール』、『マーチンブラウン』、『アントワーヌ・プレジウソ』、 『グリモルディ』、『ウォッチピープル』、『ペルレ』、『オティウム』等が、 所狭しと展示されていました。 魅力的な商品が一杯あり目を奪われフロアを何周したかしれません。 2004年バーゼルフェアで新作発表された、 各スイス時計メーカーの全精力を傾けた商品群が、目を惹きつけました。

弊店では、エポスに一番力を入れており、その為か、弊店の売り上げ個数では、 一番の数が売れています。 エポスに力を入れているのは価格がリーズナブルで時計好きな方々の 味方であるような会社の姿勢に共鳴したからです。 エポスの新作コーナーを時間をかけてゆっくり見て、商品を発注してきました。

9月〜10月頃に入荷予定ですが、特にその中で、魅力的であった時計を 紹介したいと思います。 ・エポス エディション・アンティークデュオグラフ自動巻  (Cal.7750)シースルーバック 予定価格\155,000 ・エポス トノー型両面スケルトン自動巻(Cal.ETA2892-2) 予定価格\119,700 ・エポス ニューレクタングル自動巻 予定価格\58,800 ・エポス トノー型パワーリザーブ手巻き(Cal.プゾー7046) 予定価格\144,900 ・エポス トノー型トリプルカレンダー・ムーンフェイズ自動巻  (ベースCal.ETA2892-A2) 予定価格\157,500 ・エポス トノー型オープンハート自動巻(Cal.ETA2824-2) 予定価格\71,400 ・エポス レディス丸型オープンハート自動巻文字盤に白蝶貝使用 予定価格\71,400

これらの品は、とても新鮮で、おそらく入荷次第、すぐに売れてしまうものと 思っております。 今回の展示会で、解った事ですが、ユーロパッション(株)が、神戸市のK時計店から 譲り受け、ミューレ・グラスヒュッテの日本総輸入代理店になった事により、 ミューレの今回の展示会にかける意気込みが、よく伝わり、 素晴らしい仕上げのミューレが一杯展示されていた事でした。

弊店にも、資金的に余裕が出ればミューレ・グラスヒュッテを本格的に 取り扱いたいと思っております。 特にスポーツオートマチックM12自動巻(ETA2824-2 10気圧防水) 【http://www.isozaki-tokei.com/muhle.htm】は、IWCマーク15に良く似た 視認性に優れたデザインで、価格も\105,000(税込)と抑えられていて、将来、 人気がかなり出るものと思っています。

O社長とF専務と商談してきましたが、ユーロパッション(株)が 機械式腕時計の日本での鰻登りの人気により、会社が急成長をしている事を 喜ばしく思いました。

●時計の小話 第259話    カレンダー瞬間早送り機構について●

カレンダー(日付)を夜中の12時に瞬間的に送り変える機構には、 各時計メーカーの技術陣が、知恵を絞って工夫しています。 一番有名なのは、ロレックス社の『デイトジャスト』でしょうか? 現行のCal.3135には、わずか6個のパーツで瞬間早送り機能を持っています。

1960年代後半に、セイコー社から発売された、キャリバー45系の手巻きのGS・KS等にも瞬間早送り機構がついておりました。 また、Cal.5146系のセイコープレスマチックや、Cal.5246系のセイコーバナック等は、 45系とはまた違った蟹の手のような形のパーツで送る方法を採っていました。 どちらのムーブメントも、第二精工舎が製造したもので諏訪精工舎からは 瞬間早送り機構がついた時計は売り出しはなかった記憶があります。

オーディマ・ピゲ自動巻きCal.K2121のカレンダー瞬間早送り機構はどこも 真似が出来ないような独創的な方法を取っていました。 今でも記憶に強く残っています。
現行のETA社には、ラドーやフォルティスのデイデイト付き瞬間早送りには、 Cal.2836-2が搭載されています。 (フォルティス・コスモノートシリーズ  http://www.isozaki-tokei.com/fortis-cosmo.htm) ハミルトンのデイデイト付き瞬間早送りには、ETA2836-2の姉妹機Cal.2834-2 (直径29mm厚さ5.05mm25石)が採用されています。 (ハミルトン・カーキキング http://www.isozaki-tokei.com/hamilton2004.htm

両方のこのETA社の方式は全く同じで、使用パーツ数が少なく 非常に簡潔な方式で恐らく、特許を取得しているものと思います。 Cal.2836-2、Cal.2834-2は、廉価版自動巻機種ETA2824-2から派生的に生まれてきた 兄弟機種です。

