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●時計の小話 第141話(機械式時計の精度)●ROLEX等のスイス高級時計の振動数は1時間28,800振動(4hz)の物が多いです。
(1秒間に8振動です。) 日差は5秒前後(月差150秒)に調整されています。 これは果たして時計として正確と言えるのでしょうか? 水晶腕時計の振動数は一般的に1秒間32,768hz振動します。 月差は普通20秒です。 単純に比較すると水晶腕時計方がかなり精度が高いような気がしますが、振動数から考慮すればそうでもないのです。 メカ式はクォーツと比較して振動数は3千万分の一にもかかわらず、誤差は僅か7,5倍なのです(振動数が多くなればなるほど正確と言われています)。 その事を考えれば、振動数を基準にした時、如何にテンプ機械式が正確であるか解っていただけるかと思います。 テンプ機械式がクォーツと比較して価格が高くなるのは致し方ないと言えるでしょうか(逆に言えば精度の割にはクォーツは割安と言えると思います)。 機械式の時計の精度を出すために、300年にわたり、多くの時計技術者がいかに知恵を絞って研究し努力してきたか、想像できると言うものです。 日差5秒の精度を出すために大変な労力が注ぎ込まれたのです。 それに共感を覚える人たちがメカ式時計を買ってゆかれるのでと私は思います(300年間の時計技術者の夢と希望のロマンを買うのかもしれません)。 クォーツは誕生以来まだ30年の歴史しか刻んでいません。 そういう意味からまだまだ発展途上の時計と言えるかもしれません。 ●時計の小話 第142話(サインのつらさ)●時計職人なら、ほとんどの方が分解掃除0H後に裏ブタに日付けと自分の名前のサインをします。
この時計は自分が修理したのだという気概と誇りと自信をもってサインを書き入れます(私の場合、CMW T・Iと書きます)。 しかしながら精一杯手抜きをしないで完璧に修理したにもかかわらず、サインする事に躊躇する場合が多々あるのです。 前回、あるいは前々回の修理者が未熟のために、地板・ネジ等にあっちこっち傷をつけている場合です。 取れない傷の場合どうしようもありません。 前回にひどくいじられた時計のOH後、自分の名前をサインしてお客様に渡し、次回修理の時に自店に戻って来ればいいのですが、他店に行った場合、あの人は大きな口をたたくくせにこの傷だらけの作業は何だと思われる可能性が無きにしも非ずという訳です。 よって、前回の修理が余りにもひどい作業をしている場合、私は日付けはキチンと入れますが、自分の名前を書き込むのはものすごく抵抗があるのです。 やむを得ず書かない場合があります(自分だけにしか解らない記号にしたりします)。 先日もGSのOHの依頼を受けました。 ムーブを見てビックリ仰天しました。 緩急針をヤットコか何かでちぎっているのです。 何でこんな作業をするのか想像すらできません(どういう理由でするのか聞きたいくらいです)。 当然時間は全然合わない為にヒゲゼンマイを調節して何とか直しました。 この場合もサインをするのはやむを得ず差し控えました。 ●時計の小話 第143話(ゼニスよ、お前もか)●
なにかしらシェークスピアの戯曲の台詞のような言葉ですが、そう言いたくなる今度のゼニス時計の大幅値上がりです。
スイス時計メーカーの中で良心的な価格設定をしていたのがゼニス社でした。 それがこの度の豹変ですから誰もがビックリされた事と思います。 ここにどれだけ上がったか一例を書いてみたいと思います。 昨年の3月まで人気のクラス・エルプリメロ(02.0500.400/24黒)は小売定価29万円でした。 それが昨年4月に33万円になり、今度は小売価格50万円になるというのです。 これは滅茶苦茶な値上がりといっても言い過ぎではないとおもいます(大幅な円安が進行していれば納得するのですが、1年間で僅か10%位の円安です)。 予兆はありました。 日本代理店が大沢商会から商売上手なLVMH(ルイ・ヴィトングループ)に変わったことが大きな原因でしょうか(昨年、大沢商会の幹部営業マンが引き続きゼニス日本代理店として取引をさせてもらえないかとゼニス前社長に頼んだところ、日本人がルイ・ヴィトンのバックを沢山買うからルイ・ヴィトングループが資金が潤沢になり、ゼニス時計会社を乗っ取られてしまったと嘆いていたそうです。もう私にはそんな権限がないと)。 ゼニスの新社長が、不当に安いゼニス小売価格の見直しをするというような事が時計雑誌に書かれていましたが、私から言わせれば他のスイス時計の価格が高いのであって、それまでのゼニスの価格は適正で妥当な線だと思っていました。 高級機械時計を購入される消費者の方は本当に時計ファンなのです。 そういう業界にとって大切なお客様を獲物にするようなことは絶対してはならないことと思います。 ル・・・・グループの日本支社長がかって物議をかもし出した事がありました。 『援助交際までして・・・・のバックを買って欲しくない』と。 確かにそうですが、そういう人がはたして何人おられるのでしょうか? ・・・・のバックを持っている人の1000人に1人はそういうやましい金で買った人かもしれませんが、大多数の人は一生懸命働いてお金を貯めてやっと買われた人達でしょう。 この発言に賛否両論ありましたが私は顧客である日本人を小ばかにしていると感じたものでした。 ●時計の小話 第144話(受け取らない修理完了品)●各スイス時計のサービスセンターには、引き取り手の無い修理完了品が一杯あると聞きました。
予定していた以上に修理料金がかかったために代引き輸送受け取り拒否になり、 サービスセンターに眠っているというのです。 そういうイワクつきの時計の最終所有権者は誰になるのでしょうか? 半永久的に陽の目に当らない運命なのでしょうか? 腕時計として充分使用できるのに勿体無い気がします。 アンティーク時計のファンの人が見たら垂涎のものが一杯あるに違いありません。 私が長浜の実家の時計店にいた頃もやっぱりそういう時計がゴロゴロしていました。 5年も取りに来られなかったりしたらもう最悪でした。 (ひょっこりと5年ぶりに来られたりしたら再度オーバーホールのやり直しということが時たまありました。二重手間です。) 地方の老舗の時計店にはこのように取りに来られない修理の腕時計があるのではないでしょうか? 特に大物(掛け時計・目覚まし時計)は実家の2階の部屋を占領するほど一杯あった記憶があります。 若干修理料金が見積もりよりも高くなっても引き取って大切に使っていただきたいと思います。 ●時計の小話 第145話(売れる長持ち商品・背景は)●
4月10日NHK番組『クローズアップ現代』で売れる長持ち商品・背景は、の特集をしていました。
その中で、シチズンのフラッグシップモデル、『ザ・シチズン』クォーツ腕時計の事が 取り上げていました。 10年間無償保証、生涯修理対応の画期的アフターサービス体制を取材していました(これは本当に画期的な事でしょうか?)。 この番組を見て少し大袈裟だなと思いました(シチズンの方には失礼かもしれませんが)。 メカ式ならとうの昔から一生ものなのですから。 懐中時計なんか100年以上過ぎたものでも正常に動くものがあります。 きちんと定期的に分解掃除を腕の確かな時計職人にかかっていれば、60年以上に使用に耐えられるのがメカ式です。 消耗パーツの竜頭、風防、パッキング、のみ確保(代用品でも可)してあれば、 ほとんどの部品は旋盤でベッサクができます。 一方、クォーツの場合はゼンマイ(強力なトルク)が入っていないために、歯車・地板等が薄く軽く弱く(プラスチック樹脂を頻繁に使っています)作っても大丈夫のようですが、耐久性に疑問があるのではないでしょうか? ROLEX等の機械式と違ってクォーツの歯車の強度は問題にならないくらい小さくて薄くて弱いように思います(小さくて薄くて弱くても使用するのに影響がないのでしょうが)。 メカ式のテンプにあたるステップモーター(永久磁石付き)が全てプラスチックで作ってある物に当りますが、洗浄に大変神経を使います(逆に言えば、洗浄しないほうがかえってイイくらいの代物です。誤って超音波洗浄器で洗ったら、微細な鉄粉が着いて取り返しがつかなくなります)。 ピンセットで持てばすぐに形状が変形してしてしまうからです。 シチズン・クラブ・ラメールのクォーツのステップモーターはプラスチック樹脂で出来た 非常に繊細なパーツ(ステップモーター)でした。 クォーツには電子回路・コイル等のパーツがありますが、これらはメカ式と違って耐久性がよくありません。 そういう点から言えば、『ザ・シチズン』クォーツ腕時計は長寿命保証の時計といえるかもしれませんが、メカ式と比較した場合全然、命の長さが違います。 しかし、クォーツ腕時計ファンの人々にとって大変魅力のある、『ザ・シチズン』クォーツ腕時計です。 ●時計の小話 第146話(ヒゲゼンマイについて)●
K市の素敵な女性から、時計修理の依頼を受けました。
最初はお母様からプレゼントされたグッチのクォーツ腕時計でした。 K市内にあるD百貨店の時計売り場に持って行ったところ、修理受付けを断られ、インターネットで当店を検索して、持って来られました。 水・汗等が入り、錆びていましたが、OHして修理完了しました。 感激されたその女性は、後日、伯母様から頂かれたインターナショナルの手巻き婦人用腕時計Cal、41の修理を持って来られました。 30年間、時計店を経営してきて、インターナショナルのムーブが一番好きだった私は、久しぶりに懐かしい感動を覚えながら、この時計の修理をしました。 現在のIWCはほとんどETA社のムーブメントを搭載しています(この時計は修理実績に載っています)。 このインターナショナル婦人用手巻き腕時計の機械の素晴らしさは、言語に言い表せれない程のものでした。 特に、2本のヒゲ棒の間のヒゲゼンマイの両当りの隙間が、一条の光がわずかに差し込むほどの微量なものでした。 マイクロで測れたとしたら、おそらく0.005mm以内のものだったに違いありません(何故、この微量な隙間にこだわるのかと言えば、隙間が大きいのとは全然、 短弧長弧との等時性が違うのです)。 30〜40年前のインターナショナル時計会社の何十人もの技術者が、ヒゲゼンマイの外端曲線をこれほどまでに調整する技術能力を持っていたことに脱帽致しました。 S県のK様から修理依頼を受けたキングセイコーCal.4500A(第二精工舎製、メーカー出荷精度等級、日差−10〜+15秒)、グランドセイコーCal.6156A(諏訪精工舎製)もヒゲ棒とヒゲ受けの間のヒゲゼンマイの両当りの隙間が、上記のインターナショナルと匹敵する隙間に調整できる装置が備わっていました。 キングセイコーの場合は、レバーを動かす事により、ヒゲ棒隙間を大きくしたり小さくしたりする事が出来、グランドセイコーの場合は、ネジを動かす事により、ヒゲ棒間のヒゲ両当りの隙間の量を調整出来ました。 セイコーの腕時計を修理をする度に、いつも思うことは、本当にこの会社は良心的な素晴らしい機械式時計を製造する会社だと痛感させられることです。 このセイコー時計会社の良心的な社風は創業者:服部金太郎翁の精神が今日まで脈々と受け継がれてきたものに違いありません。 こんな逸話があります。 明治時代、やっと軌道に乗った精工舎に火災と言う不幸が襲った時でした。 お客様から預かった修理品を、何百個と焼失してしまい、途方に暮れた社員に向かって服部金太郎翁は「全ての修理を預かったお客様に、それに相応する以上の新品の腕時計を差し上げなさい」と言われたのです。 その行為により、精工舎の名声はますます高まっていったのです。 現在の厳しい不景気の状況の中、このような超良心的な会社が生き延びていくのは大変でしょうが、有名上場会社の不祥事が続発する今、模範として永久に栄えていって欲しい会社です。 ●時計の小話 第147話(初代GSの修理依頼)●