一般的にETA高級自動巻ムーブメントCal.2892-2よりも、 ETA2824-2は性能が落ちる様に思われていますが、ETA2824-2は、2892-2よりも 大型テンプを採用しており、どちらかと言えば、精度が絞りやすい安定した 機種と言えます。 (小生はどちらかと言えば2824-2系の方が精度が絞りやすく好きなのですが 自動巻機構のパーツの耐久性で少し疑問を持っています。)

各時計メーカーの瞬間早送り機能が付いた時計を今まで沢山見てきましたが、 私見ですが、現行のETA方式が一番優れているのではないか?と思っています。 現行の国産最高峰と言えるセイコーGSにカレンダー瞬間早送り機構が無いのが 残念で、設計を見直して取り付けて欲しいと願っております。 (カレンダー瞬間早送り機構は高級腕時計の一つの象徴でもあるからです。)

瞬間早送り装置がついた腕時計を使用するにあたって、 特に注意しなければならない事は、 時計の時刻の夜の八時〜夜中の午前三時の間に、 カレンダー早送りを絶対してはならない、と言う事です。

送り爪がカレンダー板を送ろうとして噛み合っている時に、早送り操作をしますと、 送り爪にムリな負担がかかり、爪が変形したりして、故障の原因になったりします。 (そう言う故障になった腕時計の修理にも多く体験しています。)

機械式腕時計は、非常に繊細な仕組みを持った精密機械ですので、 誤操作の無いよう愛情を持って接して頂けたら、と希望します。

●時計の小話 第260話    多石化競争●

昭和30年代後半に国産腕時計メーカーでは、多石化競争 (今から思えば邪道としか言いようのない競争でしたが) という、おかしな現象が起きました。

人工ルビーが、テンプの振り石やアンクル爪石、軸受け穴石・受石等に 採用されていますが、一般的に手巻きで、17石、自動巻で、21石前後あるのが、 普通でしたが、リコー時計が45石入りの『ダイナミック・オート』を 発売するにいたり、多石化競争の口火を切ったのでした。

シチズン、オリエントがそれに追随するかのごとく、多石入りの腕時計を 発売しだしたのです。 シチズンが39石入りの、『スーパーオートデイター』、 オリエントが何と64石入りの、『グランプリ』 Cal、676を発売しました。

その当時は、石数が多い程、高級腕時計と見なされ、実際に石数が多い方が、 値段が高かったのです。 その頃は、ルビーと言えば、希少で高額な宝石と一般客に思われていたせいか、 オーバーホールの依頼で、修理品を預かる時、お客様から、 『ルビー石を抜いて盗らないで欲しい』という今から思えば、 滑稽に思える事が、各時計店の売場で、そういう言葉のやり取りがあったそうです。

この多石化競争の最後には、昭和39年に、オリエント社が 『グランプリ100』Cal、661という、文字通り、100石入りの腕時計を発売して、 世間をビックリさせ、この時計の出現により多石化競争の終止符が打たれたのです。 極最近、この懐かしいオリエント・64石入り『グランプリ』の オーバーホールの依頼を受けました。 (http://www.isozaki-tokei.com/syuri-kokusan.htm) 記憶を遡れば、おそらく35年ぶりのオーバーホールになり、 興味津々で懐かしい想いに駆られながら修理をしました。

どこに、そんなに多くのルビー石を使っているか?と言えば、 ローターに5石のルビー石が埋め込まれていたり、自動巻き上げ車に6個のルビー石を 埋め込んでいたり、側止め板・ネジが抜け落ちない様に、ルビー石が20個以上も 埋め込まれているリングをあったり、全く必要のない、装飾としか言いようがない 場所にルビー石が埋め込まれて飾られていました。 (実際に裏蓋を開けたときはルビーが光って一瞬キレイに見えるのですが)

自動巻機構は、アンティーク・インターナショナルの自動巻機構 (Cal、854) を全く模倣した方式で、唖然と、させられますが、 緩急針機構には、オリエント独自の独創的な方式が採用され、 その当時のオリエント時計会社の技術力レベルがいかに高かったか、 思い知らされます。

緩急針は回転する風車のような形をしており、ウォーム歯車方式で、 微細な緩急が出来ます。 また、ヒゲ受けは一般的に細密ドライバーで、90度回して開閉するのですが、 このオリエントは、三位一体となった緩急針の所にある、 小さな穴に探り棒を入れて、開閉出来る、という、いとも簡単な方式です。

ヒゲ棒間のアソビ調整もセイコーCal.45系に採用されているような、 レバーを動かす事により超微細アソビ調整が出来る機能を持っていました。

恐らく、このオリエント・グランプリは、当時の国産最高峰グランドセイコーに 対抗すべく、オリエント社が全精力を傾注して開発したものと思われ、 ムーブメントを見ればその当時のオリエント社の技術陣の意気込みが 彷彿としてきます。
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