グッチとインターナショナルの修理をしたK市の女性から、今度は初代グランドセイコー手巻き腕時計(80ミクロン金張りケース 諏訪精工舎製 Cal、3180 5振動のロービート 25石 社内検定クロノメーター規格 名品セイコークラウンの姉妹品と言えるでしょうか)の修理を受けました。
実家に帰られた折に、時計の話が出て、その女性のお父様が初任給をもらったお金を貯めてグランドセイコーを買った話が出てきたのです(1960年発売で当時の価格で25000円、大卒初任給の2倍の高さの高級機種でした)。 あっちこっちの時計店やセイコー時計会社に修理を依頼しても断られたので、長い間、もう完全にあきらめておられたのです。 その女性がお父様から時計を預かって、当店に持って来られたというわけです。 中の機械を見たら、どこも断ったのが分かる状態でした。 コハゼバネ折れ(代用品で可能)・三番車下ホゾ折れだったのです。 三番車は、セイコーに問い合わせてもすでに在庫がなく、 『ホゾ入れ』をしなくては直らない代物だったのです。 セイコーの記念的な初代グランドセイコーなので、何とか元通り動くよう修理したいと思っています。 この初代グランドセイコーはアンティーク・ショップで24万円前後という高値で取引されています。 最近、初代キングセイコー等の40年程前のセイコー腕時計の修理をしますが、 どれも何十年と動いてきたにも関わらず、OHをすれば見事に精度が蘇るのに感動します。 後日、このGSは皆様に『修理実績のコーナー』でご披露したいと思います。 ●時計の小話 第148話(時計の天敵)●時計の天敵と言えば、水(湿気)、衝撃(落下)、磁気でしょうか。
その中で一番の強敵が、水(湿気)でしょう。 「医者の不養生」ではありませんが、時計に携わっている私でも過去に愛機ユニバーサルの腕時計を2個錆びさせてダメにしてしまいました。 30年程前、給料5万円位の時に10万円前後したユニバーサル・ホワイトシャドーを2個ダメにしてしまい、今思えば、慙愧の念に耐えません(止まって気が付いて裏ブタを開けてみたら全体に錆がガン細胞みたいに覆っていました。それ以来私は防水であろうとも水には絶対浸けないようにしています。一度錆びたら取り返しがつかなくなります。送られてくる修理依頼品の場合、錆がひどい時は悪いですがお断りをしています。それほど錆は機械式にとって致命傷なのです)。 私がユニバーサル・ホワイトシャドーが好きだったのは自動巻きにもかかわらず薄型で軽く仕上げていたからなのです。 最近、ユニバーサル・ポールルーター(北極圏飛行者)自動巻き Cal.69 28石PAT+329805+のOHしましたが、私が持っていた時計と同様のマイクロ・ローター搭載の自動巻きでした。 この方式は最近見直され、パティックフィリップ、ショパール、ランゲアンドゾーネ等の会社が新設計のCalを自社開発して売り出しております。 この方式の魅力は何と言っても薄く,軽く自動巻きが作れるからでしょうか。 それと見た目がとても綺麗にムーブメントが仕上がるからです。 ユニバーサル社の特許が消えた今ではどの時計会社も気楽に参入できるのでしょう(一世を風靡したユニバーサル社の最近の商業活動が見えませんがどうなってしまったのでしょうか?ユニバーサル・ファンの私は寂しい気がします)。 100m200m防水の腕時計でも錆びているのによく当ります。 常日頃から出来うる限り水には浸けないようにご使用いただくと腕時計は何十年と 寿命が持ちこたえられます。 あの堅牢なROLEXオイスターケース、200m防水をうたったタグホイヤー、オメガでも錆びた時計のOHを請け負います。 スイス高級時計をお持ちの皆さんも水には十分注意してご使用していただけたら 時計職人としてこんな嬉しいことはありません。 ●時計の小話 第149話(時計の蘇生について)●石川県小松市のY様から修理依頼を受けた、完全停止の40年程前のオメガ・ジュネーブ手巻き腕時計(Cal.284 17石)のムーブメントは、この1年間修理してきた腕時計の中で5傑の中に入る素晴らしい機械でした(あとの4傑はROLEX Cal.1601、SEIKO Cal.4500A 5146A、インターナショナル CaL.41かな?) http://www.isozaki-tokei.com/backnumber8.htm(←載っています) 修理の結果、5振動のロービートにも関わらず、日差プラス2〜3秒以内に調整出来ました。 ブレゲ巻上げヒゲで、高精度が出る仕組みになっていました。 地板等は赤色金メッキに仕上げてあり、どのネジ1個にも手抜きの無い作業がしてありました。 ネジも堅牢に作られており、未熟な技術者がネジを締め過ぎてもネジ頭が取れないようなしっかりとした作りでした(あの頃のオメガ社は絶賛に値する時計を数多く作っていたのですね。精工舎もお側に寄れなかったのではないでしょうか?) 長年使われてきた為に、文字板・ケース等はかなりくたびれていて、見栄えは悪かったのですが、機械は完全に新品の状態のような調子の良い腕時計に蘇生しました。 日本全国から私の腕を見込んで、父親や祖父の形見の腕時計が送られてきますが、錆びていない限り、十中八、九、修理完了するように努力しています。 大変な修理作業が多いのですが、修理依頼人の喜ぶ顔が浮かぶと、何とか直してあげたいと思いながら毎日、悪戦苦闘しています。 完全に止まっていた腕時計が、命を与えられてテンプが再び動き出した瞬間は、時計職人として最高の喜びでもあります。 時計の機械は腕の確かな技術者にかかれば、再度動き出しますが、人間の命はそんなわけにはいかないのがはかないです。 父方の遠い親戚にあたる、滋賀県H市のO時計店の一人息子・・・君は、近江時計学校を優秀な成績で卒業し、21才の若さで2級時計修理技能士を最高点で合格し、知事賞受賞という名誉をうけました。 彼は将来、CMW獲得をするという目標を持っていて私に熱い情熱を語っていましたが、突然、不治の病に冒され20代の若さで不帰の人になってしまいました。 ご両親は非常に落胆され、番頭さんに時計店を譲って引退されてしまいました。 人間の病はどんな名医にかかっても、治らない場合があるということがその時、 よくわかりました。 お医者さんという名誉ある職業は本当に大変なプレッシャーのかかるお仕事だと思います(毎日、本当にお疲れのことと存じます)。 時計の命は腕の確かな職人にかかれば命は復活しますが、人間や生物の命は一度失ったら取り返しがつきません。 自分の命も勿論一番大切ですが、周りにいる人達や生き物の命も出来うる限り 大切にしたいと思った次第です。 ●時計の小話 第150話(IWCの新作について)●若い時からインターナショナル腕時計の修理が一番好きだった私でしたが、最近のIWCは自前の機械ではなくETA社のムーブを搭載しているのが多く、少し残念な気がしていました。しかし、最近IWCから発売されたビッグパイロットウォッチ(SSケース 125万円)は、 久しぶりに鼓動が早くなるような興奮をおぼえるムーブを搭載している時計かなと思います(定価が高くてちょっと手が出ないのがくやしいですが)。 キャリバーは5011でロービートの18,000振動、7日間のロングパワーリザーブ機能を備えています。 昔のインターナショナルのように、ブレゲ巻上げヒゲゼンマイを採用しているために、ロービートでありながら、高精度が出る仕組みになっています。 また、自動巻き機構はインターナショナルが発明した「ペラトン」機構を採用し、効率のいい巻上げ方式です。 写真で見た限りでは、本当に懐かしいインターナショナル腕時計の味が濃くにじみ出ているムーブメントだと思います。 30〜40年前以前のインターナショナル腕時計のヒゲゼンマイは、平ヒゲではなく、ほとんどブレゲ巻上げヒゲゼンマイを採用していたために、調整は難しくても、高精度の出る本当にイイ腕時計でした。 最近の機械式腕時計のムーブは平ヒゲゼンマイが多いのですが30〜40年前以上のスイス高級機種ではブレゲ巻き上げヒゲが主流でした。 ROLEXと言えば巻き上げヒゲの代名詞みたいな機械でしたがROLEXでさえ、この頃Cal3000のように平ヒゲを採用しつつあります。 GS(グランドセイコー)が平ヒゲであるにもかかわらず高精度が出るのは、ヒゲ玉のピンニングポイントの内端を重力誤差を受けないように理想カーブにしているからなのです(盛岡セイコーで、この調整作業が出来る人は2人しかいないそうですが、少しさみしいですね)。 ●時計の小話 第151話(おもしろい自動巻き)●最近修理した中で、面白くて奇抜な発想の自動巻き腕時計に巡り会いました。東京のT様から修理依頼受けたオーディマ・ピゲ自動巻き腕時計Cal.K2120 36石が、その一つです。 自動巻錘(ローター)は、普通ネジ留めしたり、クサビ留めです。 このオーディマ・ピゲはクサビ留めでしたが、地板の外側にくるくる回る小さなルビーのローラーが何箇所かありました。 そのルビーの上を、自動巻錘ローターがすべり台の上をなめらかにすべるように回転する工夫がされていました。 その工夫のために、ローターが上下に波立つような振動が全く解消されていました。 スムーズにゼンマイが巻き上げられるようになっていました。 もう一つの面白い時計は、三〜四十年前のジャガールクルトの自動巻き時計Cal.481 17石です。 ローターの片方にスプリング(渦巻状のバネ)が取り付けてあり、地板に固定してある停止ブロックにローターがぶつかっては、また反対の方向に敏感に動くような工夫がされていました。 バネの反発力を利用して、ローターがあっち行ったりこっち行ったりで、これは本当に見ていて楽しい自動巻き機構でした。 両方とも裏シースルーバックにしたら、現在でもとても人気の出る機構だと思いました。 この二つの自動巻機構が他にお目にかかれないのが不思議な気がします。 バセロン・コンスタンチン、オーディマ・ピゲ、パティック・フィリップ等のスイス高級腕時計の自動巻きは、薄さの限界を追求した時計です。 歯車、地板等が、出来うる限り贅肉を取り除かれた、美しい見事な作り栄えです。薄くすることはとても技術力がいることなのです(修理もそれなりに大変ですが)。 上記の3社に匹敵する時計メーカーが、ジャガールクルト社です。 最近、「マスターコンプレッサーメモボックス」という新機軸のアラーム時計を開発し、 売り出しました(2時と4時の位置にあるリューズに、独自に開発した圧縮システム機能が付いており、以前のメモボックスと比較して防水性能が飛躍的に良くなりました)。 定価が89万円と、無理すれば手に届く価格で売り出されたのはうれしい限りです。 最近発売されるスイス高級時計が云百万円台以上が多いのにウンザリぎみの私にとってホッとしました。 各スイス時計メーカーはユーザー(時計愛好家)の価格面でのニーズを的確に把握しているのか疑問に思います。 何かしら突拍子の無いものを作って自画自賛しているような気がするのですが。 ●時計の小話 第152話(ETA社のメカ式・ムーブメント達)●日本で発売されているスイス高級腕時計の大多数が、ETA社のムーブメントを採用しています。メカ式に関してはETA社の寡占率はスイス製時計の70〜80%を超えているものと推察します。 ETA社ムーブメントを搭載している時計メーカーを列挙すれば、IWC、オメガ、ユリスナルダン、ジラール・ペルゴ、タグホイヤー、ブライトリング、モーリス・ラクロア、NOMOS、ラドー、エテルナ、ロンジン、PANERAI、チュードル、エポス等、枚挙にいとまが無いほど多いです。 ここで頻繁に採用されているETA社の代表的メカ式・ムーブメントを紹介してみます。 【メンズ用ムーブメント】 1. ETA社の代表的ムーブメントが、クロノグラフのCal.7750でしょうか。 (時・分・センターセコンド・クロノグラフ秒針・30分と12時間の積算計・デイデイト・オートマチック・厚さ7.9mm・17〜25石)です。 スイスのありとあらゆるクロノグラフ時計メーカーに採用されています。 カム式ですが安定した信頼のおけるリーズナブルな汎用ムーブメントです。 ブライトリング、IWC、オメガ、タグホイヤー、オリス、ジン等に使用。 2. 同じくクロノグラフ専用Cal.7751 (Cal.7750にポインターデイト・ムーンフェイズ・スモールセコンド・12時位置の曜日と月の表示・24時計を加えたもの)はカレンダー・クロノグラフと呼べるものです。 3. Cal.7760…・・手巻きのクロノグラフ(スペックはCal.7750と全て同一)。 4. Cal.7001…メンズ用17石の基本的な手巻きムーブメント (時・分針・スモールセコンド)。 5. Cal.2892-2…スイス高級時計に頻繁に使われている汎用オートマチック・デイデイト付き。 主にIWCマークXV、オメガシーマスター、ユリスナルダン、フレデリック・コンスタント等に搭載されています。 6. Cal.2846…・・3〜15万円の間のスイス時計に一番多く使われているムーブメントです。 オートマチック デイデイト装備モデルでは耐久性とコストパフォーマンスが秀逸です。 7. Cal.2893-2…これは、Cal.2892-2に24時針を付けたGMT機能のムーブメントです。 8. Cal.2891A9…自動巻き永久カレンダー(時・分・デイデイト・月・年・うるう年・ムーンフェイズ) 9. Cal.2801-2…3針の手巻きモデル。厚さ3.35mm。 10. Cal.6497…スモールセコンド付きの手巻き懐中時計ムーブメント。 主にパネライ・ルミノールマリーナ(パネライキャリバーOP1、OP2)、フレデリック・コンスタントの懐中時計(定価31000円)等に使用。 基本的に同じムーブを使ってパネライ・ルミノールマリーナとフレデリック・コンスタントの値段の格差に唖然としてしまいます。 【レディース用ムーブメント】 1. Cal.2660…時・分・センターセコンド・28,800振動のハイビート。 2. Cal.2681…スイス婦人用並級品時計で、カレンダー付き自動巻きはほとんどこのムーブメントが入っています。 3. Cal.2000…スイス高級婦人用時計に多く採用されているムーブメントです。 3.6mmという薄型です。28,800振動のハイビート。 4. Cal.2685…Cal.2681にムーンフェイズを備えたムーブメントです。 5. Cal.2688…Cal.2681と共にETA社が誇る代表的婦人用ムーブメント。 デイデイト、オートマチック。オリス等に搭載。 読者の皆さんが持っておられるメカ式スイス腕時計にETA社のどのムーブメントが入っているのか調べてみるのもイイかも知れません。 その他に代表的なETA社のクォーツ・ムーブメントが30種類以上あります。 ●時計の小話 第153話(セイコー・シチズン社の動向)●Yさんという方から、最近発売されたグランドセイコー(SBGR025 定価48万円)の注文を受けました。メカ式セイコーGSでは初めての裏シースルーバックで、ケースとバンドがブライトチタンを使用している、非常に魅力のある商品であると、すでに私は時計雑誌から情報を得ていました。 弊店でも在庫を1本持とうかなーと思った矢先の注文でした。 でも少し仕入れるのに懸念がありました。 時計雑誌の紹介では、このGSの取扱店が限定されているような気がしたからです。 注文を受けたので早速、今週の月曜日17日の日にセイコーウォッチ(株)に電話発注しました。 やはり、受付の女性社員の方のお話では「このGSは限定商品で、GSショップしか売らない」と言う返事でした。 ここで引き下がるわけにはいかないので、セイコーウォッチ(株)幹部のSさんに代わってもらい、何とか注文を受けたので1本融通してもらうわけにはいかないかと、粘り強く交渉しました。 しかしSさんの話によると「このGSは年間一千万円以上、GSを販売する店のために商品化した特別のGSである」と言うことでした。 有名百貨店の時計売場から「一般時計小売店が仕入れできない、特別なGSを開発商品化して欲しい」との依頼を受け、製品化したGSなので、イソザキさんのような一般の小売時計店には卸さないという話でした。 人口7万の松任市で、メカ式GSを年間10本前後売る当店は、それなりに販売営業努力をして、売ってきたつもりなのです。 人口100万以上の大都市の大型時計店では、年間50本以上GSを売る店もあるかもしれませんが、もともと上がった土俵(都市の規模)が最初から違うのです。 そういう事を分かってもらえず、非常に残念な思いをしました。 メカ式GSは35万円以上するので、時計店店主がメカ式GSに惚れ込まないと、なかなか売れる時計ではありません。 なぜなら、その価格帯にはスイス高級時計の魅力のあるブランドが一杯あるからなのです。 そういう店のメカ式GSに対する店主の意気込みをセイコーウォッチ(株)の幹部社員の人達が理解してくれなくて、大変悔しい思いをしました。 時計小売店を営業してきて、お客様が欲しいと言う時計を入手できない時ほど、辛い思いはありません(スイス高級腕時計の代理店制度の場合、日本輸入元と契約していなければ仕入れできないのはやむ得ないのですが、セイコー、シチズンは全国のどこの小さな時計店でも仕入れできるのが当り前だからです)。 ほとんどのメカ式GSが入手できるのに、その1機種のみが入手できずにお客様に売れないと言う事は、店にとっての信用問題にも関わる大きな問題であることを、セイコーウォッチ(株)に理解して頂きたいと思います。 このやり方は、例えて言えば時計小売店が、ある人にはGSを売り、またある人にはGSを売らないという、店の勝手で差別しているようなものだと私は思います。 セイコー社は長年業績が悪く、苦労しているのに、このようなやり方で業績を回復するのは、大変難しいのではないかと思った次第です(創業者、服部金太郎翁が生きていたら、このことに対してどう思われるのか聞いてみたいものです。必ずや今のセイコー社の幹部を叱責されるに違いありません)。 北陸3県でこのグランドセイコー(SBGR025 定価48万円)を売れる店は、石川県K市の一店舗だけです。 例えば福井、富山県の人がこのGSを買いたいと思っても、わざわざ石川県K市まで来ないと買えない訳です。 そのことをセイコーの幹部の人達は解っているのでしょうか? ユーザーの方の購買意識はどんなものなのか、わかりませんが、おそらく、購入したい時計の魅力+何%かは懇意・信用している時計店で買いたいというものではないでしょうか。 残念ながらシチズンでも最近同じような事がありました(カンパノラの場合でした)。 ●時計の小話 第154話(現存するスイス・エボーシュメーカー)●スイス・エボーシュメーカーではダントツにETA社が有名ですが、他にも素晴らしい技術力を誇るエボーシュメーカーがあります。代表的なものに、フレデリック・ピゲ社、ヌーベル・レマニア社、ケレック社 (このメーカーのみケレックのブランドで腕時計を販売しています。日本総代理店は栄商会でクロノグラフに強いメーカーです)でしょうか。 フレデリック・ピゲ社はブランパンにムーブメントを供給しています。 フレデリック・ピゲ社の協力なくしてはブランパンの見事な復興は有り得ませんでした。 フレデリック・ピゲ社は19世紀半ば創業の150年以上の歴史ある著名な時計ムーブメントメーカーです。 一般の方にはあまり知られていない時計会社ですが、業界では高度な技術力を保持し続けた伝統ある会社として知れ渡っています。 工房はブランパン社の隣に立地しています。 フレデリック・ピゲ社の主なムーブメントを一部紹介します。 Cal.1185…自動巻きクロノグラフ、直径25.6mm・厚さ5.4mm Cal.1150…デイト機能付き自動巻き Cal.1153…二つの香箱を装備した100時間駆動の自動巻き、 直径25.6mm・厚さ4.9mm Cal.21…時分針のみの手巻ムーブメント、直径20.4mm・厚さ1.73mm Cal.6.10…レディース用の手巻きムーブメント、直径15.3mm・厚さ2.1mm (このムーブメントを自動巻きにしたのがCal.150です) スウォッチグループのレマニア社は、同じく復活したブレゲ社やオメガ社に機械を供給しています。 ブランパン社の復活と同じように、ブレゲ社もレマニア社の協力がなければ復活は有り得ませんでした。 レマニア社はカルティエにもムーブを供給しています。 ブライトリング社と仲のいいケレック社は、ブライトリング社の傘下に入りました。 これからもいろんな資本の統廃合がスイス時計業界には繰り返されていくに違いありません。 ●時計の小話 第155話(NHK番組)●昨日、NHKで朝、放送された番組『スイス独立時計師達の小宇宙』を皆さん見られましたか?非常にイイ番組でしたので、一時間余りがアッと言う間に過ぎてしまいました。 特に、フィリップ・デュフォーさんの時計工房には目を見張るものがありました。 個人であれだけの時計工具を揃えられた事は、やはり歴史のある時計王国スイスに生れ住まわれている事がどれだけ有利に作用したかわかるものです。 私も時計修理に長年携わってきて、ほとんどの時計修理工具を持っていますが、あれだけの時計工具を揃えられたデュフォーさんが羨ましく感じました。 デュフォーさんが番組の中で、時計は所有者と会話を交わすような愛着が覚えるものである、と言われてましたが、全くの同感です。 特に手巻き時計は、リューズでゼンマイをまかなければ動かないのですから、毎日必ず1回は時計と向き合う必然性があるのです。 フィリップ・デュフォーさんの手巻きの時計を1本持ちたいのですが、高くて手が出せないのが残念です。 最近、スイス時計業界は複雑時計を競って開発して売り出していますが、デュフォーさんが言われていたように、長持ちして愛着を覚える時計は、やはり複雑時計ではなくて、シンプルな手巻き腕時計が一番いいと思います(何と言っても手巻腕時計は故障の原因が少なくて、長寿命だからでしょう)。 もう一人のアントワーヌ・プレジウソさん作のダイヤを散りばめたスターダスト・トゥールビヨン腕時計は、宝飾時計として素晴らしい輝きを持っていましたが、個人的には私はあまり好きにはなれない腕時計でした(成金趣味の時計のような感じがして厭味を感じたのは私一人だけでしょうか?)。 そういえば、当店担当のユーロ・パッションの営業マンT君はトノー型のプレジウソをはめていました。 この番組は6月18日夜にハイビジョンで放送されました。 4月、NHKのK氏からこの番組に対しての協力申し込みがありましたが、修理・営業等で大変で、お断りしたいきさつがありました。 この番組を見て、素人の方が時計をわかりやすく説明・制作されていた事に敬意を表したいと思います。 以前に民放が『スイス時計紀行 永遠の時を求めて』を昨年放送しましたが、それと比較して、数段上の素晴らしい番組でした。 ●時計の小話 第156話(冷や汗)●最近修理中で、この蒸し暑いのにゾーと寒気が襲った事がありました。熊谷市のY様から修理依頼受けた、セイコーベルマチック(4006A 27石 1968製 諏訪精工舎)の修理です。 裏ブタを開けてみましたら自動巻き機構が錆びていたので錆をキレイに落としました。 回転するアラームメモリー板を押さえるバネも折れていたので、それを別作調整して、部品総数200前後のものを全てバラシて洗浄し、組立注油の段階に入りました。 輪列、1番、2番、3番、4番、ガンギ車、と組立てようとしたところ、どうしてもうまく組立がいかず、ホゾを確認してみたら、ガンギ車の上ホゾが折れているではありませんか。 「うわー、なんだこりゃー!」と思いました(ガンギ車のホゾが折れている事は滅多にありません。折れているのは年に1回か2回くらいでしょうか)。 分解する前に、まさか折れているとは思わず、確認しなかったのがミスでした(馴れはダメですね)。 分解する前に折れているのがわかれば、古い時計なので修理依頼を断わっていたのですが、全て分解洗浄した後なので、バラしてお客様に返すわけにもいかず、組立して返却しなければならないので、6時間という貴重な作業時間が失われるのにガックリしました(もちろん修理料金を1円もいただくわけにもいきません)。 わらにもすがる気持ちで、当店取引先のS時計材料店にガンギ車の在庫を問い合わせましたが、アッサリと「古いのでもう無いです。」と言われてしまいました。 無くて元々なので、全国アッチコッチの時計材料店に問い合わせましたら、何と、最後に聞いた大阪のT時計材料店に、34年前のそのガンギ車があるという事でした。 その時の嬉しさはROLEXを販売した時の喜びと同じような大きさでした。 「ワァー、あった」と思わず声に出したほどでした。 やはり、耐震装置が付いていない腕時計の歯車を分解する時は、面倒でも万が一があるのでホゾの確認をしなくてはだめだ、と改めて認識した次第です。 ●時計の小話 第157話(ヒゲ棒)●先週のNHKの番組『スイス独立時計師達の小宇宙』を見てて思い出したことがありました。プレジウソさんが緩急針のヒゲ棒2本を取り付ける作業をされている場面がありました。 それを見てCMW試験の事が彷彿と浮かび上がりました。 CMW2次試験の19セイコー(試験教材)ではヒゲ棒2本が見事に折れていました。 旋盤で真鍮を荒削りだし、細ヤスリで長さ2mm、太さ0.10mm〜0.15mmのテーパー状に作り、油砥石で荒磨きをし、サファイヤまち切りで仕上げ研磨をし、2本作った事が昨日の事のように思い出されました。 ヒゲ棒の表面をピカピカに光るくらいキレイに研磨しなければ、2本のヒゲ棒の間に挟まれたヒゲゼンマイがうまく両当たりしないで抵抗値が大きくなり、歩度に大きく影響を及ぼすからなのです。 2次試験の19セイコーは、ヒゲ棒2本折れ・アンクルドテピン2本折れ・天真折れ・ヒゲゼンマイ内端外端壊れ・アンクル石外れ等の様々な故障が故意に作られていました。 試験が始まる前に、試験教材を渡された受験生に向かって多田試験官が「何か不都合なわからない点がありますか?」と問われました。 ある受験生が挙手して「先生、ヒゲ棒とかドテピンが折れてますから、まともな物に交換して下さい。」と言いました。 すると、多田稔先生が「それを直すのがCMW試験やで」と言われ、みんながワァッと笑った事が懐かしく思い出されました(緊張感が漂う雰囲気がそのことで一変に和んだことが思い起こされました)。 私はCMW受験講習会を受けて、19セイコーがめちゃくちゃに壊れているのを前もって知っていましたので、動揺は余りしませんでしたが、その方は試験当日初めて知ったわけですから、とても動揺したに違いありません(あの人は合格したのかなー?心が動転してダメだったのかなー?)。 ●時計の小話 第158話(初代グランドセイコーNo.2)●5月19日、修理実績に初代グランドセイコー(Cal.3180 25石 手巻き)を載せて以来、全国の読者の方から、同じ初代グランドセイコーの修理依頼が当店に多く来るようになりました。ホームページを開設するまで、この初代グランドセイコーのOHの機会は7〜8年に1回くらいしかなかったので、さすがインターネットの力はすごいなーと感じます。 そして、セイコー舎の熱烈なファンが世の中にまだまだ沢山おられる事に驚嘆しています。 そう言う私も精工舎の機械の熱烈なファンの一人でもあるのですが(それと比較してシチズンのGSにあたるグロリアス・シチズンの修理依頼が1個も来ないのにはどうしてでしょうか?やっぱりGSのようには沢山売れなかったのかなーと思ったりしています)。 1960年に発売されて以来40年以上を過ぎているにもかかわらず、分解掃除調整をすると、見事に動き出し精度が蘇るのには驚きます(やはり手巻きは長寿命ですね)。 各種歯車の素材強度や、歯車・天府等を大きめに設計している為や、ホゾ(心棒)を太めに作っている為に、へたる(磨耗)事なく、長年の使用に耐えられる構造になっているものと推測します。 そのころの諏訪精工舎・腕時計設計技師の技量に拍手拍手です(私はどちらかと言うとCal.45系、5146A、5206A等を製造してきた第二精工舎の方の機械の方が好きでした。諏訪精工舎の機械は組み立て調整がし易い明瞭簡単な設計ですが、第二精工舎の方の機械はあえて言うと通好みの機械と言えるでしょうか?。) 現セイコーウォッチ(株)のM社長は、この初代グランドセイコーを現在、所持愛用されているそうです。 営業マンであった若い時、この時計を全国の時計店に売りまくったそうですが、とても高くて自分では買えず、羨望の対象としてしか眺められなかったそうです。 今になってやっとその夢が叶い、初代グランドセイコーを入手して、腕に時折はめられているそうです。 でも腕につけることが恐れ多くてなかなかはめられないそうですが(当時のGS価格は¥25,000円、大卒初任給の2倍の高級時計でおいそれと買える時計ではなかったのです。現在の価格にすれば35万円以上でしょうか?不思議と今のメカ式GSの価格と符号しますね)。 ●時計の小話 第159話(セイコー・ローレルについて)●最近、1996年発売の復刻版セイコーローレル(Cal.4S24A)を修理しました。『ローレル』と言うブランドは、精工舎が大正2年(1913年)に初めて腕時計を発売した時計に付けた、由緒ある歴史的な名前です。 その時、文字板には「SEIKO」の文字はなく、「LUREL」ローレルの文字がどーんとありましたが、しばらくして1924年、「SEIKO」ブランドの腕時計が発売されてから、ローレルのブランドは消滅したのです(精工舎にとって思い入れのある、おろそかに出来ない名前だと思います)。 そして長い休眠後、昭和33年(1958年)に中3針のローレルが復活し、そして3度目の復活が1996年のローレル手巻腕時計だったのです。 今回のニュー機械式ローレル腕時計の分解掃除調整をするにあたり、現在のSEIKOの若い時計設計士がどのようなムーブメント作りをしているか、ものすごく興味津々でした。 分解する途中、どこかで巡り会った事があるような、懐かしい思いが起こるような機械だったので、記憶をたぐり寄せてみますと、キングセイコー・クロノメーター(Cal.52系)と輪列・日の裏機構・ゼンマイ巻き上げ機構・ハック機構がほとんど同じであることに気が付きました。 その事がハッキリわかり、もっと斬新な新機構のムーブメントだと思っていたので少し残念に思いました(受地板をグラスヒュッテ特有の4分の3・スケールプレートにして綺麗にまとめてはいましたが)。 このCal.4S24Aにパワーリザーブ針を付けて発売されたのがCal.4S79で、クレドール(GCAY990定価33万円)に搭載されて発売されました。 おそらく機械の系譜から推測すると、このローレルは諏訪セイコー(現セイコー・エプソン)ではなく第二精工舎(現・セイコーインスツルメンツ)で製造されたものではないでしょうか? ●時計の小話 第160話(ユニバーサル・ポールルーターについて)●修理実績にユニバーサル腕時計(Cal.69)を載せてから、ユニバーサルの修理依頼が時折来るようになり大変嬉しく思います。以前に話しましたが、私はユニバーサルが旧インターナショナルと同じくらいに大好きで、ユニバーサル・ホワイトシャドーを常日頃、愛用してきました。 私がユニバーサルが好きな理由は、薄くて軽くて精度が良くて、機械の作りが美しく、自動巻き機構が独自のものだったからです。 特にクロノグラフに優れたものが多いのが特徴で、ゼニス・エルプリメロよりも勝るとも劣らない秀逸さがありました(現今のあからさまな儲け第一主義の一部のスイス時計業界にはない良心的で地道な社風も好きでした)。 ユニバーサルのかつての日本輸入代理店は、同じように良心的な社風の(株)村木時計で、そこで私は1年間、時計技術の通信教育を受けました。 (株)村木時計・技術顧問の、米国時計学会ヘイガンス賞受賞・菅波錦平先生には 大変お世話になりご指導を受けました(私は時計技術の基礎及び修理の心構えを菅波錦平先生に教わり、時計技術の基礎理論を行方二郎先生に教わり、時計旋盤・CMW受験のための基本を加藤日出男先生に教わりました)。 ある意味で恩返しではないですが、ユニバーサルを愛用した理由の一つでもあります。 ユニバーサル社は1894年創業の歴史がある由緒ある時計会社です。 ユニバーサル社が製造してきた主な時計をここに列挙してみたいと思います。 時計マニアの方の垂涎の的とも言えるクロノグラフがあります。 『ユニバーサル トリコン・パックス』がそうです。 月齢・曜日・日付け・ストップウォッチ秒メモリ・ストップウォッチ分メモリ・ストップウォッチ時メモリのフルカレンダー付きで、耐震・耐水・耐熱・耐寒・耐磁・耐圧機能付きのフル装備でした。 1963年に発売され、当時の価格で109,000円した高級機種でした(1960年発売の初代グランドセイコーがその当時25000円でしたからその4倍の価格でした。現在の価格に換算したら130万円くらいでしょうか?) ロレックスのサブマリーナに匹敵する人気の防水時計がユニバーサル社にもありました。 『ポールルーター・サブ』がそれで、200mの深海の水圧に耐える、スキンダイバー用の腕時計でした。 この時計は秀でた防水性能・耐久性からアメリカ海軍にも公式採用された信頼のおける時計でした。 40年前で77,000円しました(今もそうですが、本当に良いスイス高級時計は当時も高かったですね)。 愛用したホワイトシャドーもそうでしたが、『ポールルーター・デイト』もマイクロローターを採用した、当時で世界で一番薄い自動巻き腕時計でした。 ローターはプラチナとほとんど同比重の特殊金属を使用していた為に、自動巻き上げ効率は素晴らしいものでした。 自動巻き・中3針・カレンダー付きで、厚さはわずか4.1mmでした。 ゼンマイが一杯巻かれた場合、駆動時間は実に60時間と言う驚くべき設計がされていました。 1964年の当時の価格で、68,000〜89,000円しました。 ユニバーサルのドレスウォッチには人気の『アルテッセ』と言うシリーズがありました。 手巻きで17石、ムーブの薄さは2.45mm、直径は19.4mmの超薄型でしたが、非常に精度の良い時計で、いろんなデザインのおしゃれな時計がありました。 当時の価格で、60,000円前後しました。 願わくばユニバーサル社もブライトリング社のように見事に復活して欲しいと思っております。 世界中にはROLEXに負けないユニバーサルの熱烈なファンの方々が一杯おられるものと想像します。 |
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